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2022年06月01日 (水)

番組担当プロデューサー・取材見てある記vol.1 獣害 転じて福となす【1】島根県美郷町の地域づくり

2022年6月11日(土)に放送予定のNHKスペシャル「獣害を転じて福となす~雅ねえと中国山地の物語~」。この番組は、江の川が流れる中国山地の小さな町・島根県美郷町で進められてきた、獣害をきっかけにした地域づくりの物語を描いたものです。実はNHKでは、この町の歩みを2018年から記録し続けてきました。NHK地域づくりアーカイブスには、美郷町の動画が9本入っています。担当した棚谷 克巳プロデューサーに、島根県美郷町の地域づくりの魅力について動画を使いながら紹介してもらいました。

獣害対策に取り組む女性たち――島根県美郷町

 2018年の初め頃だったと思います。私(プロデューサー棚谷)は、日曜日朝の総合テレビで年間10本放送される「明日へ つなげよう ふるさとグングン!」という番組を担当していました。この番組は、地域に深刻な課題を抱えている人々が、その課題について精通している専門家を現場に招いて学び、ふるさとをグングン良い方向に変えていく、という番組です。私は、いつものように、その番組で取り上げる新しいテーマを探していました。

 すると「中国地方に、ハンターに頼るのではなくて地元住民、特に女性が中心になって獣害対策を進めている町がある」という情報が取材先からもたらされました。私は、獣害のことはよく知りませんでしたが、「獣害対策に女性が参加している」という点が、とても新鮮に感じられ、早速、後藤秀典ディレクターと一緒に、島根県美郷町に向かいました。

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島根県美郷町

初めて見た美郷町の獣害をきっかけとした地域づくりは、驚くことばかりでした。この町には、獣害対策の著書をたくさん書いている獣害研究家の井上まさてるさん(通称雅ねえ)が住民の1人として暮らしていました。雅ねえは、住民と一緒に、どうやったら獣害を止めることが出来るかを研究するための実験圃場「青空サロン畑」を運営していました。

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 青空サロン畑で学ぶ 住民たちと雅ねえ

参加者の多くが、高齢の女性です。また女性たちは、獣害から守り抜いた野菜を販売する直売所、「青空サロン市場」も作っていました。さらに、駆除されたイノシシの皮を使ったクラフト作りもしていました。

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イノシシの皮を使ったクラフト作り 

週1回集まって、バッグや財布、キーホルダーなどを、イノシシ皮で作ります。婦人会のリーダー、安田兼子さんは「楽しんでやっています。地域が明るくなったし、みんなが生き生きとしています」と話してくれました。

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イノシシ皮のキーホルダー

地域づくりの仕掛け人 美郷町役場 獣害担当 安田亮さん

なぜこの町は、こんなことになったのか。調べていくうちに、ここには「地域づくりの総合プロデューサー」がいることが分かりました。美郷町役場で20年以上、獣害対策に関わる仕事を続けている、安田 亮さんです。獣害研究家の雅ねえを町に招いたのも、女性中心の獣害対策を後押ししてきたのも、安田さんでした。

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美郷町役場 獣害担当 安田亮さん

町役場の獣害担当だった安田さんが、「獣害対策は、新しい地域づくりの原石になる」と気がついたのは、2000年のことだったといいます。その頃から安田さんは、まずハンターや長大な柵頼みだった獣害対策を、住民が主役の獣害対策に変えていきました。そのために、ワナの狩猟免許を住民にとってもらい、ハンターだけでなく住民も、イノシシなどの駆除に参加する仕組みを作りました。そして、役場が後押しをして町内に食肉加工会社を作り、肉質を美味しく保つため、捕獲されたイノシシを生きたまま処理施設まで運ぶ「生体搬送」のシステムを構築しました。さらに、有名レストランのシェフに監修を頼んで、ジビエ料理の缶詰を製造する工場も作ったのです。この缶詰は、評判を呼びました。

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シェフ監修のイノシシ肉を使った料理の缶詰

島根県美郷町には、全国から年間1000人もの視察団がやってくるそうです。獣害の被害に苦しみ、有効な対策を打てずにいる市町村がいかに多いかを、この数字は示していると思います。私たちが美郷町を初めて訪れたとき、三重県津市から津市役所の獣害担当 福田省吾さんたちがやってきていました。津市の様子を伺うと、やはり獣害が深刻で、対策に苦慮しているというお話でした。

こうした出会いから、2018年6月17日放送の、「ふるさとグングン」が制作されました。この番組は、前述したように、地域に深刻な課題を抱えている人々が、その課題について精通している専門家を現地に招いて学び、ふるさとをグングン良い方向に変えていく、というものです。私たちは、三重県津市の方々と相談し、現地に、獣害対策の専門家として安田さんに行って頂くことにしたのです。

獣害の原因は 動物ではなく人間

NHK地域づくりアーカイブスの中には、「ふるさとグングン」から切り出した以下の3つの動画が収められています。最初の動画「動物の視点で集落を見てみると」に描かれているのは、今の集落というのは、過疎化によって、耕作放棄地や空き家がいっぱいあって、動物の“潜み場”がたくさんあるということです。そしてもう一つは、高齢化による人手不足で、収穫されずに放置された柿の木や畑にはクズ野菜などが捨ててあって、“エサ場”には事欠かないこと。つまり、「獣害の原因は動物ではなく、人間なのだ」という、新しい考え方が提示されています。

さらに、番組の舞台となった津市美里町足坂集落のような農村でも、人口減少と高齢化が進む中で、人と人のつながりが希薄になり、力を合わせて獣害に立ち向かうことが難しくなっている現実が描かれています。こうしたことを、まとめて考えると、「獣害とは、コミュニティーの衰退が生み出したものだ」ということが分かってきます。

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ネギなどの野菜を捨てたままの畑が 野生動物のエサ場に

獣害対策をきっかけに地域コミュニティーが再生

次の動画「獣害を資源に変え元気を取り戻した町」では、三重県津市足坂集落の人たちが、安田亮さんが暮らす獣害対策先進地・島根県美郷町に視察に向かう様子が描かれています。視察団は、どうやったら獣害を止めることが出来るかを研究するための実験圃場「青空サロン畑」で獣害対策の様々な工夫を見て感心しきり。獣害から守った野菜を直売する「青空サロン市場」も訪ねます。

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みんなの直売所 青空サロン市場

この二つの場所の名前には、サロンという言葉が入っていますが、その言葉通り、この二つの場所は、住民の交流の場、情報交換の場になっています。今では、獣害対策をきっかけに、団結心が生まれ、明るい笑顔に包まれている島根県美郷町の人たちですが、かつては過疎化と人口減少が急速に進み、コミュニティーが衰退していたといいます。地域の課題である「獣害」を何とか解決しようと、人々が集まり、力を合わせ、支え合うようになって、コミュニティーの再生が実現していったといいます。

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 視察団を迎えた日の朝食会

視察団は次に、駆除されたイノシシの皮を使ったクラフト作りを見学。バッグや財布、名刺入れなどを、お土産として購入しました。さらに、イノシシ肉の缶詰め工場を見学しました。ここには、若い移住者が働いていました。島根県美郷町の獣害対策は、コミュニティーの再生や生きがいの創出だけでなく、雇用の創出、移住者の定住にもつながっていました。

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ネット販売されているイノシシ肉「おおち山くじら」

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 食肉加工場で働く若い移住者たち

視察で学んだことを、自分たちの地域でも実践

3番目の動画、「獣害対策に立ち上がった女性たち」は、視察を終えた足坂集落の人たちが自分たちの集落に帰って、みんなで放置されていたキンカンの木を切るところから始まります。「自分たちの畑は、自分たちで守る」という、視察で学んだことを行動に移したのです。また、地元特産の大豆を使って、何か加工品が作れないかと地域の人たちが集会所に集まって、楽しそうにワイワイガヤガヤ話し合いを始めます。ここでも、コミュニティーの再生が、始まっていました。

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特産の大豆を使った加工品の試食会 

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試作品の一つ おからサラダ

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