放送研究と調査(月報) - 目次

各国の「放送界の動き」に関する情報を掲載しています。

放送界の動き

中国政府,高速鉄道事故の報道を統制

中国浙江省の温州市で7月23日,高速鉄道の衝突事故が起き,少なくとも40人が死亡した。この事故について中国メディアは当初大々的に報道,高速鉄道を管轄する鉄道省への批判的な論調も見られた。しかし,中国共産党中央宣伝部は29日の夜,新聞やインターネットのニュース編集者に対し,事故についての報道を抑制すると共に,肯定的なニュースや当局が公式発表したニュース以外は報道しないよう指示した。これに対し,一部の記者や編集者は,削除された記事をミニブログに掲載するなどの方法で,当局に抗議の意思を示した。

香港,ATVが「江沢民前国家主席死去」と誤報

香港の地上テレビ局ATVが7月6日, 中国の江沢民前国家主席が死去したと夜のニュースで伝えた。この情報は日本と韓国の一部メディアも報道したが,翌日中国国営の新華社が報道を否定,ATVも謝罪の声明を出した。この問題でATVのオーナーの王征氏はメディアに対し,「私もニュースを見て初めて知った」と答えたが,ATVの複数の報道担当者は,「オーナーの指示で放送した」と証言しており,どのような経緯でこうした誤報が生まれたのか,様々な憶測を呼んでいる。一方,この問題に関して中国政府は情報統制を強化し,ネット上で「江沢民」,「総書記」,「心筋梗塞」といったキーワードでの検索ができなくなった。

韓国,KBSの受信料引き上げならず,役員ら辞表提出

現行の月額2,500ウォン(約190円)を3,500ウォン(約260円)にするとしたKBS の受信料引き上げ案は,6月の国会で,野党民主党の反対により不成立となった。この責任を取る形で,KBSでは副社長ら幹部役員7人が辞表を提出したが,キム・インギュ(金仁圭)社長は辞表を受理せず,受信料引き上げ担当のイ・ドンシク(李東植)政策企画本部長のみを7月8日の人事異動で更迭,後任にイ・ジュンサム(李準參)放送文化研究所所長が就任した。

インド,商業FM放送の地域と局数大幅拡大

インド政府は7月7日,商業FM放送の3期目となる拡大計画に向け指針を決定した。これまでの1~2期計画で86の都市に250近い商業FM局が誕生しているが,今回の指針により免許交付の対象都市に人口10万以上の市町227が新たに加わり,計839の新FM局に免許が交付されることになった。免許にはオークションが実施されることになっており,政府は173億3,000万ルピー(約340億円)の収入を見込んでいる。今回の指針ではFM放送事業へのFDI(外資直接投資)の上限がこれまでの20%から26%に緩和された。また,商業FM局はこれまでニュースを扱うことが全面的に禁じられていたが,公共放送AIR(All India Radio)の原稿をそのまま使用することを条件に解禁された。

インド,ドゥールダルシャン新局長決まる

国内唯一の地上テレビ局で,法定の公共放送機関であるインド放送協会の下に置かれているドゥールダルシャン(Doordarshan)の新局長に,7月25日,トゥリプラーリー・シャラン(Tripurari Sharan)氏(50)が任命された。任期は3年。シャラン氏はIAS(Indian Administrative Services)出身の幹部公務員で, 直前にはFTII(Film& Television Institute of India:インド国立映画・テレビ研究所)所長を務めていた。ドゥールダルシャンではアルナ・シャルマ(Aruna Sharma)前局長が,インド放送協会最高経営責任者B.S.Lalli氏と共に不正経理の疑惑にさらされて辞任,数か月にわたって局長代行が置かれていた。

ニュージーランド公共放送TVNZ「憲章」が廃止に

ニュージーランドの議会は7月12日,『2011年TVNZ改正法』を賛成多数で可決,公共放送の使命や役割などを明文化した「TVNZ憲章」が廃止された。「憲章」はTVNZに,商業的収入は見込めずとも,ニュージーランドの社会や独自の文化を反映した国内制作番組を放送することなどを求めていた。コールマン放送相は,法改正でTVNZは今後,視聴者の要望に柔軟に応えるデジタルメディア企業としての活動に専念できるとしている。これに対し野党の労働党や緑の党は,公共放送の責務の放棄は商業放送との区別をなくし,健全な民主主義を脅かすなどとして強く批判している。