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おもちゃで林業活性化へ 東京・檜原村~大学生のアイデアを活用!

  • 2024年2月21日

島しょ部を除くと東京都で唯一の村、檜原村。面積の93%は山林です。かつて盛んだった林業は外国産の木材の増加などで次第に衰退していきました。
「檜原村の林業を復活させたい」
村や企業、大学生が協力して取り組んだのが、村の木材を使った“おもちゃ”の製作でした。
(社会部/記者 長岡一晟)

木で作られたおもちゃ

輪切りにされた丸太。実はこちらは、絵や文字を描けるキャンバスです。
表面に加工が施されていて、クレヨンで描いても布で簡単に拭き取ることができるおもちゃです。

手で支えられながら子どもたちがまたがっているのは、木で作られたシーソーです。
横に倒すと収納箱にもなり、保育園や幼稚園で空間を有効に活用できるよう設計されました。

頼ったのは大学生の“発想力”

これらのおもちゃを設計したのは、デザインを専攻する桜美林大学の学生たち。
村内に本社を置く林業事業者が村と大学に呼びかけてスタートした、産学官連携で、村の木を使っておもちゃを開発して販売を目指すプロジェクトです。学生たちは研究課題の一環で、檜原村の木の素材を生かしたおもちゃをそれぞれ考案しました。
去年(2023年)7月には村役場で試作品の発表会が行われ、13のおもちゃが並びました。

その中の1つ、「きになるつみき」と名付けられた作品です。「素材を生かしたおもちゃ」というテーマで、根元部分から積み木のように太い枝と細い枝を組み上げていくことで、実際の木のようになるのが特徴のこの作品。これまでは、山に捨てられてきた根や枝の部分をふんだんに使っています。
このおもちゃを考案したのは桜美林大学3年生の笹川媛香さん。授業がない時間や土曜日も、大学内の工房に通って設計を行いました。設計を始める前に研究室のメンバーで実際に檜原村を訪れた合宿が印象に残っているといいます。

桜美林大学3年 笹川媛香さん
「檜原村に行ってみると木がすごくたくさんあって、密集して根っこどうしでお互いに支え合っているという話を聞きました。私が実際に見たインパクトのある光景をそのまま作品に落とし込めたかなと思っています。1人で遊ぶこともできますが、家族や友人で土台部分を囲んで順番に積んでいくボードゲームのようにも遊べます」

かつて盛んだった林業の衰退

西多摩地域にある檜原村の人口は2000人余りで、面積の93%は山林です。
スギやヒノキを切りだして丸太や板に加工するなど多くの人が携わり、村の基幹産業になっていました。

現在、林業従事者はおよそ40人にまで減少しています。主要産業の林業が衰退したことは、村にとって大きな打撃となりました。

檜原村 吉本昂二村長
「檜原村は急しゅんな山が多いので、木を運び出すのにコストがかかります。手入れをたくさんして付加価値の高い良質な木材を生産していましたが、外国産の木材の増加や木造住宅の減少などの影響を受けて需要が減ってしまい、多くの林業従事者が村を離れました」

おもちゃ美術館の展示 地元産1割

「豊かな森林資源を活用して林業を活性化させたい」
村は木のおもちゃに着目し、観光の新たな目玉にする取り組みを始めました。日本一有名な木のおもちゃ村を目指す「トイ・ビレッジ構想」を掲げ、2021年、廃校になった小学校の跡地に「檜原 森のおもちゃ美術館」を開設したのです。建物のほとんどが檜原村の木でできていて、丸太をタイヤにした車や木製のボールで埋め尽くされた川など、さまざまな遊具で遊べるようになっています。昨年度はおよそ4万人が訪れ、休日は子ども連れなどでにぎわう人気の観光施設となっています。
一方で、館内に展示されているおもちゃのほとんどは、全国のおもちゃ作家から取り寄せたもので、檜原村の木が使われたものは1割ほどしかありません。

「檜原 森のおもちゃ美術館」大谷貴志館長
「展示しているおもちゃの大半はカタログなどで全国から取り寄せました。メイドイン檜原のおもちゃでこの館内が埋め尽くされたとき、この館が本当の意味で完成するんだと思います。檜原村の木材を使って檜原村の職人の手で作ってほしいというのが一番の願いです」

放置されていた部分を活用

今回のおもちゃプロジェクトでは、これまで加工品として使われてこなかった木の部分を活用することもポイントでした。
檜原村に本社を置く林業事業者によると、1本の木から丸太として出荷できるのは全体の半分ほどで、残りは伐採後もそのまま放置されるケースが一般的だからです。

東京チェンソーズ 高橋和馬さん
「木は成長過程で何かしらのダメージを受けて二股になってしまったり、「根曲がり」という根っこがぐっと曲がった状態になったりすることがあります。成長しても上部は幹がかなり細くなるため、丸太などに加工しづらくなります」

檜原村の山は斜面が急で大型の機械が使いづらく、木を切り出すのに多くの人手と費用がかかります。高橋さんは「丸太にならない部分も商品にし、木の付加価値を高めないといけないという思いで、未利用の資材を使ったおもちゃの商品化を提案した」と話しました。

保育園で試作品の体験会

学生が考案したおもちゃのうち4つの作品がことし春から実際に販売されることになり、笹川さんの「きになるつみき」も選ばれました。

去年9月には、保育園で園児に実際に試作品で遊んでもらい、子どもたちの興味や安全性、木育効果などを検証する体験会が開かれました。
そこでは設計した笹川さんが想像しなかった遊び方をする園児もいたといいます。

笹川さん
「枝のパーツと幹のパーツを自由に組み上げていく姿を見て、そういう遊び方できるんだなって私は思いつかなかったのですごく印象に残りました。子どもたちがおもちゃをぱっと見たときに『あっ、木だ』と言ってくれたのでうれしかったです」

保育園の副園長 内藤起久子さん
「いろいろなパーツが用意されていることで、自由に遊び方を変えることができるし、それを組み合わせて友達同士で協力して作るというような行動も見られるので発展的な遊び方ができると思いました」

学生たちを指導した桜美林大学の林准教授は、使い手の視点に立ち、おもちゃがユーザーの発育や認知機能にどう影響するのかについて研究してきました。今回のプロジェクトの意義について次のように話しました。

桜美林大学 林秀紀 准教授
「学生にはパソコンの前でのデザインで終わらないよう何度も伝えてきました。リアルな体験を通して人や地域と関わり、環境のことや、おもちゃのユーザーのことをよく理解したうえでしかできないデザインがあると思うんです。設計を始まる前に、森の中で合宿をしたり、幼稚園に行って園児たちの興味関心を直接知ったりした体験が学生たちの学びにつながると思っています」

ことし春から販売開始

笹川さんたち大学生が考案した4つのおもちゃはことし春からの販売に向けて、林業事業者によって最終的なデザインの修正が行われました。
檜原村の吉本村長は将来的に雇用の創出にもつなげたいと考えていると話しました。

檜原村 吉本昂二村長
「資源の利用と販売という両方の要素が発展したらいいと思っています。檜原村は働く場所があまりないので、工房などを作って働く場所を確保すれば産業の発展にもつながるのではないかと考えています。環境を守っていこうという機運も高まっているので、それを生かしながら環境を重視した村作りをしていきたいです」

  • 長岡一晟

    社会部 記者

    長岡一晟

    2023年(令和5年)入局 中学生のころまでの趣味は木工。自宅庭に倉庫を自作したことも。

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