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東京・湾岸でオフィス空室率高止まり 再開発先進地でなにが?

不動産のリアル(29)
  • 2024年2月14日

かつて国際的なITビジネスの拠点として企業が集積していた東京・湾岸エリアが、いま苦境に立たされています。コロナ禍を機に企業の流出が相次ぎ、オフィスの空室率が高止まりしているのです。なにが起きているのか、現場に向かいました。

※私たちは「不動産のリアル」と題して、各地の不動産事情を取材しています。
皆さんの体験や意見をこちらまでお寄せください。

(首都圏局 不動産のリアル取材班/記者 牧野慎太朗・ディレクター 三嶋立志)

湾岸にある、あの象徴的なビルでも

取材に訪れたのは、東京・中央区晴海地区にあるこちらのオフィスビル。再開発事業によって2001年に完成した「晴海トリトン」です。3棟の超高層のオフィスビルや、南ヨーロッパをイメージしたショッピングモール、マンションが一体で整備された晴海地区のランドマークとなっている施設です。

オフィスの仲介会社に案内してもらったのは、3棟の中で最も高いおよそ190メートル・44階建てのオフィスビルの最上階フロアです。窓の外には東京湾を一望できる眺望が広がっていましたが、フロア内に働いている人の姿はなく、空室となっていました。このビルでは、5年前まですべてのフロアが満室だったと言いますが、いまでは最上階を含む複数のフロアが空室となり、新たな借り手を探していると言います。

オフィス仲介会社 クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド株式会社 佐原章さん
「2001年の竣工当時はほかに例を見ないハイグレートなオフィスビルで、非常に好調なオフィスマーケットもあり、満室稼働を続けていました。しかし、コロナ禍で働き方が変わり、各企業がオフィスのあり方を見直すなかで移転する企業が多く、いまも複数フロアで募集を続けている状況です」

湾岸エリアで高い空室率

昭和の時代、港湾施設や物流基地が並んでいた東京の湾岸エリアは、2000年前後に大きく生まれ変わりました。当時最新の通信設備を備えた大規模なオフィスビルが相次いで建てられ、国際的なITビジネスの拠点になりました。「晴海トリトン」がある晴海地区だけでなく、天王洲アイルや品川シーサイドフォレスト、台場などもこの頃整備された地域です。

しかし、開発から20年以上経った現在、これらの地域から企業が流出し、空室率が高止まりしています。
こちらは都心にある大規模なオフィスビルの空室率のデータです。都心5区全体の平均は4.97%。コロナ禍以降、オフィス余りを示す目安となる5%前後で推移しています。

一方で、エリアごとに見ると、明暗がはっきりと分かれていました。
近年、再開発が相次ぐ「渋谷・道玄坂エリア」は1.36%、オフィスビルが建ち並ぶ「丸の内・大手町エリア」は2.25%と、空室率は低い水準を維持。一方、品川シーサイドフォレストや天王洲アイルを含む「北品川・東品川エリア」は11.91%、晴海を含む「東日本橋・新川エリア」は10.54%と、都心5区平均の2倍以上の空室率となっているのです。これらのエリアのなかには、半分近くが空室になっているビルも複数ありました。

なぜ湾岸エリアから流出?

湾岸エリアから移転した企業に取材すると、高い空室率の理由が見えてきました。
こちらのIT企業は、15年間借りていた晴海地区のオフィスを離れて、都心にある東京・千代田区の新築ビルに、おととし移転しました。

きっかけは、コロナ禍でリモートワークが進んで出社率が低下し、オフィスが余剰となってきたこと。同程度の賃料で出社率に見合ったオフィスを探した結果、以前より床面積は小さくなるものの複数の路線が乗り入れる交通利便性が高い都心でオフィスを借りることができたといいます。人材獲得競争が激しいIT業界では、採用面においてもオフィスの立地や働く環境は重要だそうです。

JSOL 齋藤惣一郎 取締役執行役員 経営企画本部長
「オフィスのあり方を『リアルなコミュニケーションによる新たな価値を生み出す場』と再定義して見直しを進めました。晴海のオフィスと比べて3分の2程度に縮小されたものの、社員同士がコミュニケーションを取りやすいよう、各所にオープンスペースを取り入れています。新しくきれいなビルですし利便性も上がったことで、社員のみんなも喜んで出社してくれるようになっています」

別の移転した企業を取材すると、ビルの最新機能を理由にあげました。
この大手情報通信会社では、業務効率を上げるため、特殊なエレベーターを導入。顔認証でゲートが開き、自分の勤務するフロアに早く着くエレベーターが自動で呼ばれる仕組みです。このほか、社員同士がコミュニケーションを取れるラウンジ各階に設けられていて、社員が働きやすい、思い描いたオフィス環境の実現ができたといいます。

ソフトバンク 瀧口諭 統括部長
「既存のビルをリフォームすることも考えたのですが、入居して15年を経過したビルということもあって実現できることに限界がありました。業務への影響も考えると、やはり移転した方が合理的なのではないかと思い、決断しました。社員のオフィス満足度も高いです」

空室埋めるため改修も

都心の利便性の高い立地、そしてハイスペックのビルを求めて移転する企業が相次ぐなか、20年以上が経過した湾岸エリアのビルは相対的に選ばれにくくなっていました。

では、どうやって生き残りを図っているのでしょうか。
複数フロアが空室となっている「晴海トリトン」のオフィスビルでは、竣工以来となる大規模な改修工事に打ってでました。新しく建て替えるのではなく、エントランスやエレベーターホールを新たなデザインにリニューアル。企業からニーズが高いラウンジスペースなども新たに設ける予定です。

さらに、賃料の値下げや、一定期間家賃を無料にする「フリーレント」なども行うことで新たな需要を掘り起こそうとしています。

オフィス仲介会社 クッシュマン・アンド・ウェイクフィールド株式会社 佐原章さん
「今年の夏ごろには改修工事もすべて終わる予定ですので、そこからリーシングもどんどん加速していって、2024年中には満室稼働できることを目指しています」

人口減少で都心も楽観視できず

実は近年、湾岸エリアだけでなく、立地の良い都心の新築ビルも、多くの空室を抱えたまま完成を迎えるケースも出てきています。専門家でもその予測が難しいというオフィス需要。現状をどう見ればいいのか、オフィス仲介大手のアナリストに聞きました。

三幸エステート 今関豊和チーフアナリスト
「いまは、オフィス需要の根拠となる生産年齢人口が伸び悩み、リモートワークが浸透するなど、不可逆な変化が起きています。このあと多少出社率が上がることはあっても需要の総量がコロナ禍前を上回って伸びていくというのは考えづらい状況です。そのなかでも、再開発によってオフィスが増え続けている現状を見ると、増えた分がすべて埋まっていくことと考えるのは楽観的だと思います。すでに地域差出ているように、ビルによって明暗がはっきりしてくると思いますし、古くてオフィスのニーズがないところは住宅への転用なども検討されてくるのではないでしょうか」

オフィス作り続ける再開発に持続可能性は

東京都心は国際的なビジネス拠点を目指すとして、今も競うように超高層ビルが建てられています。2022年時点で、都内の100mを超える超高層ビルは552棟あり、20年前の約3倍も増えています。その分だけ、オフィスやマンションなどの床が供給され続けていることになりますが、人口減少が加速する時代に、これまでと同じように床が埋まるかは見通せません。

私たちは各地の再開発の現場を取材していきます。ぜひみなさんの体験や意見をこちらまでお寄せください。

  • 牧野慎太朗

    首都圏局 記者

    牧野慎太朗

    2015年(平成27年)入局。宮崎局、長野局を経て2022年から首都圏局。不動産取材を担当。

  • 三嶋立志

    首都圏局 ディレクター

    三嶋立志

    2018年(平成30年)入局。札幌局を経て2023年から首都圏局。都内各地の再開発を取材。

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