発達障害のある子どもなどが学ぶ場の1つ「通級指導」。いわゆる「通級」。ふだんのクラスに在籍しながら、週に数時間、別の教室で、友達との関係づくりや勉強に集中することなど、自立に向けた活動を学ぶもので、利用する子どもは18万人を超えるとされています。こうした状況の中、取材を進めると「通級に通いたいのに通えない」という声が複数聞こえてきました。通級をめぐって何が起きているのか、取材しました。
(首都圏局 都庁クラブ/記者 生田隆之介)・発達障害などで、読み書きや対人関係が苦手な児童・生徒が、ふだんは通常の学級に在籍し、一部の授業を別の学校で受けるもの。(東京都は巡回指導のため在籍する学校で受ける)
・国語や算数などの科目の勉強ではなく、困難さを改善するための「自立活動」を学ぶ。
・子ども1人1人にあわせて、それぞれカリキュラムを作成し指導。教員と子どもは1対1か4~5人の少人数で授業をするのが基本。
・全ての授業を通常学級とは別の部屋で受ける「特別支援学級」とは別。
私はこれまでも、通級(東京都では「特別支援教室」)に関する取材を続けてきました。
教員不足を背景に、通級の担当教員1人が受け持つ子どもの数が、国の基準を上回り、ぎりぎりの状態になっている現場も取材しました。
こうした状況の中、複数の保護者からNHKに投稿が寄せられ、「通級の利用を希望しているのに、十分に受けられていない」という話を聞きました。
小学2年生の息子が先生から通級を勧められたが、すぐには通えず『もっと困っている子を優先したい』と言われた。
2年生から通級を利用しているが、週1時間だけ。学校との面談で『人が足りず週1時間になります』と言われた。
「本当であれば6年生も通級を続けたいと思っていました」
そう話すのは、都内に住む50代の母親です。
小学6年生の息子に、いずれも発達障害の1つである注意欠陥多動性障害と自閉スペクトラム症があります。
じっとしているのが苦手で授業中に教室を歩き回ることがあるほか、先の見通しが分からない時に不安を強く感じ、かんしゃくを起こしたり、気持ちを抑えられず、クラスで友だちをたたいたりしてしまうことがあったといいます。
このため1年生から通級に通っていました。ただ2年生の時には、学校から、友だちをたたくなどの問題行動があったことを報告する電話が、2~3日に1回かかってくるような状態だったといいます。
母親
「相手の保護者に『申し訳ありません』と謝ってばかりでした。担任と話しても『家庭で言い聞かせてください』とだけ言われてしまう。そのため、ほかの保護者とは距離を置くようになりましたし、担任にも理解してもらえないもどかしさというか、悲しさを感じていました」
こうした中で、通級の担当教員が丁寧に指導を続けてくれたこともあり、息子はだんだんと行動に落ち着きを見せていきました。通級担当の教員との信頼関係もでき、息子にとって、通級が安心できる場になっていると母親は感じていました。
しかし、4年生の時。
今後の通級についての面談で、通級の教員から、突然、「通級の授業では、思いやりのある行動や落ち着きが見られることから、『卒業』してもいいのではないか」と、通級の利用を終了することを促されたといいます。
母親は、息子の行動が通級に通う中で改善していることを実感していた一方で、2年生のときの様子を思い出すと、通級をやめることに不安を感じたといいます。
学校生活のほとんどを過ごすふだんのクラスの担任にも相談したところ「環境の変化などで行動が不安定になるときがある」として、通級の継続を勧められました。
そのため、通級の利用を継続する希望を出し、5年生では通級を続けることができました。しかし、5年生の時、担当教員から、再び、利用の終了を促され、次のように明かされたと言います。
母親
「通級の先生がちらっと言っていました。『1年生の(通級利用)待ちがたくさんいるんです』と。『このままではどうしたらいいんだという子どもが通級に入れなくて、大変なんです』と」
このため母親は、不安はあったものの通級の終了に同意。通級が終了したあと、息子は、今も授業中に歩き回ることがあるといいます。息子への通級がまだ必要だと思う一方、ほかにも必要としている子が多くいるという現状に、複雑な思いを抱えています。
母親
「ふだんのクラスの担任としては『通級を続けてほしい』という要望が強いと思う。でも、本人の成長も確かにしていたし、待っていらっしゃる方がいることや、1年生など低学年の子への通級指導の必要性も私が十分わかっていますので、じゃあ来年からは、ということで、終了を受け入れました。本当であれば続けたいと思っていましたが…」
こうした現状の背景にあるのは教員などの不足です。行政はどう捉えているのか。
都の担当者
「通級は『希望する人が誰もが受けられるようにする』というのが大原則で、希望した人が利用できないことは本来あってはならない。教員OBといった支援員の活用や、通級の少人数授業を増やすことなどで対応できるところもある」
一方、ある自治体の担当者は「教員の数をすぐには増やせず、通級を希望する子どもが増えた場合は、週に2時間の通級を1時間に減らすなどして、なんとか対応しようとしている。しかし、それにも限界がある」と頭を悩ませていました。
しかし、影響を受けるのは、子どもたちです。その場しのぎの対応では、解決策にはなりません。通級を利用する子どもは増え続けており、教員不足の中で、どう対応していくかは大きな課題です。引き続き取材を続けたいと思います。
皆さんからのご意見や体験談などは引き続き募集しています。ぜひこちらの投稿フォームよりお寄せください。