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発達障害の子の学び 教員不足は『通級』にも 指導の充実は?

  • 2023年6月15日

発達障害のある子どもなどが学ぶ場の1つ、いわゆる「通級」。
ふだんは通常のクラスに在籍しながら、週に数時間、別の教室で、少人数の授業を行います。一人一人の特性に応じて指導計画が作られ、友達との関係づくりや勉強に集中することなど、自立に向けた活動を学びます。

この「通級」を受ける子どもは今、全国で18万人を超え、過去最多となっています。
こうした中、課題となっているのが、教員不足などを背景に、「通級」にあたる教員1人が受け持つ児童の数が、国の基準を超える事態が相次いでいることです。
「通級」にあたる教員の現状を取材しました。

(首都圏局 都庁クラブ/記者 生田隆之介)

通級(通級指導)とは

・発達障害などで、読み書きや対人関係が苦手な児童・生徒が、ふだんは通常の学級に在籍し、一部の授業を別の学校で受けるもの。(東京都は巡回指導のため在籍する学校で受ける)。

・国語や算数などの科目の勉強ではなく、困難さを改善するための「自立活動」を学ぶ。

・子ども一人一人にあわせて、それぞれカリキュラムを作成し指導。

・教員と子どもは1対1か4~5人の少人数で授業をするのが基本。

・全ての授業を通常学級とは別の部屋で受ける「特別支援学級」とは別。

「通級」で取り組むのは?

私はこれまでにも「通級指導」について取材してきました。

取材を続ける中では、現役の教員などから「年度初めから20人近い人数を持つのがあたり前になっている」とか「1人で16人の子どもを見なければならず、限界だ」との声が聞かれました。

「もう一度、学校の現場を取材する必要がある」と感じた私は、別の学校に協力してもらい、担当の教員の仕事に再び密着しました。

私が訪ねたのは、東京・板橋区の区立中台小学校。
ここで「通級」(東京都では「特別支援教室」と呼びます)の担当をしているのは、板垣雄吾さん(35歳)です。教員になってから、およそ10年間、特別支援学校や通級の担当として、教壇に立ってきました。

さっそく、板垣さんの担当する通級の授業にお邪魔させてもらいました。
この日、授業を受けたのは、3年生の男子児童2人。クラスの中での約束を守れず教員から注意されたことがあることから、改善に取り組んでいます。

板垣さんがまずはじめに行ったことは、この日行う授業内容と、子どもたちに意識してもらいたいことの説明です。
こうして、授業の「見通し」や「ねらい」を示すことが、子どもたちにとって大切だといいます。

板垣さん
「子どもたちの中には、『何をどうするのか、何分くらいやるのか、どこまでやったら終わりなのか』など、先のことが分からないことに、強い不安を感じる子もいます。その日の内容が分かった方がいいのはどの子も同じなので、はじめに説明しています」

この日の課題のひとつは「ルールを守ろう」です。
これを2人に学んでもらおうと、板垣さんが教材として選んだのは「カルタ」です。
今回のカルタのルールです。

(1)手はひざの上に置いて待つ
(2)先生が「どうぞ」といってから札をとる
(3)お手つきをしたら1回休み
(4)一番多く札をとった人の勝ち

子どもたち2人に、別の教員や支援員も加えた4人でスタートです。

論より証拠・・・
はい!
泣きっ面に蜂・・・
はい!

 

ここで、1人の児童が声を上げます。

だめだめ! だめだよ!
どうしたの?何がだめだったの?
だめです、先生、手をひざにつけてください!

 

児童は、参加していた教員が「(1)手をひざの上に置いて待つ」のルールを守らず“ズル”をしたのを見つけました。

実はこの教員は、ルールを守る大切さを伝えるため、あえてズルをしたのです。
それでも教員は粘ります。

ばれてないよ。○○さんも、一緒にやろうよ!
だめだめ、だめです!
どうして、だめなの?
取れなかった人がつまんないから。

 

実はこの「ルールを守ろう」という課題、この児童が「クラスのルールを友だちと一緒に破ってしまったことがある」と聞いた板垣さんが、今回の授業に取り入れたのです。

悪いことへの誘いをきちんと断ることができるのか。ルールを破られたら、まわりがどんな気持ちになるのか。
板垣さんは、子どもたち自身に考えてもらうことで、クラスに戻ったときにも、友だちとの円滑な関係づくりにつなげてほしいと考えています。

板垣さん
「子どもから『つまらなくなってしまうから』『みんなが困るから』という発言が出たの はすごくよかったです。ちゃんとルールを守るということが、楽しく活動できることにつながるということが、少し分かったんじゃないかなと思います。
そのうえで、この通級だけでなく、教室に戻ったときにもできるようにしていきたい。
この通級で教えているソーシャルスキルがだんだんに身ついてきて、それが教室で実践できたっていうときが、われわれとしてはすごく嬉しいし、ありがたい」

さらに気になったのは、授業中の板垣さんの声かけです。
子どもたちのあいさつや座っている姿勢、目線などを細かく褒めていきます。

板垣さんによると、通級に通う子どもたちは、クラスの中や生活の中で、障害の特性などのために、ほかの子どもたちに比べて、うまくできなかったり、叱られてしまうことが多かったりして、自信を失っていることが多いといいます。前を向いて授業を受けているか、しゃべらずに話を聞いているか、イスに座れているか。細めに丁寧に褒めることで、子どもの自己肯定感を高めて、成功体験を増やしていくことで、できることが増えていくといいます。

必要な指導ができない? 余裕のない現場

板垣さんが現在、担当する児童は、1年生から6年生まで、あわせて12人です。
通級では、教員1人が受け持つ子どもの数の基準(配置基準)を、国が13人、東京都はより手厚い12人としています。

しかし、板垣さんの受け持つ児童は7月には14人に増える見込みです。
年度途中に発達障害の診断を受けた子どもの保護者が利用を希望したり、クラス内での子どもの様子を見た担任が、通級利用を保護者に勧めて利用を希望したりした場合に、学校側や専門家による判定委員会で認められれば、通級を利用できるようになるためです。

板垣さんの懸念は、担当する児童の数が増えることで丁寧な指導が難しくなることです。

板垣さんの「時間割」を見せてもらいました。
月曜日の1時間目、火曜日の6時間目、水曜日の5~6時間目、金曜日の4時間目。
授業のない時間は、30コマのうち5コマです。

この少ない空き時間を使って、やらなければならないことがあるといいます。
児童のクラスでの様子の見回りです。

通級では、子どもたち一人一人にあわせた内容を考え、カリキュラムをつくって、授業を行います。
板垣さんは、より質の高い指導につなげるため、子どもたちのふだんのクラスでの様子などをみて、何が課題なのかを確認しているといいます。

先ほどの児童のうちの1人は、4時間目は音楽の授業。リコーダーで、課題曲をクラス全員で演奏する練習をしていました。

外で様子を見ていた板垣さん、突然、教室に入って、担当する児童のそばにかけよりました。児童の横にしゃがみ、声をかけます。前を向いて授業を受けることや、先生の話をきちんと聞くように促したといいます。

さらに、板垣さんが足を止めたのは、廊下にある子どもたちがつくった掲示物の前。
担当する児童が書いた、昆虫の観察日記です。

板垣さん
「こういう掲示物とかを見て、担当している子が、どういうふうに書いているかなというのを見て、まわりとペースを合わせながらできているかなとか、そういう所を見ています。また、例えばマス目とかを見て、文字の大きさをそろえるのが難しかったら、大きさをそろえて書くという指導を取り入れたりしていきます」

しかし、担当する児童が今後増えれば、その分だけ、授業の「空き時間」がなくなることになります。そうなると、こうした見回りを制限せざるをえず、心苦しさが拭えないといいます。

板垣さん
「今は空いているコマも、新しく通級に通うお子さんの授業で、どんどん埋まっていきます。ただ、これはわれわれだけの問題ではなくて、板橋区の中でも同じように『人手が (足りない)』と、『もっとゆとりがあるといいな』と感じている学校さんは、いっぱいあると思います。
 わたしたちは、最大限、毎日毎日工夫しながら、いかに子どもたちが自信を持って、教室に『ただいま』と戻っていけるかを考えているんです。その点で、時間や教員の人数に『ゆとり』があると、より力を注げるんじゃないかというふうに私は思っています」

教員不足の影響 子どもにも

東京都によると、教員の配置基準はあくまでも、年度当初の通級利用の児童の数を基準としているため、児童の数が年度途中で増えても、教員不足の中、教員を増やすことは難しいといいます。
こうした状況で、通級を必要とする児童たちが、受けたくても受けられない現状があるという指摘も出ています。

実際に板垣さんも「通級を受ける児童は、4年前にこの小学校に来たときは60人余りだったんですけど、今は90人とかで、毎年毎年確実に増えています。まだ入っていないだけで、入りたいっていう人たちもまだまだたくさんいると話を聞いています」と話しています。

こうした現状に対し、国は「配置基準に応じた教員を確保するための予算を自治体に配分しており、学校側と柔軟に対応してほしい」という立場です。
また都は「教員のOBといった支援員などと協力して学校側で工夫して対応してほしい」としています。
ただ、支援員の確保も簡単ではなく、取材を通して、子どもたちに寄り添った指導をするための体制が十分かどうかは疑問で、現場との認識に乖離があると感じました。

通級の課題について引き続き取材していきたいと思います。
皆さんからのご意見や体験談などは引き続き募集しています。ぜひ投稿フォームよりお寄せください。

  • 生田隆之介

    首都圏局 記者

    生田隆之介

    2014年入局。長野局、札幌局を経て首都圏局。都庁担当として教育や環境分野を主に担当。2歳の娘がいる1児の父

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