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「女性専用トイレが無い」62% 東京23区の屋外公衆トイレで いったいなぜ?

  • 2023年6月16日

東京都渋谷区で「女性専用」が無い公衆トイレが作られ、SNSで大きな議論を呼びました。こうしたトイレはどのくらいあるのか、NHKが東京23区にある4000あまりの屋外公衆トイレを2023年6月に調べたところ、少なくとも6割以上で「女性専用」トイレが無いことが分かりました。

背景の1つにあるのが、近年増えてきた「バリアフリートイレ」です。通常のトイレより広いスペースを確保しなければならないため、女性専用の数が限定的になっているというのです。

女性の利用者からは、「男女共用トイレは盗撮などのおそれがあり使いづらい」という声も。女性、障害者など多様なニーズに対応するトイレのあり方とは?
(首都圏局/ディレクター 林秀征、竹前麻里子)

「女性専用」が無いトイレが大きな議論に

白い球体型や、赤一色の公衆トイレ。東京都渋谷区では公衆トイレのイメージを変えようと、個性豊かなトイレを設置するプロジェクトが行われました。衛生面を考慮し、声で指示すると水が流せるものなど区内17か所に設置されました。

その中に大きな議論を呼んだ公衆トイレがあります。

今年2月に完成したこちらのトイレは、実は「女性専用」がありません。
設置されているのは男性用の小便器と男女共用のいわゆるバリアフリートイレが2つ。男女ともに男女共用のトイレを使うことになっているのです。

女性

嫌だな。あまり使いたくないですね、男女共用は。たぶん使わないかな。

男性

痴漢とかあるじゃないですか。男が男女共用トイレに入っていたら、疑われなくていいのに、余計な疑いみたいのをかけられてしまうのではないかという不安はありますね。

女性

誰でも入れて、しかもフリーに入れちゃう。それだと確かに怖いと思う人もいると思います。難しいですね。

「女性専用のトイレが無くなるのではないか」という憶測がSNS上で広がり、渋谷区が否定するなど対応に追われる事態となりました。

なぜ女性専用を作らなかったのでしょうか。取材に対し、渋谷区は「周辺状況を踏まえ男女問わず利用でき、ニーズが見込まれる共用トイレを配置した」としています。

このような共用トイレに不安を抱えている人がいます。5人の子どもを育てている、都内在住の女性です。公園をよく使う子育て世代。外出時に、子どもが急にトイレにいきたいと言い出すのは日常茶飯事です。しかし、男女共用のトイレを使うのは抵抗があるといいます。

子育て中の女性
「公衆トイレは衛生的に、ちょっと使いづらいですね。男女共用であることで、犯罪が起こってしまうのではないかという怖さはとてもあります。とはいえ、子どもに『おしっこを我慢しなさい』なんて言えないし。

ママたちのあいだでも、女性トイレが無いことは、よく話題になっています。女性や子連れママが我慢しなければならないトイレになると、外にも出られなくなると思います。女性トイレを作ってほしいですよね、本当に」

なぜ「女性専用」が無いトイレが作られるのか

女性専用が無い公衆トイレはどれだけ存在しているのでしょうか。NHKでは、東京23区を対象にアンケートを実施。公園など屋外にある公衆トイレについて独自に調査を行いました。

その結果、4000あまりあるトイレのうち「女性専用」が無いのは少なくとも6割以上にのぼることが分かりました。

なぜこのような状況にあるのでしょうか。東京都港区で、公衆トイレの管理や計画などを進める土木課が取材に応じました。

女性専用のトイレが少ない背景の1つにあるのがバリアフリートイレ。車イス利用者用のスペースや子ども連れ用の設備など、通常のトイレより広さが必要です。

さらに都市公園では、公衆トイレなどの建築物は原則、敷地面積の2%を超えてはならないと法律で定められています。そのため、限られた敷地にトイレを設置する際、男女共用のバリアフリートイレを優先的に配置。結果として女性専用の数が限定的になっているといいます。

東京都港区 街づくり支援部土木課長 海老原輔さん
「昔は用が足せればいいということで、男性用と女性用という形で整備されていたので、面積が最小限で済んでいましたが、現代はバリアフリーを考えなきゃいけない。

男性用と女性用のトイレの面積は、どうしても女性用の方が大きいです。女性用を無くしている、男性用を無くしているのではなく、誰もが使えるために多機能トイレを確保しているというのが現実です。

公園などは面積が無いので、共用という形のトイレになってしまうというのが現状ですね」

男女共用トイレ 防犯上のリスクも

「女性専用」トイレが無いことによるリスクを指摘するのが、自治体や企業向けに防犯に関するアドバイスを行っている京師美佳さんです。

公衆トイレで多いのが盗撮による被害だといいます。

こちらは一見、ねじ穴のように見えますが、小型のカメラです。

芳香剤やサニタリーボックスなどに小型のカメラが隠されているケースもありました。

防犯について詳しい 京師美佳さん
「このサニタリーボックス、どこにカメラがあるか分かりますか?実は数字の1のところにレンズが仕掛けられています。本当に一瞬では分からないと思います」

便座の裏にカメラが隠されていることも多く、注意が必要だといいます。

盗撮について、警察庁によると、公衆トイレなどを含む「通常衣服を着けない場所」での検挙件数は、年間およそ1800件にのぼります。しかしこれは氷山の一角ではないかと京師さんは考えています。

防犯について詳しい 京師美佳さん
「インターネットで誰もがカメラを購入できるようになってからは、本当に被害件数が分からなくなってしまったんですね。実際に被害届が出されている件数よりもはるかに多い、何十倍、何百倍という被害があると思ったほうがいいかと思います。

女性専用が無い公衆トイレは、盗撮用のカメラや盗聴器を仕掛けやすい状況というのはあります。防犯面だけの話をさせていただくと、やはり男性・女性・多目的という形で分けるほうがカメラも設置しにくいので、安全上はその方がいいと思います」

こうした中、港区では今年3月、公衆トイレの整備方針を示しました。区内にあるトイレを整備し、できる限り女性専用のスペースを確保。防犯カメラの設置なども進めるとしています。

東京都港区 街づくり支援部土木課長 海老原輔さん
「やはり女性が使いたいトイレが街にあるべきだと思うんですよね。女性が安心して使えるトイレがあることによって、街そのものも安心できる街になると思うんです。そういったトイレを、今後も引き続き設置できればと思っています」

“トイレは「社会の縮図」 多様な市民の声聞き工夫を”

東京23区の屋内公衆トイレのうち、「女性専用」が無いトイレが少なくとも6割以上にのぼることについて、どうとらえればいいのでしょうか。建築が専門でバリアフリーに詳しい専門家に聞きました。

東洋大学工業技術研究所 髙橋儀平名誉教授
「この結果には驚きました。公衆トイレはどんな人も利用できるよう、男女別のトイレがあり、プラス男女共用の車いす使用者用トイレがあるのが基本です。その上で地域の周辺状況により、おむつ交換台や一般の男女共用があるのが理想です。

公衆トイレは『多様な社会の縮図』とも言えますし、外出先でトイレを不自由なく利用できるか否かは、バリアフリーが始まった50年以上前から社会参画の一歩でした。障害のある人も無い人も女性も、誰ひとり排除できない基本的な人権と考えます」

都市部のようにトイレを設置できるスペースが限られるところで、女性や障害者など多様な人たちのニーズに対応するには、どうすればいいのでしょうか。

東洋大学工業技術研究所 髙橋儀平名誉教授
「本当は一か所で、男女別トイレや車いす使用者用トイレなどを区分して設置することが理想ではありますが、難しいところもあると思います。このため、周辺の公共施設や駅の公共トイレも含めて、一定のエリア内でトイレバランスを考えてうまく配置するという方法も考えていくべきです。

自治体には、『スペースがないから』『予算がないから』といった理由であきらめるのではなく、多様な市民の声を聞いて、その地域にあった公衆トイレの規模や形を生み出してほしいと思います。そのことが、公衆トイレの良好な維持管理にもつながっていきます」

  • 林 秀征

    首都圏局 ディレクター

    林 秀征

    2018年入局。名古屋局を経て2022年から首都圏局。社会問題などを取材。

  • 竹前麻里子

    首都圏局 ディレクター

    竹前麻里子

    2008年入局。旭川局、おはよう日本、クローズアップ現代などを経て2021年より首都圏局。福祉、労働、性暴力の取材や、デジタル展開を担当。

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