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発達障害の子の学び 過去最多18万人超 「通級」とは

  • 2023年4月13日

発達障害のある子どもなどが、通常の学級に在籍して学びながら、一部は別室で指導を受ける「通級指導」、いわゆる「通級」。
国がことし3月に発表したまとめでは、通級を受ける小中学生や高校生は、令和3年度、全国で18万人余りとなり、過去最多を更新。
一方で、NHKには「実態を知ってほしい」など通級に関する意見が複数寄せられました。
現場の取材を進めると、深刻な教員不足を背景に、中には担当としてふさわしくない教員が「通級」に配置されるという深刻な課題も見えてきました。
(首都圏局 都庁クラブ/記者 生田隆之介)

通級指導とは?

通級(通級指導)
・発達障害などで、読み書きや対人関係が苦手な児童・生徒が、ふだんは通常の学級に在籍し、一部の授業を別の学校で受けるもの。(東京都は巡回指導のため在籍する学校で受ける)

・国語や算数などの科目の勉強ではなく、困難さを改善するための「自立活動」を学ぶ。

・子ども1人1人にあわせて、それぞれカリキュラムを作成し指導。

・教員と子どもは、1対1か4~5人の少人数で授業をするのが基本。

・全ての授業を通常学級とは別の部屋で受ける「特別支援学級」とは別。

通級の現場とは

私が発達障害の子どもの学びについて取材を始めたのは、同僚の尾垣和幸記者の息子に発達障害があり、学校での特別支援教育に根強い課題があると感じたことでした。

そこで私は、通級を担当する教員や学校に協力してもらい、通級の授業に1日密着させてもらいました。

私が訪れたのは、都内の公立小学校です。
校舎の1階部分に専用の教室が設けられていました。一般的な教室の半分ほどの広さの部屋が3室あります。

「おはようございます!」

チャイムがなると、元気な男の子が1人、教室に入ってきました。

小学1年生(当時)のしんご君(仮名)です。

しんご君は、身のまわりのことへの興味が高く、気になる事があると、集中することが難しかったり、思ったことをそのまま話したりすることがあり、毎週2コマ、通級を受けています。

教室には、担当の教員としんご君の2人だけ。ひとつの机に向かい合って座ります。

「では授業をはじめます」

教員が、しんご君の目をまっすぐ見ながら、声をかけ、授業が始まりました。
まずは、この授業で何に取り組むかを説明します。

教員は5つの項目を伝えました。

(1)おはなし
(2)目のトレーニング
(3)どうしたらいいかな
(4)どうだったかな
(5)おたのしみ

児童に授業の進捗をわかりやすくし、授業への集中を促す狙いです。
また、それぞれの項目にも狙いがあります。

おはなし
休日などの話をして、行動を振り返って話してもらい、時系列に論理立てて話す練習をする。

例)

教員

土曜日と日曜日は何をしていましたか?

しんご君

土曜日は映画を見に行った。ポップコーンを食べて寝た。

 

そうなんだ!

教員は、児童の話をほめるように相づちをします。
 

目のトレーニング
集中力を養い、目を動かす筋肉を鍛え、黒板を見る授業で疲れてしまうことを防ぐ狙い。

例)
赤と青のペンを児童の目の前に差し出し、上下左右、前後させる。

どうしたらいいかな
相手の気持ちを考え、自分の考えを伝え、友達との良好な関係作りを促す。

例)
「鬼ごっこ」の様子が記されたプリントを使い、ずっと鬼役が続いて、遊びをやめたくなったときに友達にどう伝えるか考えてもらう。

どうだったかな
自身のことを客観的に振り返り、教員から評価してもらうことで自己肯定感を高める狙い。

例)
ここまでの授業で「何ができたになったか」を振り返ってもらう。

おたのしみ
いすに座り続ける姿勢を維持するための体幹トレーニング。

例)
バランスを取るのが難しい、ハンドルと車輪のついた乗り物の遊具で教室内を、楽しみながら走ってもらう。

このほかにも、小集団学習と呼ばれる、4~5人の子どもたちが一緒に受ける授業も取材しました。

この中では、グループで司会やルール説明といった役割を決めてスピーチや発表を行ったり、ボードゲームなどを通じて、ルールを守ることや他人と折り合いをつける力を学んだりしていました。

教員 越塚彩未さん
「担任とも教室でどんな様子かというのを聞き取って、今の学校での生活の課題や成果に合わせて教材を選んでいます。クラスの中でお子さんが、もっとかがやいたり、お子さんの良さが周りに伝わるように、友だちとの関わりがもっとうまくいって、学校がもっと楽しくなるということを意識して取り組んでいます」

“担任に不向き”で通級に?

通級の現場に密着させてもらい、教員には障害への理解や教え方の工夫などの専門性が求められることを改めて実感しました。

しかし、取材を進めると、学校現場での教員不足が深刻な課題となる中、発達障害の子どもの学びの場である「通級」が、後回しにされるケースもあることが見えてきました。

取材に応じてくれたのは関東の学校の教員、佐藤さん(仮名)です。
佐藤さんは、特別支援学級の担任を経て、5年前から、今の学校で通級の担当を務めていて、学校で起きたことを打ち明けてくれました。

佐藤さん
「新たに通級の担当になった若手の教員が、数か月で休職してしまいました。この教員はもともと、通常学級などで担任をしていたのですが、子どもから『黒板の字が乱れていて読めない』という声があがったんです。持病の影響だったと聞きました。

学校側には『この先生、どうしても通級の担当でないとだめですか』と相談したんですが『クラスの担任をやるのは難しいので、しかたない』と説明されました。その上、『子どもたちにコミュニケーションができるようにするノウハウがあるなら、教員間でも活用して下さい』と言われてしまい、釈然としない思いでした。私の方が潰れてしまうんじゃないかと不安でした」

結局、この若手教員は、その後、体調を崩し、たった数か月で休職することになりました。
佐藤さんは、学校側に教員の補充を訴えましたが、教員不足の中で、代わりを見つけることは難しく、結局、知り合いの早期退職した元教員になんとかお願いし、支援員として加わってもらうことができたといいます。

佐藤さん
「『クラスの担任としての適性がない』などの理由で、通級の担当になるケースは、ほかの学校でも多いと聞きます。実際、教員がどの担当になるかは、教壇に立つ人(通常の学級担任)から優先して決められていくのが現状です。本来、通級の担当は、特別支援教育や発達障害などに関する専門的な知識がある人が行わなければ、困難を抱える子どもの指導を行うことは難しいです。
それが、担任の資質がないとか、大人数のクラスを持つのが苦手だとか、そういった理由で、担当をすることになってる人がいます」

教員の専門性 人手不足は喫緊の課題

発達障害の子どもたちが困難を克服して、学校生活を送れるようにしていくためには、通級の教員だけでなく、クラス担任の教員の協力も不可欠です。
専門性が不足する教員による指導で、不登校などの「二次障害」が起きたという声も寄せられています。

また、人員の不足も課題で、国の配置基準では、通級の教員1人が担当する子どもの数は13人となっていますが、紹介した越塚さんは昨年度、多いときで16人の子どもを担当していました。
越塚さんは、「見ている子どもの数が多く、普段の授業の様子を見たり、担任の先生とコミュニケーションをとったりする時間がない。本当はもっとできることがあるのに、できていない現状には、歯がゆい思いだ」と話していました。

国や自治体、学校側には、通級で学びを望む当事者の人たちにとって、教員の質や数の確保は喫緊の問題だと認識して、取り組むことが求められていると感じました。
今後も取材を続けたいと思います。

皆さんからのご意見や体験談などは引き続き募集しています。
ぜひこちらの投稿フォームよりお寄せください。

  • 生田隆之介

    首都圏局 都庁クラブ 記者

    生田隆之介

    2014年入局。長野局、札幌局を経て首都圏局。都庁担当として教育や環境分野を主に担当。2歳の娘がいる1児の父

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