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Creepy Nuts DJ松永さん 母校の中学生にエール

  • 2023年1月13日

ヒップホップユニットCreepy NutsのDJ松永さん(32歳)。DJの世界大会で優勝するなど、その超絶的なテクニックと作曲センスで人気を博しています。今では、テレビやラジオ番組のレギュラーから文学雑誌での連載まで多方面で活躍。そんな松永さんが、今回、新潟県長岡市の母校、長岡市立東北中学校を卒業後初めて訪れ、中学生40人に向けて自身の夢をかなえるまでの道のりを語りました。
「自分の“好き”を貫いて」松永さんの後輩へのメッセージは、世代を超えて響くエールでした。
(新潟放送局/ディレクター 土屋詩美)

松永先生の特別授業 開始!

コロナ禍で3年間を過ごした中学生たちにエールを送ろうと、NHKと学校側が企画した今回の授業。
松永さんは、進路選択を控えた後輩たちに、自分の経験談が役に立てばと、先生役を引き受けてくれました。

母校の体操着姿で教壇に立った「松永先生」に、後輩たちからは大歓声が。

松永さん

あんまり名前でDJってないよね。自分で書いてて、すっげぇうさんくさいなって思うわ。よろしくお願いします。

生徒一同

いえーい(拍手)

はははありがとう…盛り上げ役の子がいるな(笑)

後輩たちの質問に松永先生の答えは!?

憧れの先輩を前に、後輩たちからは次々と質問があがります。松永さんは質問した生徒一人ひとりと会話しながら丁寧に答えてくれました。

まず質問したのは、野球部に所属する男子生徒。

野球部
男子生徒

最近、親友がおしゃれに目覚めちゃって。俺は今の今までずっと坊主だったんで、ちょっとおしゃれしてみたいなと思ったんですけど。俺に似合って、かっこよくて、お手軽な髪型はなにかありますか?

非常にお調子者な質問ですね(笑) でも、これすごい自分だと判断難しいっすよね。ちなみに親友はどういう髪型になってるの?

 

なんかもうちょっといけてる感じの。ちょっと髪がなびいてる感じの。

DJ松永さん
「今は野球部も髪伸ばしていいんだね、いい時代になったな。
えー、別にださい髪型を、何回も通ってもいいと思います。試行錯誤しまくるみたいな。一発で正解は、絶対無理だから。中学生の段階で答え見つけるのって、なにごとも無理だと思うんだよね。痛い、黒歴史は今のうちに、作るだけ作っておいた方がいい

続いては、別の女子生徒からちょっと攻めた質問。

女子生徒

今って自分イケてるって思ってますか?

やっぱ思ってます。そう思ってるのと、自分イケてねぇなっていうののバイオリズムがめっちゃ激しいですね。ちなみになんでその質問しようと思ったんですか?

なんかDJやってるから。そういう自分イケてるなっていう気持ちが大事なのかなっていうので…

「たしかに大事ですね。これやってる時は自分イケてるなって思うことを見つけるって。そうじゃないとやっぱりしんどいじゃないですか。自分を肯定できないと。
みんな、もしかしたらもうすでに持ってるかもしれないけど、持ってない人はこれからきっと見つかると思うから。人生長いんで。50才で見つかってもいいし、70才で見つかってもいいと思う。なんか“自分イケてるな”と思う瞬間に出会えると、すごいしラクになるからいいなと思います

ヒップホップが現実逃避先

“自分をイケてると思う”と笑顔で語った松永さんですが、中学時代は自身に対する劣等感に苦しんでいたといいます。

生っ粋のサッカー少年だった松永さん。小学4年生からスクールに通い、中学のサッカー部では、毎朝誰よりも早く登校して練習するなど、猛特訓の日々をおくります。ところが、その努力が実を結ぶことはなく、待っていたのは「3年生最後の試合ですら、ベンチメンバーに選出されない」という厳しい現実でした。

DJ松永さん
「俺はまわりの目とかすごい気にする中学生だったんで。本当にかっこつけたかったから、サッカー部以外のやつらには『なんか、先生に嫌われててベンチ入れなかったわ』とか。レギュラーのフリしたうそとかを、めちゃくちゃついてたんです」

中学生のころ(左から2番目がDJ松永さん)

自分を取り繕いながら過ごす中学校生活。その苦しみの中で出会ったのヒップホップでした。

「ヒップホップって、先生たちがこうしなさいって言うものとは、真逆な価値観じゃないですか。まるで違う世界が、そこにはあるから。もう一個、自分の心の置き所みたいなものが見つかって、現実逃避先になったんです。学校でうまくいかなくても、家に帰ってヒップホップ聞けばいいか、みたいな心持ちになったから。すごいラクになったんすよ」

“劣等感を武器に”駆け上がったDJへの道

高校2年生の時、松永さんに転機が訪れます。バイト代の使い道として、興味本位で買ったターンテーブルに心を奪われ、時間を忘れてDJの練習にふけるようになり、ついには高校中退を決断したのです。

DJ松永さん
「本当に目の前のDJやってる時間が、好き過ぎて。その時の俺は何も見えてない。何も見えてないけど、目の前がビッカビカに光り輝いてるっていう。ただ、俺の中で人より一歩早く社会人になった気持ちもあって。学校は当たり前のようにルーティーンで通うけど、その学校を辞めてDJをやるっていうことは、自分の行動ひとつが全部自分の責任になることだから」

DJ駆け出し時代(右がDJ松永さん)

自分で選んだDJへの道。それは決して平たんではありませんでした。地元のクラブを渡り歩いて実力をつけ、21歳で上京。ラッパーのR-指定さんとユニットを結成するも鳴かず飛ばず、3年間全く売れず、借金生活に陥ります。

もう後がないという中で出した答え、それは「等身大の自分をさらけ出す」ことでした。2016年、松永さんたちはアルバム『たりないふたり』を発売します。

♪こちら たりないふたり 俺時間守らない 松永デリカシーが無い
高卒と中卒 偏屈で窮屈で 低俗で軽率なポンコツとポンコツ

アレもしたい コレもしたい それでも他人の目が怖い
アレ足りない コレ足りない 結局のところ 自分が足りない

「自分がつらいこととか後ろめたいことを、作品に落とし込んで、人に聴いてもらって、共感して消化されて。『あっ、この自分でよかった』って、めちゃくちゃ肯定されるような気持ちになったんです。その翌月からっすね、音楽で飯食えるようになったの。こんな全部足かせだったけど、それが全部ひっくり返る世界がある。自分のやりようによっては、それができることに気づいて、その時に一番救われたような気持ちになったんです」

“好き”を貫いて

好きなものを仕事にしながらも、悩み苦しい時代を経験してきた松永さん。特別授業では、そんな松永さんに、「自分の将来」について相談する生徒もいました。アート部の部長を務める石丸琴葉さんです。

小さいころから特撮ドラマが大好きな石丸さん。自分の部屋の棚は、お小遣いをためて買ったという、フィギュアやDVDで埋め尽くされています。

石丸琴葉さん
「学校とかいろいろあって、何か面倒くさいなとか思うときに、特撮のキャラクターにすごい名言みたいなことを言われると元気がでるんです。本当に特撮が大好きで、特撮関係に就きたいなって思ったことも何回もあります」

絵を描くことが得意な石丸さんは、その特技を生かして、特撮の世界で働きたいと思い始めていますが…。

「やっぱり親とかが許してくれないっていうか、あまり気乗りしないところがあるんで。あと、もちろん自分より絵がうまい人は何人もいるんで、技術面でもどれだけ自分はそこの業界では通用するのかな…と思うところはあります」

そんな石丸さんに、松永先生がかけた言葉は…

DJ松永さん
「自分あんまり音楽の才能なかったんです。才能はない気がしてたけど。でもめちゃくちゃ“好き”な才能はすごかったんですよね。自分が好きだと、やっぱり想像力が湧いてくるんです。『ちょっとここ、手の持ち方こうしてみようかな』とか…。それを努力だと思わずに、ひたすらやっていくと。やっぱりうまくなってくるんですよね。
24時間ここにいれたら、どんなに楽園かなと思って頑張った結果、ヒップホップの世界で飯が食えるようになった。逃避先じゃなくなっちゃったんです。正直、複雑な気持ちではあるけど、すごい幸せで恵まれてるな。自分の好きなことで飯が食えて。めちゃくちゃ恵まれてるな、幸せだなって思う気持ちもあります」

石丸琴葉さん
「自分の趣味を取ってもいいかなっていう気持ちも話を聞いてる中で出てきたし。すごい別に、好きでいいんだよみたいな感じも伝わってきて。心配されるって松永さんも言ってたんですけど、心配されても、進むことは、別に悪いことではないんだな、こっちの道もあるんだなっていうのが、広がった感じがして。すごくいい経験になりました」

“毎曲毎曲 成長したい”

“ヒップホップが好き” “DJが好き”。その気持ちは、今も松永さんの原動力だといいます。
去年9月に発売したニューアルバムでは、自分たちの内面を描いてきたこれまでの作品とは対照的に、テーマを「フィクション」とし、別の誰かを主人公とした歌詞やこれまでにない曲調に挑戦しています。その背景には、松永さんの曲作りに対する信念がありました。

DJ松永さん
「俺の中で抗(あらが)わなきゃいけないなってものが、一個あって。俺が中学2年生で好きになったヒップホップ。その時に好きなものの価値観って、大人になっても意外とあんまり広がんないんですよ。だからいろんな曲作ってても、作風は同じような感じになってくる。それを愛してくれる人もいっぱいいるから、否定はしないんだけど、俺はその自分の10代の頃にできた音楽性みたいなものを、もう無理矢理にでも広げて、新しいもんを作りたいんです。これをフィックスで音楽何十年間も作り続けていくと、俺は飽きるから。こんちくしょーぐらいな感じで。自分の感性と向き合っているところはあります」

目の前の失敗に絶望しなくていい

7年続けたサッカーへの挫折。しかし、その経験によってDJという新たな道を開き、突き進んできた松永さん。
最後に、後輩たちに送った言葉とは…。

DJ松永さん
「俺が思うのは、学校へ行って、勉強したりとかしてると、テストの点数がすぐ出たりとか、部活ですぐ成績が出たりとかするから。自分の努力と答え合わせが、むっちゃ早いんですよね。俺はそれに慣れてきちゃって。一喜一憂してたから。もし俺みたいに、こういう波にのまれて、すごい絶望する人が、この中にもしいるとしたら、もっと長い目で見て、その答え合わせは、ずっと先にあるっていうことだけ、意識して生きていけば。みなさんなら、大丈夫なんじゃないかなと思います」

 

●DJ松永さんの言葉をさらに読む
「DJ松永のそれでいいじゃん」全編公開

  • 土屋詩美

    新潟放送局 ディレクター

    土屋詩美

    2020年入局。新潟局でクーデターの影響を受けるミャンマー人実習生や、コロナ禍の音楽フェスの現場などを取材。

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