WEBリポート
  1. NHK
  2. 首都圏ナビ
  3. WEBリポート
  4. 縦読み漫画(ウェブトゥーン)日本の挑戦 佐渡島庸平さん解説も

縦読み漫画(ウェブトゥーン)日本の挑戦 佐渡島庸平さん解説も

  • 2022年12月21日

「ウェブトゥーン」と呼ばれる、スマートフォンを縦にスクロールして読む「縦読み漫画」が若者を中心に人気を集めています。作品の多くが韓国で制作される中、日本でも「縦読み漫画」への挑戦が始まっています。
「名探偵コナン」などを送り出してきた小学館は縦読み漫画部門を設立。またゲーム会社などが手がける作品「デモンズ・クレスト」では、一度は漫画家の道を諦めた若者が才能を開花させています。日本の漫画界はどうなっていくのか。漫画編集者・佐渡島庸平さんの解説とともにお伝えします。
(首都圏局/ディレクター 千葉柚子・大岩万意)

あの出版社も“縦読み”に乗り出す

世界で急速に人気が高まる「縦読み漫画」。豊かな色彩や、縦長の画面を生かした表現が特徴です。世界の市場規模は6年後におよそ3.7兆円にも達するといわれています。
(Global Webtoons Market Size, Status and Forecast 2022-2028より)

そんな中、多くのヒット漫画を世に送り出してきた小学館は去年、新たに「縦読み漫画」専門の部署を作り、制作に乗り出しました。しかし、従来の漫画作りとは大きく異なるため、試行錯誤が続いています。

右のページから左に読み進めていく従来の漫画では、左右のページを枠線で区切り、場面の転換や時間の流れを自在に表現します。

また、強調したいシーンではページをまたぎ、迫力ある構図で読者を物語の世界に誘います。

一方、縦読み漫画は、画面をスクロールして読むため、場面やシーンの転換は基本的に縦方向です。その分、従来の漫画を読んだことがない人でも簡単に読み進めることができます。

色づけされているのも特徴で、白黒の漫画にはない臨場感を味わうこともできます。

小学館が、縦読み漫画の制作に乗り出した背景には、紙の漫画の売り上げが減少傾向となる中でも、電子版は増え続けていることがあります。

また、電子版の中で縦読み漫画が占める割合はまだ少ないものの、「将来の伸びしろは大きい」と考えているためです。

小学館 チーフプロデューサー 鳥光裕さん
「スマホで漫画が読めるということができた瞬間に、スマホに対応した漫画的なものができるのは、もう必然だと思うんですよね。そこにリーチをしておくことが重要だと考えました」

“縦読み漫画”の魅力とは 「ドラゴン桜」の編集者に聞く

日本の漫画界が熱い視線を送る「縦読み漫画」。

「ドラゴン桜」「宇宙兄弟」「働きマン」など、数々のヒット作を担当してきた漫画編集者の佐渡島庸平さんも、自ら縦読み漫画のスタジオを立ち上げ、プロデュースを行っています。

なぜ“縦読み”に着手しようと思ったのか。佐渡島さんに、その魅力を聞きました。

漫画編集者 佐渡島庸平さん
「起業してからずっと、『縦でやるのか横でやるのか』悩み続けてきたんですけど、6、7年たって、『時代は縦』なんだなと思って決断したんです。

紙のほうが無くなっているわけではないんだけど、10代の人たちが触れるものは紙よりもデジタルのほうが増えていて、20、30年という単位で見ていったら紙は無くなっていくと思うんですよ」

 “縦読み”のメリットは、これまで漫画を読んだことのない読者でも、簡単に読めるところにあるといいます。

「縦スクロールの漫画って、読み方が分からない人は誰もいないんです。操作や見方が簡単ですよね。全世界に届けようと思ったときに、シンプルで分かりやすいということは、すごく重要だなと思った。

見開きのモノクロ漫画じゃないと伝えられない複雑な感情というのは存在するけれど、それよりも多くの人が気軽に読んでくれるところ、そこでいい作品というのをどうやったら作れるだろうかということを、考えてもいいかなと思ったんです」

また佐渡島さんは、“縦読み”ならではの表現方法にも魅力を感じているといいます。

「オールカラーということですね。やっぱり色があると、表現手法はすごく豊かですよね。例えば、火の色ってモノクロだったら、ここまで絵が映えないので、もっとあっさりした表現で終わらせると思います」

佐渡島さんのスタジオで制作している縦読み漫画

「分業」で多くのヒット作品生み出す韓国

佐渡島さんが注目するのが韓国です。韓国では、およそ20年前に縦読み漫画の制作が始まり、多くのヒット作を生み出してきました。

韓国発のヒット作

韓国の強みは、IT企業が「LINEマンガ」「ピッコマ」など縦読み漫画を提供するアプリの開発を行い、世界中の人が縦読み漫画に触れる機会を増やそうとしていることです。

さらに韓国では、縦読み漫画の制作を「分業」で進めるのが特徴です。

日本では一般的に「ストーリー」や「キャラクターデザイン」、コマ割りなどを考える「ネーム」といった工程を1人の漫画家が担い、それをアシスタントが支えます。

一方、韓国では、それぞれの工程を専門とする担当者が分業して制作を行っています。そのため、短時間で多くの作品を世に出すことができるのです。

縦読み漫画を分業で 再びペンをとった若き漫画家

日本でも、メンバーの得意分野を生かす分業スタイルで、縦読み漫画に挑戦するプロジェクトが始まっています。

11月からWEB上で連載が始まった、縦読み漫画「デモンズ・クレスト」。現実とゲームが融合した世界で、モンスターと戦いながら謎を解き明かしていく物語です。

制作しているのは、スマホゲームの制作会社やアプリ運営会社など、異業種が参加する漫画制作プロジェクトです。

ストーリーを担当するのは、ふだん小説などを手がける編集者。着色の担当はゲームを制作するスタッフ…と、それぞれの分野のプロが集結しています。

その中で、コマ割りや構図など「ネーム」を担当することになったのが、久保田諒太さん(25)です。

もともと漫画家になるのが夢だったという久保田さん。一度、作品が月刊誌に掲載されたこともありました。絵を描くのは得意でしたが、物語を考えるのが苦手で、プロになることはかないませんでした。

久保田さんが昔描いたネーム

結局、ゲーム会社に就職しましたが、今回その会社がプロジェクトに参加。久保田さんは、「縦読み漫画なら再び夢に挑戦できる」と考えたのです。

ネーム担当 久保田諒太さん
「なんでもいいから絵を描きたいという。なんとかそれにしがみつく思いで、縦読み漫画と出会いました」

「デモンズ・クレスト」で久保田さんは、縦読み漫画ならではの構図を考えました。例えば、画面をスクロールした先に階段を発見する1コマでは、一緒に冒険しているかのようなわくわく感を演出しています。

さらに別の場面では、広さを表現するためにあえて横向きの構図を採用し、長細い絵に挑戦しました。

久保田諒太さん
「僕が横読み漫画のネームや線画を描いていたからこそ、ちょっとわかる。もっとよくできる、もっとおもしろくできるなと思います」

手塚治虫さんが起こした変革を もう一度“縦読み”で

編集者の佐渡島庸平さんも、自身の制作現場で分業を取り入れています。スタッフに体調が悪い人などがいても、他の人がカバーに入って、作品を休載することなく出し続けることができるためです。

さらに、従来の制作方法では埋もれていたかもしれない才能を、分業で生かせるというメリットもあるといいます。

漫画編集者 佐渡島庸平さん
「僕が漫画の編集者をしていたときに、週刊連載でストーリーが思いつく人はなかなかいなくて、漫画家を志望していた人のほとんどが諦めていく姿を目にしていた。

僕は漫画家を育成するときに、超一流と一緒に仕事をするわけだけど、超一流の人以外には諦めてもらうという仕事も同時にしていたんです。

けれども、今、この縦スクロール漫画をやるようになって、才能があるなと思った人が、数年で超一流にならなくても、『縦スクロールのここの部分やってみない?』っていうふうに、ちょっとした仕事を振ることができる。縦スクロールの分業制で、漫画に挑戦できる人の数が増えているなと感じます」

縦読み漫画は、今後、漫画界に大きな変革を起こす可能性があると佐渡島さんは話します。

「僕はストーリーの力を信じているところがあって、日本の漫画が海外と比べても、ハリウッドの映画と比べても面白いものがあるという、そこは日本のストーリー制作の仕組みのすごさだなと思っていて。
『ジャンプ』で大成功した作品は、毎週約600万人が月曜日になると待ち望んで興奮していたわけじゃないですか。

これから全世界で、全員が同時に読んで『あれ見たか』ってSNSに書き込んだりすることが毎週のように起きる、そういう物語を作れる時代が来ている。

誰がその一番の熱狂を、一番はじめに勝ち取るのか。手塚治虫さんが起こしたような変革というのを、縦スクロール漫画だと起こすチャンスがある、そういうわくわく感を感じて、縦スクロールに挑戦しています」

あの名作も縦読み漫画に!
「手塚治虫『どろろ』を縦読み漫画に 手塚るみ子さんに聞く」

  • 千葉柚子

    首都圏局 ディレクター

    千葉柚子

    2017年入局。鹿児島局を経て2021年から首都圏局。文化や教育、防災などのテーマに関心を持ち取材。

ページトップに戻る