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手塚治虫さんのブラック・ジャック AIで新作を “らしさ”に迫れるか

  • 2023年6月13日

人間の創造性や面白さにAIがどこまで迫ることができるのでしょうか。漫画家・手塚治虫さんの代表作の1つで、生命と医療をテーマにした漫画「ブラック・ジャック」の新作を生成AI使って生み出そうというプロジェクトが始まりました。どれだけ「ブラック・ジャック」らしさに迫れるか。2つの生成AIを使って人間と「協同」で新作を制作するプロジェクトの内容です。

世界で愛読「ブラック・ジャック」

「ブラック・ジャック」は漫画の神様とも呼ばれる漫画家・手塚治虫さんの代表作の1つです。50年前の1973年に「週刊少年チャンピオン」で連載が始まり、1983年まで10年にわたって全242話が掲載されました。

医師の免許を持たない、いわゆる「もぐり」の天才外科医、ブラック・ジャックを主人公とした、「生命」と「医療」をテーマにした作品で、日本のみならず世界中で愛読されています。

「TEZUKA2023」生成AIで完全新作を制作

この「ブラック・ジャック」の新作を生成AI使って生み出そうというプロジェクトが始まりました。
12日に開かれたプロジェクトの報告会には、手塚治虫さんの長男でプロジェクトの総監督の眞さんや、プロジェクトの総合プロデューサーの人工知能が専門の慶應義塾大学の栗原聡教授らが出席しました。
報告会ではプロジェクト名「TEZUKA2023」が公表され、「ブラック・ジャック」の完全新作を、生成AIを使って制作することが発表されました。

新作は2つのAIと人間の「協同」制作

新作は2つの生成AIを使って、人間と「協同」で制作することになっています。大まかなストーリー作りをテキスト生成AIの「GPT-4」で、そしてキャラクターの顔とコマは画像生成AIの「Stable Diffusion」に(ステーブル・ディフュージョン)生成させます。

今回、AIは物語のプロットやキャラクターなどのアイデアを示してくれますが、実際の漫画のコマ割りやセリフなどは、漫画の制作に携わる人間の「クリエーター」がAIのアイデアを生かしながら制作する予定です。

人間の創造性や面白さに迫れるか

GPT-4には、ブラック・ジャックの物語の構造、登場人物、世界観、テーマといった「作風」を取り込んだ指示文をうちこんで、ストーリーのプロットなどを作成させると言うことです。

また、画像生成AIには手塚さんのほかの作品も含めて、キャラクターの表情や背景、筆づかいなど、手塚さんの画風を学習させているということです。

そして、このプロジェクトは単に生成AIを使って新作に挑むだけでなく、「人間の創造性や面白さにAIがどこまで迫ることができるのか」といった研究が主な狙いだとしています。

「離島、コロナ」生成AIを使ったストーリー

12日の報告会では「ブラック・ジャック」に出てくる物語の構造やセリフ、登場人物といった内容を事前に「学習・調整」させた生成AIを使ったデモンストレーションが行われました。

この中で眞さんが「離島、コロナ」などとと入力すると、離島でコロナウイルスに感染した子どもを救うためにブラック・ジャックが地元の祈祷師と協力するといったストーリーが生成されました。

またサンプル画像として、ブラック・ジャックがスマートフォンを操作していたり、助手でパートナーのピノコがノートパソコンを触っている漫画の絵が公開されました。

「ブラック・ジャック」らしさ

ブラック・ジャックは多くのエピソードで法外な手術料を要求しますが、生きたいと強く願う患者に対しては時には無報酬で手術を引き受けることもあるなど、人間味ある姿も描かれています。

社会問題や倫理的な問題にも切り込み、医療の限界や尊厳死、臓器移植などをテーマにした回もあり、命とは何か、生きることとは何かを、深く考えさせることも魅力の1つです。医療というジャンルにとらわれない広がりのある手塚さん独特の世界観で読者の心を掴んでいます。

どこまで「ブラック・ジャック」らしさに迫れるか。AIを使ったブラック・ジャックの制作をめぐる難しさの1つです。

AIに的確な指示を与えられるか

ブラック・ジャックらしい、手塚治虫らしい漫画にどれだけ近づけるかは、AIに実際にどのような指示を出せば、人間側が、そのアイデアを生かしやすい答えを返してくれるのか、AIに対して的確な指示を与えることができるのかが重要なカギになります。
今後、クリエーターたちがAIと「協同作業」を進める中で、その課題が見えてくるとしています。

手塚プロダクションによりますと、生成AIで制作するブラック・ジャックの新作はことし秋に、秋田書店から出版される「週刊少年チャンピオン」で掲載される予定です。

プロジェクト総監督の手塚眞さんは

「手塚治虫は必ずしも明るい未来社会だけでなく問題点、危機的な状況も感じ取った上で作品を発表してきた。私たちはそうした漫画から未来について学んだことも多いと思う。
このプロジェクトのハードルは高く、心の中では半分無理かもと思っているが、挑戦することは重要なことで、手塚治虫も漫画という表現で様々なことに挑戦してきた。AIは人間に取って代わるのではなく、創作をサポートすることでさらに人間の創造性を広げると期待している」

生成AIの課題 著作権侵害の可能性

一方、生成AIをめぐってはさまざまな課題が指摘されています。画像を生成するAIでは、生成された画像が、既存の著作物と類似するなど、著作権を侵害する可能性があります。
アメリカでは「自分の作品を許可なくAIの学習に使われ、似た作品を作られた」などとして、AIの運営会社を相手に集団訴訟を起こす動きも出ています。

日本の著作権法では、学習用のデータとして著作物を収集・複製し、学習用データセットを作成することを原則として認めていますが、必要と認められる限度を超える場合や、著作権者の利益を不当に害することになる場合を除くとしています。
こうした中、クリエーターを対象に業界団体が行ったアンケート調査では、「どのような行為が侵害にあたるのか線引きがあいまいだ」とする指摘が相次ぎ、公表した漫画がAIが学習するデータとして勝手に使われていたとか、自作のイラストを使って生成された画像が無断で販売されているなどと、訴える声が寄せられています。

データ流出 犯罪に悪用 仕事奪われる懸念…

また生成AIに入力したデータが秘匿性の高い情報などだった場合に流出を懸念する声も上がっています。
さらに生成AIが、フェイクニュースの生成やサイバー犯罪に悪用されるおそれも指摘されています。
また、コンテンツを簡単に大量に生成できるほか、要約や翻訳、アイディア出しなどにも活用でき、大幅な仕事の効率化につながるため、仕事が奪われるのではないかといった懸念の声も上がっています。
アメリカではAIを使った短編映画などが製作され、映画業界で働く人たちなどが反発し、ストライキを行う事態となっています。

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