各地のすてきな温泉や銭湯を発掘するコーナー「#いいお湯見つけました」。
今回訪ねたのは、東京荒川区にある、創業108年の銭湯。
実は、1年間の休業を経て、去年復活したばかりです。
その背景には、2つの家族の物語がありました。
(ひるまえほっと リポーター/ディレクター 丹友美)
東京・東日暮里(ひがしにっぽり)にある、創業108年の銭湯。
昭和の面影が残る脱衣場や浴室。まるでタイムスリップしたかのようです。
昔から熱い湯が自慢で、多くのお客さんを魅了してきました。
銭湯の6代目、甚五與司直(じんご・よしなお)さん。
祖父、祖母、父、叔母と、代々家族で銭湯を守ってきました。
祖父母に『将来やりなさいよ』みたいなことをずっと言われていたんで。残しておきたいっていうのがありまして。
甚五さんが銭湯を継ぐきっかけになったできごとがありました。
2年前、先代の叔母が突然亡くなり、銭湯は休業。廃業の危機に陥ったのです。
「家族の思い出が詰まった銭湯を残したい」
甚五さんは再開に向けて、親族を説得して回っていました。
甚五さんを後押しした人が。
番頭の石田綾子(いしだ・あやこ)さんです。2人は幼なじみ。
幼なじみ。赤ちゃんのときから知っていますから。
綾子さんは、生まれた時からこの銭湯で育ちました。
脱衣かごがゆりかご代わりだったといいます。
父の代から住み込みで働かせていただいて、父が前番頭。
番頭は、銭湯全体の管理を任されています。
☆自慢のお湯を体験♪
おー、ちょっと、熱い!
ありがとうございます。
お湯は45度。この湯加減が、創業当時から地元で愛されてきました。
☆人気のお湯の秘密は?
お湯は今も薪で沸かしています。火を焚(た)くのは、なんと綾子さん!
温度管理は自分の感覚が頼り。
何度も釜場と浴室を往復し、お湯の温度を確かめます。
心配性なので、10分から15分ぐらいで、釜の様子を見ながら、チェックしに来ています。
こうした技術は、“釜じい”と呼ばれ、みんなから慕われてきた父の勇(いさむ)さん(83)から受け継ぎました。番頭を継いで奮闘する綾子さんを、勇さんは見守ってきました。
綾子さんが継ぐことに不安はなかったですか?
いやぁ、俺の子だから何とかなるさ。
休業中も石田さん家族は、釜を冷やすと、再び湯を沸かすことができなくなるため、2日に1度、釜に火を入れ続けてきました。
また銭湯が開いたときに、お客さんが帰って戻ってきてくれたときに、『昔のまんまじゃん』っていう顔を見たいなっていう。
作業を続ける中で、「銭湯が再開できるなら、自分が番頭を継ごう」という決意を、創業家の甚五さんに伝えました。
やってくれるならやろうと。やってくれる人がいなかったら、絶対ここはできないんで、綾ちゃんが『やる』って言ったからじゃあやろうかと。
その綾子さんの覚悟が決め手となり、去年4月、営業再開。
創業家と番頭家族、2つの家族の協力で、銭湯を復活させたのです。
綾子さんが井戸水を薪で沸かしたお湯は、45度と熱め。熱い湯で疲れを癒します。
お客さん
「ほかに入れないね。癖になっちゃうんだよ」
お客さん
「熱いですけど、出てからもポカポカが続くんで」
覚悟っていうよりやるしかない!それだけですね。
サウナも水風呂もない銭湯なんですけど、もうここまで来たらこれを守り抜く!
まぁ、ボチボチやればええ。
あなたの街の「#いいお湯」を教えてください。
お気に入りの銭湯や温泉など、思い出やエピソードを添えてぜひお寄せください。
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【編集後記】
昭和のノスタルジックな雰囲気が漂う銭湯。
見た目だけでなく、番頭家族が代々受け継いできた熱いお湯が心も熱くしてくれます。
石田さんが井戸水を薪で沸かすお湯は、肌触りがとてもなめらかで高温なのにピリつきが全くなく、熱さがじんわり体にしみいっていきます。初めての感覚に驚きました。
創業家とそれ以上にこの銭湯を知る番頭家族が、昔ながらに家族ぐるみで支え続ける銭湯の姿も、これからもぜひ守り続けてほしいと思いました。
リポーター 丹友美