物流2024年問題 地域産業は

来年4月以降、いわゆる働き方改革の一環として、トラックドライバーの時間外労働の規制が強化されます。ドライバーの長時間労働の負担軽減が期待される一方、十分な人手が確保できなくなり、これまでどおり荷物が届けられなくなるおそれもあることから「物流2024年問題」と呼ばれています。その影響は都市との物流によって支えられていた地域の産業に及ぶおそれも。
現場を取材しました。

(仙台局記者 吉原実)


【揺らぐ物流】

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福島県いわき市の花農家です。
11月下旬、商品の花を受け取るため、宮城県の運送会社のトラックがきました。

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シクラメンはいまが最盛期。
花農家の薄葉大介さんは夏を除くほぼ毎日、旬の花を全国に出荷してきました。

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花農家・薄葉大介さん
「花によっては湿気を嫌う花があったり、葉っぱが柔らかいのでなるべくこすらないで運んでほしいとか、そういった植物の特性を長年やっているドライバーさんはよくご存じなので安心して品物を運んでもらえる」

しかし、その体制が揺らごうとしています。
背景にあるのが「2024年問題」です。

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例えば、先ほどのトラックはこの日、仙台市にある拠点を午前8時前に出発し、2時間かけていわき市の農家に到着しました。

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20分くらいで花の積み込みを終え、午前10時すぎに次の農家に向けて出発。
福島と宮城で10軒の農家を訪問し、仙台市の拠点に戻ったのは午後5時半ごろでした。

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ドライバー
「生産者さんによって量が多いときは結構時間がかかるときがあります。
(集荷先は)大体5か所から、多くて12~13か所ですね」

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戻った後は首都圏に向かう別のトラックへの花の積み替えがあり、すぐ帰れません。
結局、この日仕事が終わったのは午後6時半ごろでした。
拘束時間がさらに長い秋田や岩手に行く日もあることから、会社ではこのペースで働くと年間の時間外労働の上限を超えるおそれがあると見ています。

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運送会社・小野寺敦志 社長
「ドライバーが荷物を受け取って集めるだけであれば、時間内で帰ってこれます。問題は荷物を集め、戻ってきたドライバーが仙台の拠点に戻ってきて、仕分け作業をして別のトラックへの積み込み作業をする。その後、首都圏へ向かう別のドライバーさんが時間内で一定の距離を走ってから休むか、もしくは積み込みが終わってはいるが翌日の朝から走るのか、というところのバランスです。ドライバーからしたらもう少し走りたいと思っても、時間の上限を考えると、『休んでください』と言わざるを得ないところはある」


【集荷回数減るおそれも】

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ドライバーの拘束時間を抑えるため、仙台の拠点から遠い農家との取り引きを今より減らすことも検討しています。
遠方の農家まで花を受け取りにいっても、十分な量を受け取れなかったとすると、行き帰りの運賃や人件費を差し引いた場合、利益が見込めない場合もあるためです。

運送会社・小野寺敦志 社長
「1軒で大量の数がでればちょっとまた違うんですが…。努力だけではどうしようもないところがあってそこをどれほど協力を(荷主の)皆さんにしてもらえるかというところだと思います」

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いわき市の花農家の薄葉さんです。
いわき市でも受け取れる花の数が少ない場合、トラックがこれまで通り来られなくなる可能性もあります。
薄葉さんは、トラックの来る回数が減るかもしれないことに危機感を覚えています。
首都圏向けは売り上げの半数を占める生命線。
トラックが来る回数が減ると、そのまま経営の打撃になります。
衝撃や温度の変化から花を守る特殊なトラックを運行できる運送会社は少なく、この農家が取り引きできる会社はほかに1社しかありません。

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来年春以降も今の体制を維持してもらおうと、ドライバーが花を積み込む作業を手伝い、負担を減らそうとしています。

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花農家・薄葉大介さん
「運送会社でこの荷物を運べない採算がとれないとなった場合に生産量を維持することは難しくなります。お互いの存在がなければ成り立たない関係だと思っています」


【取材後記】

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来年4月の時間外労働の規制強化を前に、物流業界では新たな輸送拠点を設けたり、ドライバーの採用活動を積極化させる動きも出ています。

ただ、こうした動きができるのは、一部の大規模な運送会社に限られ、物流業界のほとんどを占める中小企業は、限られた人材と予算の中での対応を迫られています。

日本全国、津々浦々に張り巡らされた物流網。そして、それによって私たちが当たり前のように享受してきた豊かな消費生活。物流の2024年問題はその常識を大きく変えるかもしれません。

あなたがスーパーで手に取ったその商品、どこからどう届けられたのか、一度調べてみませんか?


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仙台放送局記者

吉原実
新聞記者をへて2023年から仙台局
現在は主に金融や産業政策など経済取材を担当