自民税調 防衛増税案 了承 実施時期は来年議論に先送り

防衛費増額の財源を賄う増税策をめぐり、自民党税制調査会は15日の全体会合で、法人税、所得税、たばこ税の3つの税目を組み合わせる案を了承し、党内の反発に配慮し、増税の具体的な実施時期などは来年改めて議論することになりました。今後の対応を宮沢会長に一任することを決めました。

防衛費の増額で不足する1兆円あまりの財源を賄う増税策をめぐり、自民党税制調査会は午後に全体会合を開き、これまでで最も多いおよそ120人が出席しました。

議論の結果、法人税、所得税、たばこ税の3つの税目を組み合わせる案が了承され、今後の対応を宮沢会長に一任することを決めました。
具体的には
▽法人税は納税額に4%から4.5%を一律に上乗せする付加税を課すとしています。ただ、中小企業などに配慮し、法人の所得のうち2400万円相当分は税額控除の対象にするとしていて、対象額は当初の1000万円から拡大されました。

▽所得税は当分の間、税率1%の新たな付加税を課すとしています。宮沢会長は、防衛費のための新たな所得税の付加税になるとの認識を示しました。一方で、東日本大震災からの復興予算にあてる「復興特別所得税」の税率を1%引き下げて、現在2037年までとなっている課税期間を延長するとしています。復興財源の総額を確実に確保するために必要な期間を延長するとしていて宮沢氏は、最長で13年になるとの見通しを示しました。

▽たばこ税は国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、予見可能性を確保したうえで、1本あたり3円相当の引き上げを段階的に行うとしています。

こうした措置の施行時期は、いずれも「令和6年=2024年以降の適切な時期」としています。

党内の「拙速に議論を進めるべきではない」といった反発に配慮して、それぞれの措置を始める時期は「2024年以降の適切な時期」とするにとどめて、具体的には決めず来年改めて議論することになりました。

自民・公明両党は16日にそれぞれ党内手続きを経たうえで、個人投資家を対象にした優遇税制「NISA」の拡充などもあわせて盛り込んだ与党の税制改正大綱を決定することにしています。

「復興特別所得税」から一部を事実上転用

15日に示された案では、復興特別所得税について、家計をとりまく状況に配慮し、2.1%の税率を1.1%に引き下げるとしています。その一方で、防衛費増額の財源を確保するため、当分の間、所得税の税額を一律で1%上乗せする新たな付加税を導入します。事実上、復興所得税の一部を転用する形です。

一方、毎年度の復興特別所得税の税収が減ることになり、被災地からは「今後の復興に影響が出るのではないか」という強い懸念が出ています。これについて政府・与党は、「毎年度の復興予算は確保し、影響を与えない」としていますが、すでに発行した国債の償還財源が減ることから、2037年までの25年間としていた復興特別所得税の課税期間を延長するとしています。ただ、延長期間については、「復興財源の総額を確実に確保するために必要な長さとする」としていて、具体的な年数は明示していませんが、自民党の宮沢税制調査会長は、最長で13年になるとの見通しを示しています。

所得税への上乗せは2.1%で変わらず、政府・与党は、「個人の所得税の負担はこれまでと変わらない」と説明していますが、上乗せ期間の延長は、事実上の負担の増加となり、今後、反発も予想されます。

法人税は「付加税」方式で4%~4.5%上乗せ

防衛費の増加分の財源として法人税も増税されます。

今回の増税は「付加税」という方式で課税され、税率は「4%から4.5%」となっています。これは企業活動で得た所得にかかる税率ではなく、納税すべき「税額」に対する税率となります。

ただし、中小企業などへの配慮として、上乗せ分を計算する際、法人税の「税額」から「所得が2400万円相当の税額」を控除するとしています。


資本金1億円以下の中小企業の場合、「所得が2400万円相当の税額」は500万円程度となりますので、法人税の税額から500万円を引いた額に、4%から4.5%をかけた額が今回の新たな負担額となります。

例えば、税額が700万円だとすると700万円から500万円を引いた200万円に4%から4.5%をかけた額、8万円から9万円程度を新たに負担することになります。

一方、課税対象の所得が2400万円を下回る場合は、新たな負担は生じないこととなります。

たばこ税は1本あたり3円相当の引き上げを段階的に

たばこ税は国産葉たばこ農家への影響に十分配慮しつつ、予見可能性を確保したうえで、1本あたり3円相当の引き上げを段階的に行うとしています。

宮沢 税制調査会長「何とか方向性固められた」

自民党の宮沢税制調査会長は記者団に対し「3日間にわたり、相当いろんな意見があったが、最後はかなりの方に拍手していただき、私に一任となった。党内で意見が分かれていることもある程度わかっていたので大変難しい作業だったが、岸田総理大臣の指示に応えて何とか方向性を固められ、ありがたい仕事をさせてもらった」と述べました。

また宮沢氏は所得税に新たな付加税を課すことについて「税の名前はこれから決めなければならないが、まさに防衛費のための新しい付加税を1%の税率で設け、国民に負担をお願いしなければならない」と述べました。

その上で、今後の議論の進め方について「来年の税制調査会の議論で詳細を決定し、法案の形にしていくことを決めた」と述べました。

甘利 前幹事長「体を張って増税必要性 訴えるべき」

自民党税制調査会の幹部を務める甘利 前幹事長は「国際環境の急激な不安定化に対し、防衛費は短期間のうちに2倍にせねばならず、しかもずっと続くことになる。これを赤字国債で賄うことはできない。岸田総理大臣はよく『決断できない』などと言われるが、こんなすごい決断をした」と述べました。

その上で「受けがいい政策ではなく10年、15年たってよくぞ判断してくれたという政策をしていくのがわれわれの責務だ。増税はなかなか受け入れられないかもしれないが、体を張って必要性を訴えるべきだ」と述べました。

稲田 元防衛相「増税お願いは責任ある政治」

自民党安倍派の稲田元防衛大臣は記者団に対し「令和9年=2027年は中国の習近平国家主席の3期目の最後の年になり、今よりも格段に安全保障環境が厳しくなっている。この5年間で防衛費をGDP2%にすることは非常に意義がある。『税で1兆円強は確保する』という1行がしっかり書かれていたので賛成した」と述べました。

その上で「国民に防衛のため、1兆円の増税をお願いすることは、責任ある政治だと思っている。そこを明確にした岸田総理大臣を支持する」と述べました。

高鳥 衆院議員「やり方に納得していない」

安倍派の高鳥修一 衆議院議員は「『わずか1週間でこんな大切なことを決めるのが本当にいいと思っているのか』と聞いたら、ほとんどの出席者がうなずいていた。口には出さないが『確かにそうだ』と思っている人は多いと思う。こういうやり方は納得しておらず、これからもしっかり議論していく」と述べました。

また、岸田総理大臣による増税の検討の指示について「いくらなんでもわずか1週間でというのは本当によかったのか。プロセスの問題がある。最終的には従わないといけないが、岸田総理大臣がこれだけの決断をしたことは、もちろん責任を負う覚悟でしたのだと思う」と述べました。

中村裕之 衆院議員「税最優先は残念な進め方」

麻生派の中村裕之 衆議院議員は記者団に対し「増税時期が決め打ちでないので一任を認めたが、歳出改革など議論すべきことがあるにもかかわらず税を最優先にしたのは残念な進め方だった」と述べました。

その上で「岸田総理大臣は去年の総裁選挙の中で『令和の所得倍増』や『成長と分配の好循環』などと訴えていたが、いずれにも反する増税が持ち出されてくることには非常に違和感があり、国民からの信頼が損なわれないか心配だ。説明責任を尽くしてもらいたい」と述べました。

宮澤博行 衆院議員「防衛増税無期限延期と解釈」

安倍派の宮澤博行 衆議院議員は記者団に対し「現時点で増税を決めるのはよくないが、今回、実施時期については柔軟な表現となっていたので、私としては『防衛増税無期限延期』と解釈して納得した。今回、国債の活用や経済成長などが一切語られない中で議論が進んだのはよくない。税ではなく、政策全体でどうするかをもう一度、議論をやり直すことが必要だ」と述べました。

また、今回の議論の進め方については「非常に違和感がある。税制改正の主要項目としても入ってなかったものがとりまとめの時期にいきなり出てくるのはおかしい。こういうやり方をしてはいけない」と述べました。

佐藤正久 参院議員「国民の納得感を」

茂木派の佐藤正久 参議院議員は「増税は最後の手段であり、その前に防衛費を捻出するための『ふるさと納税』に近い制度をつくるなど、やるべきことをやって国民の納得感を得ないといけない」と指摘しました。

また、今回の議論の経緯について「防衛力強化の中身を説明する期間がないままに43兆円という数字が急に出て、先に歳入を決めるというやり方は、100点満点ではなかった」と述べました。

柴山 元文部科学相「プロセスに問題があったのではないか」

安倍派の柴山 元文部科学大臣は「施行時期や法人税の税率に幅をもたせていることは経済状況などに配慮したもので評価したい。ただし、年末の税制改正大綱に何が何でも盛り込まなければならなかったのか疑問が残り、プロセスに問題があったのではないか」と述べました。

その上で「経済状況によって税収が上振れする可能性もあるので、それを財源として考えることも考えるべきだ」と述べました。

公明 西田 税制調査会長「方向性出すことができ 大きな一歩」

公明党の西田税制調査会長は記者団に対し「自民・公明両党でさまざまな意見はあったが、一定の方向性を出すことができたのは大きな一歩ではないか」と述べました。

そのうえで、増税の具体的な開始時期が示されなかったことについて「岸田総理大臣の指示から非常に短い期間だったことは間違いなく、岸田総理大臣の大変固い決意も感じたが、もっと丁寧な議論をしてもらいたいといった声が非常に多かったので、来年の税制調査会で丁寧な議論をしていくことにした。今回深まった議論をさらに発展させていきたい」と述べました。

立民 泉代表「国民に責任だけ押しつけるのは大きな間違い」

立憲民主党の泉代表は、東京都内で記者団に対し「今回の岸田総理大臣の方針発表はあまりに唐突で手順も踏んでおらず、中身も決まっていない。5年間で43兆円にも増税にも根拠がなく、どれだけ防衛力を整備できるかも不確かで、納得いかない」と述べました。

その上で「国民に責任だけ押しつけるのは大きな間違いだ。歳出改革でどれだけ財源を生み出せるのかや、子育て支援なども含めた優先順位を明確にすることが最優先で、いきなり増税というのは国民に対して失礼な話であり、日本の防衛や自衛隊に対する反発も招きかねず、非常によくない」と批判しました。

自民党税制調査会 全体会合の前の発言は

自民党の宮沢税制調査会長は15日午前、記者団に対し「役員会では、全員の賛成をいただいた。『この案でいこう』と。全体会合となる午後の小委員会でいろんな意見があると思うので何とか納得していただかないといけないと思っている」と述べました。
自民党無派閥の山本有二 元農林水産大臣は記者団に対し「まだまだ法案の作成には至らない骨子のみなので来年の税制調査会の議論でさらに詰めていく。会合で異論は大いにあり、『復興特別所得税』は一切、いじらないことを理想とする意見が半分以上あった。まだ猶予が1年間あるので意見は変化すると思う」と述べました。
自民党安倍派の西田昌司 参議院議員は「増税については、法制化するためにまだ細かい設計の議論をするので、今回は大体おおむねの方向だけが提案された。実質的に『復興特別所得税』による負担はなく、負担が増えるのは法人税だけだ。中小の法人はほぼ除かれ、たまりすぎている大企業からの留保金を減らすための措置だと解釈している」と述べました。
自民党無派閥の片山さつき氏は「景気や金融の状況が見えない中で、拙速に決めては責任は持てないと言ってきたが少なくとも来年のこの時期まで状況を見る余裕をいただいたことに感謝したい。ただ、法人税については、内部留保をため込みがちな余裕のある会社と、新型コロナの行動制限に協力してやっと自力で盛り返した企業も均一にというのは、しんどい」と述べました。

岸田派 増税支持を確認

午後に開かれた自民党の各派閥の会合でも関連する発言が出されました。

岸田派の会合では、事務総長の根本元厚生労働大臣が「宏池会=岸田派は、保守本流と言われるが、保守本流とは日本の政治や統治に現実的な責任を持つことであり岸田総理大臣の揺るぎない覚悟を見た。議論は大詰めであり、一致結束して臨んでもらいたい」と呼びかけました。

そして、防衛力強化のための財源確保は不可欠だとして、増税の方針を支持することを確認しました。

一方、増税に慎重な議員が多い安倍派の会合では、会長代理で、税制調査会の幹部も務める塩谷 元文部科学大臣が「このあとの全体会合で、いろんな意見をもらい、どう結論づけるかまだわからないが、安倍派が主導してきた防衛力強化をしっかりと実行するため、結論を出していくことが大事だ」と述べました。

会合では、増税の議論について特に意見は出なかったということです。

根本 元厚生労働相「総理は不退転の決意」

岸田派の根本 元厚生労働大臣は「大枠はことし決めて、細部は来年の税制調査会で議論することは非常にいい知恵だと思う。岸田総理大臣は防衛の抜本強化のための財源確保について、今を生きるわれわれの世代が自らの責任をもって対処していくという不退転の決意でやっている。そのゆるぎない覚悟は評価する」と述べました。

石破 元幹事長「もう1年かけて中身の議論をするということ」

自民党の石破元幹事長は、記者団に対し「議論は収れんしてきて、法人税と所得税、たばこ税の組み合わせになると思う。もう少し時間をかけた方がよりよかったが、発言したい人には全員発言させて、押し切るということではなく、自民党らしかった。来年に増税の法改正をするわけではないので、もう1年かけて中身の議論をするということだ」と述べました。

その上で、増税の時期が示されなかったことについて「いまは時期を決め打ちするだけの説得材料がない。景気の動向もあるし、各種の地方選挙などでどのような民意が示されるかということもあり、難しかったと思う」と述べました。

自民8人の議員 “拙速な増税議論に反対”

拙速な増税の議論に反対する議員は自民党税制調査会の全体会合を前に会合を開きました。

会合には8人が出席し、増税への反対意見や、法人税の増税について、税収が上振れした場合には行わないといった条件を付けるべきだといった指摘が出され、拙速な意見集約は認められないという認識を共有しました。

会合を呼びかけた高鳥修一 衆議院議員は「防衛力強化の中身もまだ煮詰まっていないのに、岸田総理大臣の指示からわずか1週間で、このような大切な話を『えいや』と決めるやり方はあまりにも乱暴だ。もう少し丁寧に時間をかけてやるべきだ」と述べました。

公明 山口代表「大詰めの協議 重ねている」

公明党の山口代表は党の中央幹事会で「大詰めの協議を重ねている。自公連立政権は、いろいろな意見が出るが、最終的には議論を尽くして合意を作る賢明な知恵と経験でさまざまな難局を乗り越えてきた。同時に、国民への説明責任を尽くす姿勢も保っていかなければならず、全力を振り絞って、国民のために力を尽くしていく」と述べました。

立民 泉代表「何が必要か 議論していないことばかり」

立憲民主党の泉代表は党の会合で「自民党内も大混乱の状況だが、大いなる茶番かもしれないと気をつけて見なければならない。復興特別所得税に焦点があたって、それさえおろせば問題ないと捉えられては絶対にいけないし、法人税も、企業が賃上げ分の利益を確保するのも大変だと言われている状況だ」と指摘しました。

その上で「日本の防衛力として何が必要なのかを積み上げて冷静に整理し議論することが大切で、額ありきや枠ありきでは全く理解は得られない。政府は、何が必要で、どれぐらいの期間をかけて整備するのか、議論していないことばかりで、歳出改革の具体策もまだまだ示されていない。政府・与党の動きを注視したい」と述べました。

連合 芳野会長「国会で丁寧な議論を」

連合の芳野会長は、記者会見で「国民の命と暮らし、雇用や社会経済活動に関わるだけに、政府は国民に対して説明材料をしっかりと示し、国会で与野党による十分な議論が行われるべきだ。税目や金額が先行しているが、まずは必要性や妥当性についての説明があってしかるべきで、政府の説明責任と国会での丁寧な議論を求めたい」と述べました。

「復興特別所得税」税率下げる案 首相“復興事業に影響せず”

防衛費増額の財源として所得税に新たな付加税を課す一方で、「復興特別所得税」の税率を下げる案が検討されていることについて、岸田総理大臣は自民党税制調査会の幹部と会談し、今回の対応で復興事業に影響は生じないとして国民に丁寧に説明していくよう指示しました。

防衛費増額の財源確保をめぐっては、当分の間、所得税に1%の新たな付加税を課す一方、東日本大震災からの復興予算に充てる「復興特別所得税」を1%引き下げ、現在2037年までの課税期間を延長することが検討されていて、被災地からは「今後の復興に影響が出るのではないか」という懸念が出ています。

こうした中、岸田総理大臣は15日、自民党税制調査会の顧問を務める額賀元財務大臣らと総理大臣官邸で会談し、検討状況の報告を受けるとともに、今回の「復興特別所得税」をめぐる対応で復興事業に影響は生じないとして、国民に丁寧に説明していくよう指示しました。

会談のあと、額賀氏は記者団に「岸田総理大臣は『被災地にとって心配ないようにすべきだ』と話していた。政府が責任を持って復興事業に支障がないことを明確にするので、国民には安心してもらいたい」と述べました。