“過疎の町”が攻めの移住支援
2年連続で人口増加

鹿児島県内では、鹿児島市を含むほとんどの自治体で人口減少が続いています。
一方で、おととし・去年と2年連続で人口が増加している町があります。
なぜ人口が増えているのか、その背景を探りました。
(鹿児島局 西川祐亮)

“過疎の町”に見られる小さな変化

大隅半島の東部に位置する東串良町は県内有数のピーマンの産地で、春先から海岸一帯を黄色く染める「ルーピン」は、町の観光名所となっています。

自然豊かな東串良町は、県本土で最も面積が小さく、6200人余りが暮らしています。
長年、過疎化に悩まされてきましたが、最近、町には小さな変化が見られています。

町の中心部では新築アパートの建設現場が見られたほか、おしゃれなハンバーガーショップもお目見えしました。

人口増に向けた町の手厚い政策

東串良町では長年、人口減少が続いてきましたが、町外からの移住者が増加したことにより、おととし人口増加に転じました。
去年はおととしの11人を上回る37人の増加となり、人口の減少に歯止めがかかりつつあります。

人口増加の要因は一体、何なのか。
町の担当者が挙げたのは、移住者向けの手厚い支援策です。

空き家だった古民家を町がおよそ300万円かけてリフォームし、移住を検討している人に1か月間無料で貸し出します。

訪れた人たちに田舎暮らしを体験してもらいながら、町の魅力にも触れてもらおうと取り組んでいます。

(東串良町 安松宏隆 企画広報係長)
「大事なのは町に実際住んでもらって、町がどんな感じなのかというのを体験してもらうのが一番大事だと思います」

町は、平成14年から移住希望者に土地を貸し出す事業を始めています。

これらの土地はもともとは畑で、町が買い取って造成したものです。
これまでに190余りある区画すべて契約が交わされたと言います。

その人気の理由は、一坪あたり月額90円の破格の貸付料です。
さらに20年住み続けると無償で土地が譲渡されます。

移住者が語る町の魅力とは

おととし家族とともに大阪からUターンし、去年からこの団地で暮らし始めた河野沙織さんは、大阪で暮らしていたときには人間関係など、生活面でストレスを感じていたと話します。

(河野沙織さん)
「言葉や交通面などで都会での暮らしにストレスを感じていましたが、地元のことは何でも知っているし、同級生や先輩・後輩もいるのでストレスは全くないです」

さらに河野さんは、この団地に引っ越した理由の1つに、“生活の利便性”を挙げています。
団地のすぐ北側には、町を東西に貫く国道220号線が走っていて、国道沿いにはスーパーやドラッグストアがあります。

子どもたちの通う小学校も団地から徒歩圏内にあり、日常生活で困ることはほとんどないと言います。

(河野沙織さん)
「歩いて行ける距離に必要なものが全部揃うので、すごく“コンパクト”だと思います。年を重ねて免許を返納した後も、徒歩圏内で買い物ができることに魅力を感じてこの場所に決めました」

生活に必要な機能が集約された“コンパクトタウン”であることが、移住者をひきつける要因になっているようです。

コロナ禍で移住が加速?

また、東串良町から西隣にある鹿屋市へ行く場合、国道220号線を使えば車で30分ほどで行くことができます。
このため、“家は東串良”“職場は鹿屋”というように、鹿屋市のベッドタウンとして移住している人も少なくありません。

さらに、九州経済研究所の福留一郎経済調査部長は「新型コロナウイルスの影響も移住促進の追い風になっているのでは」と分析しています。

(九州経済研究所・福留一郎経済調査部長)
「このコロナ禍で地方回帰という大きな流れが生じています。『地方に移住したい、地方で仕事を見つけたい』と考える人が、とくにコロナ以降顕著に増えているので、そのような動きが今回の人口の増加にも、もしかしたら一因としてあるのかも知れません」

一方、県内全体では依然としてほとんどの市町村で人口の減少が続いています。
急激な人口減少は、税収の落ち込みによる住民サービスの低下や経済活動の停滞を招きかねず、人口減少のスピードをいかに抑えていくかが、どの自治体にとっても大きな課題となっています。

取材を終えて

5年間、大隅半島で取材を続けている私にとって、移住者を迎え入れる上で大切なことは「多様性や寛容性」だと考えています。
地方の小さな集落では慣習や”暗黙のルール”が人間関係を維持していくうえで重視されがちで、外から来た人たちが「閉鎖的で住みにくい」と感じることも少なくありません。
多様な考えを受け入れる空気をつくっていくことも、移住者が暮らしやすいと感じるまちづくりの土台になるのでは、と考えています。

鹿児島局記者
西川 祐亮
2017年入局。3月まで鹿屋支局で大隅半島の農業から基地問題まで幅広く取材。