発 テロ対処施設遅延は
運転停止へ 原子力規制委

再稼働している原子力発電所でテロ対策の施設が期限までに設置できない見通しになっていることについて、原子力規制委員会は、期限の延長は認めず、間に合わなかった原発は原則として運転の停止を命じることを決めました。鹿児島県にある川内原発はすでに期限まで1年を切っていて、九州電力は施設の設置が間に合わないとしていることから運転が停止される可能性があります。

「特定重大事故等対処施設」と呼ばれる施設は、航空機によるテロ対策などのため予備の制御室などを備えた施設で、再稼働に必要な原発の工事計画の認可から5年以内に設置することが義務づけられています。

しかし設置に時間がかかり、九州電力、関西電力、四国電力の5原発10基では期限より1年から2年半遅れる見通しで、原子力規制委員会に延長を求めていました。

さらに、完成時期の見通しが立っていない原発も含めると、7原発13基に上り、中にはすでに再稼働している5原発9基が含まれています。

川内原発 期限まで1年を切るも完成まで2年

原子力規制委員会は24日の定例会で、期限の延長は認めず、間に合わなかった原発は原則として運転の停止を命じることを決めました。

もっとも早く再稼働した鹿児島県にある九州電力の川内原発1号機は来年3月の期限まですでに1年を切っていますが、施設の完成までにはあと2年ほどかかる見通しです。

原子力規制委 更田委員長「看過できない」

原子力規制委員会は、代わりの措置をとることが可能かなど原発ごとに個別の状況を聞くことは否定しないとしましたが、委員からはテロ対策施設に代わる措置は難しいという見解が相次ぎました。

更田豊志委員長は「基準を満たしていない状態になった施設の運転を看過することはできない」と述べました。

また更田委員長は24日の定例会見で「工事に対する見通しが甘かったし、規制当局への出方も甘かった。何とかなると思われたとしたら大間違いだ」と述べ、期限が迫る中で間に合わないと訴え始めた事業者の姿勢を厳しく批判しました。

そのうえで「運転中の原発がテロ対策施設の設置期限を仮にきょう迎えたとしても、きのうときょうではリスクは変わらない。しかし、設置に手間取るとか、もう少し時間がかかるとかということを繰り返していたら、これは新しい規制の精神では安全の向上につながらず、いつか来た道に戻るかどうかの分かれ目だ」と述べ、事業者の事情を考慮して規制の在り方を変えたら福島第一原発の事故の教訓から学んでいないことになるとの見解を示しました。

九電「早期完成に向け最大限努力」

九州電力は「安全性をさらに高めようと設計の見直しを重ねた結果、施設の配置場所を確保するのに必要な固い岩盤の掘削などの土木工事が、想定より大規模で難しいものになってしまった」と説明しています。

そのうえで「今後の対応についてはしっかりと検討して参りたいと考えています。テロ対策の施設はさらなる安全向上のために必須のものとして認識しているので、早期の完成に向けて引き続き最大限の努力を続けて参ります」とするコメントを発表しました。

九州電力は、2011年に起きた福島の原発事故を受けて、鹿児島県と佐賀県にある合わせて4基の原発について稼働の停止を余儀なくされました。その結果、火力発電の燃料費がかさむなどしたため4年続けて赤字に陥りました。

このため2013年には、家庭向けなどの電気料金を平均で6%余り値上げしました。その後、去年までに4基は相次いで再稼働し、発電コストを削減できたなどとして、九州電力は今月(4月)から家庭向けなどの電気料金を平均で1%余り値下げし始めたばかりでした。

テロ対策のための施設の設置期限は鹿児島県にある川内原発の1号機が来年3月、2号機が来年5月までで、佐賀県にある玄海原発は3号機が3年後の2022年8月、4号機が同じく2022年9月となっています。

九州電力はいずれも期限内にテロ対策のための施設を完成させるのは難しいとしていて、今後、相次いで原発が停止すれば、九州電力管内の電気料金に再び影響が出る可能性もあります。

地元の専門家「妥当な判断」

鹿児島県が設置している川内原発の安全性などを検証する専門家委員会の座長を務める鹿児島大学の宮町宏樹教授は、委員会としてコメントする立場にないとしたうえで「原子力規制委員会は常識的な判断をしたと受け止めている。福島第一原発事故の教訓を踏まえて定めた原発の規制基準を、規制委員会みずからがそのときどきで変えてしまっては何のためのルールなのかということになるので、原発の安全性を考える上で妥当な判断だ」と話しています。

薩摩川内市長「コメント差し控える」

九州電力の川内原発がある鹿児島県薩摩川内市の岩切秀雄市長は「具体的なことは承知していないので、現時点においてコメントは差し控える」としています。

鹿児島県の三反園知事は「原子力規制委員会において考え方などが示されたと承知しています。県としては今後の動向を見守ってまいります」とコメントしています。

官房長官「高い独立性有する規制委の判断に委ねる」

菅官房長官は記者会見で「原子力規制の在り方については、高い独立性を有する原子力規制委員会の判断に委ねることが政府の一貫した方針であり、その方針に変わりはない」と述べました。

原発のテロ対策施設とは

「特定重大事故等対処施設」と呼ばれる施設は、東京電力福島第一原子力発電所事故のあとに施行された新しい規制基準により設置が義務づけられたもので、航空機の衝突によるテロなどへの対策が求められています。

原子炉から100m以上離れた場所に予備の制御室や電源、ポンプなどを備え、遠隔で原子炉を冷却することができ、施設がある場所はテロ対策上、明らかにされていません。

当初は平成25年の新規制基準の施行から5年、平成30年7月までに設置することとされていました。

しかし多くの原発で審査が長期化したことから、4年前(平成27年)に、再稼働に必要な原発の工事計画の認可から5年以内に設置すると方針を見直し、期限を延長していました。

四国電力「非常に厳しい判断 工期短縮に努力」

再来年の3月22日にテロ対策施設の設置期限を迎える愛媛県伊方町の伊方原子力発電所3号機を再稼働させている四国電力は「きょうの決定を非常に厳しい判断と受け止めている。丁寧かつスピード感を持って審査に対応するとともに、その後の工事についても工期の短縮が図れるように最大限の努力を継続していきたい」とコメントしています。

関西電力「施設の早期完成に向け最大限努力」

関西電力は、原発の再稼働で代わりの火力発電の燃料費など発電コストが削減されるとして、これまでに電気料金を、
▽高浜原発3・4号機の再稼働でおととし4.29%、
▽大飯原発3・4号機の再稼働で去年5.36%、それぞれ値下げしました。

すでに再稼働しているこれら4基の原発が停止した場合の収支への影響について、関西電力が去年12月に行った試算では、
▽高浜原発3・4号機が停止した場合は1か月当たり90億円、
▽大飯原発3・4号機が停止した場合は1か月当たり130億円のコストの増加になるとしています。

関西電力は「施設の早期完成に向けて引き続き最大限の努力を継続する」としていますが、原発が運転停止した場合、発電コストの増加で電気料金の値上げの議論が再び浮上する見通しです。

電事連「テロ対策施設は必須 最大限努力」

大手電力会社でつくる電気事業連合会は「テロ対策施設などは原発のさらなる安全向上のために必須のものと認識しており、早期の完成に向けて最大限の努力を継続する」とコメントしています。

電力各社 工期遅れる見通し明らかに

電力各社は今月17日、テロなどに対処する施設について、工事が大規模で時間がかかっているとして完了時期が遅れる見通しを明らかにしています。

それによりますと、最も早く再稼働した鹿児島県にある九州電力の、
▽川内原発1号機では来年3月の期限をおよそ1年超え、
▽2号機は来年5月が期限で同じくおよそ1年遅れるとしています。

いずれも福井県にある関西電力の高浜原発では、
▽3号機と4号機がそれぞれ来年8月と10月が期限でおよそ1年遅れるとし、
▽1号機と2号機は再来年6月の期限からおよそ2年半遅れる、としています。

▽大飯原発の3号機と4号機はいずれも3年後が期限でおよそ1年遅れる見通し、
▽美浜原発3号機は再来年が期限でおよそ1年半遅れる見通しです。

愛媛県にある四国電力の伊方原発3号機は再来年が期限で、およそ1年遅れるとしています。

▽佐賀県にある九州電力の玄海原発3号機と4号機も3年後の期限には間に合わない見通しで、
▽茨城県にある日本原電の東海第二原発は4年後が期限ですが着工のめども立っていないということです。

期限に間に合わないか、めどが立っていない原発は7原発13基に上り、このうち高浜原発の1号機と2号機、美浜原発3号機、東海第二原発を除く、5原発9基がすでに再稼働しています。

運転の停止を命じるための具体的な手続きは原子力規制委員会が今後検討することにしています。

一方、原発の運転を停止したあとの再稼働については、テロ対策施設の工事計画の認可を受けたうえで施設の工事が完了し、規制委員会による使用前の検査に合格すれば可能になるということです。

原発反対グループ「当然の決定」

原子力規制委員会は、テロ対策の施設が期限までに設置できない原発は、原則として運転の停止を命じることを決めました。これについて原発に反対する鹿児島県内の住民グループが会見を開き、「テロ対策施設は本来、再稼働の前に完成していなければならない施設だった」として当然の決定だという考えを示しました。

会見を開いたのは、鹿児島県の川内原発周辺の9つの市と町の住民グループで作る「川内原発30キロ圏住民ネットワーク」です。

この中で、高木章次代表は「本来であれば、テロ対策のための施設は再稼働の前に完成していなければならない施設だった。今回の決定を評価はしているが規制機関として、最低限のことをやっただけだ」と述べ、当然の決定だという考えを示しました。

また、今回の決定で、川内原発が停止する可能性が出てきたことについては、「当然の話だ。むしろ今すぐ止めるべきだ」と述べました。

今後の対応について高木代表は、鹿児島県の三反園知事に対して、県民への説明責任を十分果たすよう九州電力に求めることなどを要望していく考えを示しました。