待疑い1か月以内に
緊急の安全確認を指示

千葉県野田市で小学4年生の女の子が死亡し、両親が逮捕された事件を受けて、政府の関係閣僚会議が開かれ、安倍総理大臣は、児童相談所などが把握している虐待が疑われるすべてのケースについて、1か月以内に緊急の安全確認を行うよう指示しました。

千葉県野田市の小学4年生、栗原心愛さんが自宅で死亡し、傷害の疑いで両親が逮捕された事件を受けて、政府は関係閣僚会議を開き、安倍総理大臣や菅官房長官のほか根本厚生労働大臣や柴山文部科学大臣らが出席しました。

この中で安倍総理大臣は「子どもたちを守るとりでとなるべき、学校、教育委員会、児童相談所などが、悲痛なSOSの声を受け止めてあげることができず、幼い命を守ることができなかったのは本当に悔やんでも悔やみきれない思いだ。子どもの命を守ることを最優先に、児童虐待の根絶に向けて総力を挙げて取り組んでもらいたい」と述べました。

そのうえで安倍総理大臣は、児童相談所などが把握している虐待が疑われるすべてのケースについて1か月以内に緊急の安全確認を行うことや、虐待の通告元や資料を虐待している側に一切明かさない新たなルールを徹底すること、それに、威圧的な保護者に対し、警察を含め複数の機関が共同で対処することなどを指示しました。

厚労省 緊急確認は数万件を想定

虐待に関する緊急の安全確認の対象について、厚生労働省は虐待が疑われるとして児童相談所が、在宅で指導を行っているといったケースが全国で、毎年、およそ3万件、新たに報告されていることから、数万件にのぼると想定しています。

確認は、児童相談所を通して、自治体などの協力も得ながら行う方針で、1か月以内をめどに報告するよう求めていて、子どもに面会できないなど安全が確認されない場合は、速やかに、一時保護や立ち入り調査を行うとしています。

また、今回の事件をうけて、厚生労働省は、虐待の通告者や子どもからの申し出などの情報源を、虐待している保護者に明かさないことを徹底することや、学校や教育委員会などに、保護者から情報を開示するよう要求があった場合は、児童相談所などと連携して対応にあたること、それに威圧的な保護者には、児童相談所、学校、警察などの関係機関が連携して対応にあたることなどを全国の児童相談所や学校などに通知することにしています。

厚労相「児童福祉司の国家資格化を検討」

8日の衆議院予算委員会で、根本厚生労働大臣は「児童相談所の職員の資質向上は重要な課題だ。国家資格化も含めて、人材の資質向上を図るための方策について検討していきたい」と述べ、現在は、指定の講習会を受講するなどの条件を満たせば資格が得られる「児童福祉司」の国家資格化も検討する考えを示しました。

また、今の国会に提出を予定している児童福祉法などの改正案について「法改正は児童相談所の体制強化、職員の専門性向上の2つを考えていて、現在、調整を進めているところだが、今回の事案を踏まえたものとなるよう検討を進め、虐待事件が繰り返されないよう万全を尽くしていきたい」と述べました。

国家公安委員長「子どもの命 最優先に連携」

山本国家公安委員長は8日の閣議のあと、記者団に対し「これまで、児童相談所などが児童の安全を確認できない場合の対応や情報共有の強化について警察を指導してきたが、さらに、学校などから虐待に対応する際に威圧的な要求や暴力の情報があった場合には、子どもの命を最優先に関係機関と連携して対応するよう警察をしっかり指導していきたい」と述べました。

児相 若手職員の育成に課題

児童相談所では虐待の対応件数が毎年、増え続ける一方で、体制の強化は追いついていないのが現状です。

厚生労働省によりますと、18歳未満の子どもが親などの保護者から虐待を受けたとして児童相談所が対応した件数は、去年3月までの1年間に13万3000件余りに上り、10年前と比べて3倍以上に増加しています。

一方、虐待の調査や指導などにあたる児童福祉司は、去年4月の時点で3200人余りと、10年前のおよそ1.4倍に増加しているものの、対応件数の急増に追いついておらず、負担の軽減につながっていません。

これに対し国は、去年、東京 目黒区で、5歳の女の子が十分な食事を与えられずに死亡した事件をきっかけに、2022年度までに児童福祉司をさらにおよそ2000人増やす計画を打ち出しています。

こうした中、児童相談所での増員に伴って、新たに課題となっているのが若手の育成です。

威圧的な親にもひるまず、虐待を見抜いて適切に対応する力を養うには、5年はかかるとも言われていますが、去年4月の時点では、児童福祉司の6割が、勤務年数が5年に満たない職員です。

数年で別の部署に異動したり、厳しい業務に耐えきれずに辞めてしまう職員もいて定着が難しく、ベテランの職員に負担が集中し、若手をじっくり指導する余裕がないという声もあがっています。

いくら人手が増えても経験の少ない職員が虐待のサインを見逃しては、子どもの命を守ることはできません。今後、ますます若手職員は増える見通しで、増員と同時に育成をどう進めるかが対策のカギを握っています。

児相の常勤弁護士の配置進まず

子どもへの深刻な虐待が相次ぐ中、児童相談所の体制強化に向けて、弁護士との連携をどう進めるかも課題になっています。

児童相談所は、虐待の疑いがあるにもかかわらず子どもの安否確認や指導などに親が反発する場合、親の同意なく、子どもの一時保護を長期間行ったり、里親や施設に預けたりする措置を取ります。

その際、家庭裁判所の承認などを得る手続きが必要になるほか、子どもの保護などをめぐって親から裁判を起こされることもあるため、国は3年前に法律を改正し、弁護士を雇ったり相談契約を結んだりして連携して対応に当たることを義務化しました。

さらに、おととしには、厚生労働省の専門家会議が「より法的な対応力の強化が必要だ」として、常勤の弁護士の配置を積極的に進めるよう求める提言をまとめました。

しかし、去年4月の時点では、全国の児童相談所のうち、常勤の弁護士を配置しているのは僅か3%で、非常勤を含めても4割ほどにとどまっています。

地域によっては虐待に詳しい弁護士の確保や人件費の捻出などが難しい自治体もあり、今後、すべての児童相談所で日常的に弁護士の協力を得られる体制をどう整備していくかが課題となっています。

文科省が再発防止策検討へ 作業チーム設置

千葉県野田市で小学4年生の女の子が死亡し、両親が逮捕された事件を受け、文部科学省は教育委員会の対応などを検証し、再発防止策を検討するため、8日、作業チームを設置しました。

この事件で文部科学省は、女の子が暴力の被害を訴えたアンケートの回答のコピーを、父親に渡した野田市教育委員会の対応が極めて不適切だったとして、今月はじめに行政指導を行いました。

そして、これまでの教育委員会の対応などを検証し、再発防止策を検討するため、8日、浮島副大臣を長とする作業チームを設置するとともに、浮島副大臣を、午後、野田市に派遣することになりました。

作業チームでは、学校で行うアンケートなど、個人情報の取り扱いのガイドラインを策定することや、児童相談所や警察との連携をどう強化するかなどについて検討することにしています。

一方、文部科学省は全国の公立の小中学校で虐待が疑われるケースを把握していないかどうか、1か月以内に、点検することにしています。

柴山文部科学大臣は「教育委員会の情報管理の在り方や、保護者の威圧的な要求への対応に課題があったので、そうしたことを踏まえて検討を進めていきたい」と述べました。