13回連続無投票の村長選「選挙はこりごり」二分された村の禍根

半世紀“無風”

4年に一度の政治決戦、統一地方選挙。
北海道初山別村の村長選挙は今回で13回連続の無投票となり、半世紀近くにわたって無投票が続いている。
なぜここまで長く無投票が続くのか。
調べてみると、最後に行われた52年前の村長選挙が地域社会に深い禍根を残したようで…
(海野律人、土田史世)

最後の村長選は52年前

写真:日本海に面した初山別村

札幌市から北へおよそ200キロ。
北海道の北西部に位置する初山別村は、日本海に面した漁業と酪農が基幹産業の村だ。
かつてはニシン漁で栄えた村も過疎が進み、ピーク時に6000人近くあった人口は約1100人にまで減った。北海道内の市町村の中で4番目に少ない。

この初山別村の村長選挙が選挙戦となったのは、今から52年前の昭和46年(1971年)で、以来、半世紀近く無投票が続いている。

表:無投票の村長は江良重太郎5期20年(2期目から無投票)、阿部稔4期16年、宮本憲幸5期目へ

村を二分した選挙戦

現地に足を運び、村民に無投票が続いている理由を尋ねると「村には和を乱す選挙を避けようとする傾向がある」と多くの人が口をそろえる。

選挙戦で何があったのか。
“直近”の選挙であっても、行われたのは52年前。投票した経験がある村民は最年少でも72歳になっている。
当時を知る、初山別村の元村議会議員、成田邦好(87)に話を聞くと、選挙は村の教育長と地元農協の幹部の新人どうしの一騎打ちだったという。村民の関心は高く、投票率は97パーセントにも上った。
選挙戦は苛烈を極めたという。

元村議会議員 成田邦好さん

(元村議会議員 成田邦好)
「選挙当日はすごかったよ。お祭り以上だった。村人全員が出てきたんじゃないかな。相手候補の地盤の集落に入ろうとしても、門番みたいな人がいてなかなか入れてもらなかった。誰がどちらに票を入れようとしているのか、情報をつかむために随分張り込みをしたよ。“相手方に寝返ろうとしている”なんて情報が入ったら、見張りに行ったもんだ」

選挙が終わるやいなや、村には多くの刑事が訪れ、連日、捜査が行われたという。

写真「羽幌タイムス」選挙違反ついに候補も組合長も逮捕十人に

地元紙「羽幌タイムス」(2021年廃刊)は、公職選挙法違反の疑いで候補者本人やその兄弟、陣営の幹部など、選挙関係者が相次いで逮捕されたと伝えている。

(元村議会議員 成田邦好)
「村の人はみんなびっくりしたのでは。逮捕者があんなに出るなんて考えてもいなかったからね。激しい選挙戦で小さな村が二分されてしまった。その反動から“もう選挙はこりごりだ”という空気が村全体を覆い、今日まで無投票が続いていると思うね」

今日まで残る禍根

「無難に」「地域の和を乱さないように」
そうした村の“空気”が反映されてか、選挙戦はそれきり行われていない。
無投票は昭和から平成を飛び越えて令和の時代まで。

写真:初山別村役場の看板

現職を含め、無投票で当選を重ねた3代の村長は、いずれも村役場の出身者が務めている。

村内では「行政を安定的に運営できている」と評価する声がある。
その一方で、長年、村政に変化が起きにくく、過疎や少子高齢化などの課題に十分に対処できていないのではないかという指摘があるのも確かだ。

今回も無投票で当選が決まる

村のリーダーが、投票という民主主義の洗礼を受けずに選ばれ続けている現状。

写真:演説する現職の宮本憲幸氏


4月18日、村長選挙の告示日。立候補した1人が街頭で演説し、1日だけとなる選挙活動を行った。

午後5時に立候補の受け付けが締め切られると、今回も唯一の立候補者となった現職の宮本憲幸(65)の無投票当選が決まった。

写真:当選が決まり万歳する現職の宮本憲幸氏

5回連続の無投票当選だ。
当選直後、丁寧に住民の意見を聞いて村政を進める考えを示した。

(5回連続無投票当選 宮本憲幸)
「長く無投票が続いているが、人口減少の時代にあって選挙のあり方について新しい対応が求められているのではないか。初山別村において、村民が投票に参加する機会がないということであれば、住民の声を丁寧に聞くことが求められる。私はこれからも地域に足を運び、村民の悩みや要望をより丁寧に聞いていくようにしたい」

選挙はあったほうがいいけれど…

選挙戦がないまま“無風”の状況が続く初山別村。
風は吹いていないはずでも、村民の心は揺れ動いている。

元村議の成田は言う。
「ここ初山別村は漁師町だからね、やっぱりみんな元気があったよ。だけど、最後の選挙のあと、村から元気がなくなってしまった。誰が悪いというわけでもないけど、マンネリ化してしまった。だからね、選挙はあったほうがいいと思う。意欲に燃える新人が自分の考えを持って立候補する。候補者どうしがいろいろな意見を出し合うことで、村の発展につながるのだから。若手には、ぜひ選挙に出て、村の人口減少を抑えてほしいね」
(文中敬称略)

旭川局記者
海野 律人
2021年入局。旭川局が初任地。警察・司法を担当。
留萌支局記者
土田 史世
留萌市出身。連日地域の話題を精力的に取材。