選挙カーは必要か うるさい?役立つ?集票効果は?

NHKに寄せられた投稿です。
「選挙カーに効果があるのか理解できません。うるさいだけで、迷惑なだけなのに」

選挙期間になると、街でよく見聞きする「選挙カー」。
確かに、集中したい時に選挙カーの声が聞こえる時もあったような… でも何か意味があるからやっているような気もするし…
さまざまな疑問を抱きつつ、取材をスタートさせました。
(札幌局 原祢秀平)

さっそく街で聞いてみた

まずは、みなさんが選挙カーについてどう感じているのか、率直に聞いてみたい!
さっそく街に飛び出し、選挙カーが必要だと思うかどうか、札幌市内で聞きました。

まずは「必要ない」と答えてくださった方々の意見です。

選挙カーは必要ない「うるさいのでやめてほしい。気が散る」 「名前の連呼を聞いてもあまり意味を感じられない」 「すぐに通り過ぎ何を言っているのかよく分からない」 「あまりにうるさいとその候補者には投票しない」

一方で「必要」と答えてくださる方も。

選挙カーは必要 「耳や目から情報が入り政策を調べるきっかけになる」 「候補者を知ることができ、とても参考になる」 「見聞きすることで、選挙が近づいていることを実感」

10代から80代の50人に聞いた結果「必要」が10人、「必要ない」が40人でした。

聞いたうちの8割の人が選挙カーの必要性を感じておらず、実際に投稿者の方のように「うるさい」と言う人が多くいました。

選挙カーのルールは?

記者自身、選挙カーはあって当たり前だという印象を持っていましたが、こうした声を聞くと、そもそもなぜ選挙カーが必要なのか、どのようなルールがあるのか気になります。
調べてみると、選挙カーにはさまざまなルールがあることがわかりました。

選挙カーを含む選挙運動のルールは「公職選挙法」で定められています。
この法律では、選挙の公平性を保つためにもさまざまなルールが設けられていて、選挙期間中に家を一軒一軒まわる「戸別訪問」が禁止されています。
その結果、選挙カーが名前を知ってもらう効率のいい方法になっているのです。

選挙カーによる選挙運動の主なルールです。

▼運動は公示日から投票日前日の午前8時~午後8時 ▼選挙カーの走行中は「連呼行為」のみ ▼車を止めれば演説もできる ▼学校や病院などの周辺では静穏を保持するよう務める

選挙カーは、公示日や告示日に立候補の届け出を終えたあとから、投票日前日まで毎日行うことができます。時間は午前8時から午後8時までです。
選挙カーの走行中は「連呼行為」つまり同じ事を繰り返し言うことだけが認められていて、走行中は主に候補者の名前の連呼が通例になっています。一方で、車を止めていれば演説をすることができます。
また公職選挙法では「学校や病院などの周辺では静穏を保持するよう努めなければならない」としていますが、具体的な音量の規制や罰則はありません。

選挙運動する議員はどう考える?

こうしたルールの中で選挙運動をしている当事者の議員自身は、選挙カーでの運動をどう思っているのでしょうか。
地方議員の本音を聞いてみました。

地方議員の意見 「反応によって戦略を変えることもあり選挙カーは重要」 「名前が知られていないので、選挙カーがうってつけの手段」 「『選挙カーが回ってこない』という声もありやらざるをえない」 「選挙カーで訴えなければ、やる気がないと思われてしまうかも」

選挙カーを重要な手段として考えている地方議員がいる一方で、効果はよくわからないものの、有権者の声を気にして「選挙と言えば選挙カー」という慣習で使っている議員もいることがわかりました。
中には、選挙カーの音が騒音になり、効果も期待できないとして使わなかったと言う議員もいました。

選挙カーに効果が!?

さらに調べてみると、選挙カーや街頭演説などに集票効果があるという結果が出た調査があることが分かりました。

大阪大学大学院の三浦麻子教授の調査です。
三浦教授らの研究グループは、2015年に兵庫県の赤穂市長選挙で、1人の新人候補に密着しました。

選挙期間中の1週間、候補者の選挙カーに同乗しながら、選挙カーの移動や街頭演説など、どこでどんな活動を行ったかをGPSも使って詳細に記録しました。
その上で、無作為に抽出した市内の有権者2000人にどの候補者に投票したのかや候補者の好感度などを尋ねるアンケート調査を行い、908人から回答を得ました。
この2つを照らし合わせ、選挙カーなどの活動が投票行動にどう影響するのか分析しました。

その結果分かったことは、自宅と選挙カーが通ったりした場所の距離が投票先に影響していることでした。
この候補者に投票した割合は、選挙カーが自宅の近くを通ったりした有権者の場合は、平均の2倍ほどになっていたのに対して、自宅から1キロ以上離れた場所しか通っていない有権者の場合は、平均のおよそ6分の1にとどまっていました。

つまり、選挙カーが自宅近くを通ったりした人ほど、この候補者に投票する人が多くなるということが分かったのです。
一方、候補者への「好感度」に関してはこのような差は見られませんでした。

(大阪大学大学院 三浦麻子教授)
「選挙カーなどの選挙運動との距離が近いほど、候補者への好感度が上がっているわけではない一方で、じゃあ投票しなかったかといわれると投票する方に働きかけていたということが分かりました。少なくとも、有権者に対して接触していこうという方策は、ある程度効果があるといえます」

選挙カーのプロ“ウグイス”に聞いてみた!

実際、選挙カーに同乗している人はどう感じているのでしょうか。

選挙カーに乗って支援を呼びかける運動員は、その響き渡る声から“ウグイス”と呼ばれています。
幸慶美智子さんは、30年以上、いろんな政党の300人を超える候補者の選挙カーのスタッフを務めてきました。
現在は、司会の派遣会社を経営しています。
選挙カーは、候補者だけでなく、有権者にとっても大切だと言います。

(幸慶美智子さん)
「選挙カーは、候補者の本当の空気感のようなものを有権者がリアルに感じることができるツールだと考えています。SNSやチラシや選挙広報などは候補者の1番いいところを切り取ったものなのですが、選挙カーなら候補者の生の姿を実感できると思います」

一方で、有権者にとっては、選挙カーの効果を実感することが難しい時があるとも感じています。

(幸慶美智子さん)
「大きな選挙になればなるほど、有権者が選挙カーと接触する機会が減っていると思います。選挙によってもう少しやり方を変えた方がいいのかもしれないです」

選挙カーから見えてきたものは

選挙カーについて、疑問を寄せてくれた人や街の人たちの多くは否定的な意見を持っている一方で、専門家の調査や当事者たちの声では効果もあるということでした。

この溝を埋めるにはどうすればいいのでしょうか。
選挙制度に詳しい専門家は、こう指摘しています。

(北海学園大学 山本健太郎教授)
「公職選挙法で規定されている選挙期間中の選挙運動は規制が厳しくて、実際に候補者ができる選挙運動がかなり限られています。そこを柔軟にやっていかない限りは、なかなか今の選挙カー中心の選挙運動のあり方というのは変わっていかないのではないかなと思います。有権者がより簡単に候補者の考えを知ることができるような形で、より親切に有権者に自分の考えを届ける方法を考えることはできるのかなと思います」

法律の制限がある中でも、選挙カーが候補者と有権者をつなぐものになればいいと感じました。

札幌局記者
原祢 秀平
2018年入局。札幌局と帯広局を経て現所属。休日はサウナと温泉を楽しむ。