なぜ難航?今後の焦点は?

連立政権を担う自民・公明両党。東京での選挙協力をめぐり対立が表面化したのは記憶に新しい。時を同じくして、両党の立場の違いは別の分野でもあらわになっている。自民・公明両党による防衛装備品の輸出ルールの見直しに向けた協議。7月まで12回にわたって開催するも結論は出なかった。集団的自衛権の行使など、それ以上に主張が食い違う問題でも合意にこぎ着けてきた両者。なぜ今回は結論まで至らなかったのか。今後の焦点とともに探る。

(立石顕)

共に“転換点”と強調も隔たりは大きく

自民党・小野寺元防衛相

「戦後の日本の安全保障政策の大きな転換につながるので、丁寧に慎重にやっていくことが大切だ」

公明党・佐藤国会対策委員長

「歴史の大きな転換点の議論をしている責任感と強い使命感を持って議論しよう」

協議で両党のトップがともに「転換点」と強調した防衛装備品の輸出ルール見直し。しかし、このテーマは去年、防衛力の抜本的な強化策を決定した際に結論を先送りにしていたもので、両者の主張の隔たりは大きかった。

最大の隔たり。それは今は実質的に認められていない、戦闘機や戦車といった殺傷能力のある装備品の輸出をどこまで認めるかだ。

自民は見直しに走りたい

自民は「殺傷能力」があっても広く輸出を認める方針で協議に臨んだ。

協議が始まったのは4月25日。統一地方選挙の後半戦が終了した2日後だ。見直しに慎重な公明党の選挙への影響に配慮した。一方でG7広島サミット(5月19日~21日)の開催も意識していた。ウクライナのゼレンスキー大統領も来日したこのサミットを契機にルールを見直すことで、ウクライナに新たな支援策を打ち出せないか、との思惑もあった。

「日本も国際社会と同レベルの支援をしなければ、日本が有事に巻き込まれた際に国際社会から支援を受けられなくなる」(政府内)

政府内でも見直しの必要性を訴える声があがっていた。

また中国が台頭する中、日本からの装備品の輸出を拡大することで、東南アジアの国々などと安全保障上の関係を深めるツールになるとの考えもあった。

公明「平和国家の歩み」を重要視

これに対し公明党は、「殺傷能力」のある装備品の輸出には慎重な立場だった。その根底にあるのは、戦後の「平和国家としての歩み」を尊重するという考えだ。

日本が戦後、殺傷能力のある武器を輸出していた時期があったのをご存じだろうか。

朝鮮戦争では在日米軍向けに武器を生産していたほか昭和40年代前半にかけては東南アジアなどへピストルや銃弾などを輸出していた。

それが変わったのは昭和42年。佐藤内閣が共産圏などへの武器の輸出を禁止したのだ。軍事に転用される可能性がある大学のロケット技術を輸出していたことが問題視されたためだ。

その後、昭和51年。三木内閣が実質的に輸出を全面禁止に。日本は平和国家として、国際紛争を助長しないとの考えからだった。

その考えを尊重すべきというのが「平和の党」を看板に掲げる公明党の主張だ。平成26年、安倍政権時に「防衛装備移転三原則」を策定。これにより、輸出できる装備品は増えたが、公明党の主張も踏まえ、殺傷能力のある装備品の輸出は実質的に認めてこなかった。これが今のルールだ。

「自制してきた歴史をしっかりと踏まえなければならない」

今回の協議でも公明党は、慎重な姿勢を崩さず、合意には至らなかった。

政府関係者は、こうつぶやいた。

「自民党と公明党の距離が想像以上に大きく、両党の間合いを詰めるため協議を重ねたが、時間切れになってしまった」(政府関係者)

見えない出口・岸田が動いた

ただ、安倍政権時に憲法解釈の変更まで行った、集団的自衛権の行使をめぐる協議と比べれば、議論のテーマは絞られている。協議を重ねてもなぜ合意に至らないのか疑問だったが、協議のメンバーである与党議員への取材でその理由が少し見えてきた。

12回の協議の内、ヒアリングと呼ばれる専門家や業界団体の意見を聴く会が8回を占めた。

与党議員は、官邸から、結論を出す時期や方向性が示されるのを待っていた面があったと明かす。

「官邸サイドから『こうしてほしい』という意向が示されず、いつまでに決めなければならないという危機感が生まれなかった」(与党議員)

その一方で次のような声もあった。

「あえて結論を出さないことで、世論の反応を見極めたかった」(与党議員)

両党は結局、互いの意見を並べた「論点整理」を7月5日に公表。政府に対し、「論点整理」を踏まえた考え方を示すよう求め、秋に協議を再開することとなった。

それから20日たった25日。

総理大臣・岸田文雄は、小野寺や佐藤を官邸に呼び、両党が求めていた、政府としての考え方のとりまとめを急ぐ方針を伝え、それを踏まえ協議を再開するよう指示した。この問題を決着させたいという岸田の意欲が垣間見えた。協議の再開が早まる可能性が出てきた。

政府内からは次のような声も出ている。

「9月に予定される国際会議で 新たな方針を示すことも念頭にある」(政府内)

一方、同じ日に岸田と会談した公明党代表の山口那津男は、「(総理は)期限を決めて結論を出すという趣旨ではないと明確におっしゃっていた。外交日程と関係があるということではないという話だった」と強調した。

一致点も

7月5日に公表された論点整理からは両党の主張が一致した点も明らかになった。今のルールでは、安全保障面で協力関係のある国に対する輸出の対象を「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」のいわゆる「5類型」に用途があてはまる装備品に限定している。これが殺傷能力のある装備品を輸出してこなかった根拠となっている。

論点整理では、この「5類型」にあてはまる輸送機や艦艇などに、砲などの武器を搭載するのは可能ではないかとの認識で一致した。また共同開発した装備品であれば、殺傷能力がある戦闘機でも、第三国に輸出することを認める意見が大半を占めた。公明党も、見直しを何もかも拒否しているのではないことがうかがえる。

最大の焦点“5類型”

一方で隔たりが最も大きいのが、先ほど紹介した「5類型」そのものの見直しだ。

「救難」「輸送」「警戒」「監視」「掃海」に限定しているこのルールを撤廃すれば、この分野に当てはまらない戦闘機やミサイルなど、殺傷能力のある装備品の移転が大幅に拡大できるようになる可能性がある。

自民党はこのルールの「撤廃」を主張。

これに対し公明党は「必要に応じて追加にとどめるべき」と主張し、この点が再開後の協議で最大の焦点となる。

現場の企業はどう見る?

国内で装備品を生産する企業(防衛産業)は今回の協議をどう見ているのだろうか。

ある企業の関係者は次のように話す。

「もっと早くに結論を出してほしかった。せめて一致した点は早く実行に移してほしい」(企業関係者) 

一方、大手企業の幹部は…

「ルールの見直しだけでなく、トップセールスなど政府を挙げて取り組む体制整備が必要だ」(大手企業幹部)

国内では防衛産業から撤退する企業が相次いでいる。その要因の一つが相手が自衛隊に限られているために少量の受注生産しかなく、割に合わないという点にある。輸出のルールを見直せば、防衛産業の行く末にとっても大きな転換点となる可能性がある。

再開後の協議に注目

NHKの世論調査(7月)

7月のNHKの世論調査では殺傷能力のある武器の輸出を認めるかどうかについて「賛成」が24%「反対」が63%だった。長年、殺傷能力のある装備品の輸出を認めてこなかった日本。今の安全保障環境を踏まえ、見直しが必要なのかどうか。両党が再びぶつかり合う協議は、日本の安全保障政策にとって大きな「転換点」となる可能性もあり、精緻な議論が求められる。

政治部記者
立石 顕
2014年入局。2020年から政治部。当時の菅総理大臣の総理番を経験後、防衛省担当を経て自民党を担当。