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花粉症シーズン到来 新潟の発生源対策は?

”エリート中のエリート”に”無花粉スギ”
  • 2024年03月05日

 

ことしも花粉症のシーズンがやってきました。国も国民的な課題だとして花粉症の抜本的な解決策となる発生源対策に力を入れる方針を示しています。新潟県で進む、花粉の少ないスギや無花粉スギの実用化に向けた現在の状況を取材しました。(新潟放送局 記者 藤井凱大)

今シーズンの花粉予測 新潟は例年より”やや多い”

 

日本気象協会は2月17日、新潟市でスギ花粉の飛散が始まったと発表しました。これは去年に比べて11日早く、このところ暖かい日が続いたことが影響していると分析しています。3月中は飛散の多い状態が続くとみられています。

去年の飛散量が多かったためことしの新潟の花粉量は去年より「やや少ない」ものの、例年に比べると「やや多い」と予想されています。ことしも花粉症対策が欠かせません。

こうしたなか政府も、花粉症を「国民的な課題」と位置づけ、2023年に今後10年を見据えた対策を打ち出しました。▽掲げているのが3つの柱です。▼まずはじめに発生源対策で、具体的には花粉の少ないスギの生産拡大などです。▼続いて飛散防止対策。これは花粉の飛散の正確な予測など。▼そして3つめが発症・曝露対策。治療薬の開発などです。

このうち今回取材したのは「発生源対策」です。新潟県でも実用化に向けて動き出しています。

発生源対策のカギは「特定母樹」

 

県の育種園

新潟県長岡市にある県の施設では、樹木の種子を採種するための親木を育てています。

このなかに「特定母樹」と呼ばれるスギがあります。
実はこのスギ、花粉症対策の”エリート中のエリート”と呼ばれています。

県治山課緑化係 中島主査
花粉症の対策という点では、通常のものより半分以下の花粉しか出ないものを選んでいます。

成長が早いなど優れた特性を持つスギどうしの人工交配を進めること60年以上。
そのなかでも▼成長のスピードが通常の1点5倍▼まっすぐに育つ材質など、林業に適した特質に加えて▼花粉量も通常の半分以下のものを選び抜いたのがこの「特定母樹」です。

県も花粉症対策として主力に位置づけ、令和3年度に植え始めています。そして、再来年度に種子の販売もできるところまできていて、令和10年度には流通するほぼすべての苗木を「特定母樹」の種子から生産したものに変えていきたいとしています。

県治山課緑化係 中島主査
特定母樹、エリートツリーは成長がよく、材も垂直で木も堅いということで、よい特性をたくさん持っています。林業ということを考えた時には、よいものを植えていただいて林業が活性化していくことが必要だと思いますし、その一方で花粉で苦しんでいる人がいるということも聞いていますので、花粉が少ないものに切り替わっていけばと考えています。

対策の切り札”無花粉スギ” その研究は

 

一方、県の森林研究所で長年続けられている研究もあります。花粉症対策の切り札と期待される
「無花粉スギ」です。

左が普通のスギ、右が無花粉スギの枝です。振ってみると無花粉スギからは花粉が飛びません。

顕微鏡でさらに詳しく見せてもらいました。

県森林研究所 伊藤由紀子 主任研究員
先に有花粉の雄花をメスで半分に割ってみたいと思います。このように有花粉の雄花の「花粉のう」のなかには花粉がたくさん詰まっていまして、押し出すと「花粉のう」からたくさんの花粉があふれ出してきます

こぼれだしている、黄色くて小さい粒子がすべて花粉です。
一方、無花粉スギの場合は。

伊藤主任研究員
こちらが無花粉の雄花を割ったものです。先ほどと違ってこの「花粉のう」に花粉がほとんどつまっていません

無花粉スギの雄花をつぶしてみても花粉は出てきませんでした。

自然界で見つかった花粉が出ない遺伝子を持つスギを品種改良してできたのがこの無花粉スギ。実はすでに平成29年度から県内でも実用化されています。しかし、いまは苗木を枝から生産する方法で1本の親木から採取できる枝は年間30本程度。このため流通したのは5000本程度にとどまっています。

どうしたらより普及させられるか。カギは種子からの生産効率を上げることです。新潟大学と共同で行っているのが無花粉スギの発生確率を上げる研究です。遺伝の性質上、無花粉の性質を持つ苗の発生確率は50%。これを75%に引き上げようとしているのです。

実現すれば生産効率は理論上、いまの方法の70倍にもなります。数年以内に実現のめどもたっているということで、普及に向けた大きな成果になると期待されています。

伊藤主任研究員
無花粉スギはまったく花粉を出さないので花粉症の方にとってはかなり有効で助かると思います。われわれのやっている75%実生無花粉スギの苗木が早く普及して、花粉症の県民の皆さんのお役に立てればいいなと思って研究を進めていきたい。

花粉対策と林業の課題 同時に解決できるか

こうして無花粉スギの研究が進んでいますが、実際には林業の現場にさまざまな課題もあり、普及のめどを立てるのは難しいというのが実情です。

スギの伐採や植え替えが林業関係者の経営にメリットになるか。そして、そもそも林業の担い手不足の問題もあることから、県は成長が早いといった特性も併せ持つ「特定母樹」を主力に据えてきました。花粉対策と林業の課題解決という2つの面から対策を進める必要があるのです。

発生源対策にはまだ時間がかかるのが実情で、花粉症の人たちは今シーズンも対策が必要です。
まずは花粉を取り込まない対策が有効です。▼マスクやメガネを予防的に着用するほか▼家に帰ったらコートを玄関先で脱ぐことなどが有効とされています。また薬の服用は症状がごく軽いときから始めると症状を抑えられるとされていて、早めの準備が必要です。

 

  • 藤井凱大

    新潟放送局 記者

    藤井凱大

    2017年入局。函館放送局、札幌放送局を経て、2022年夏に新潟放送局に赴任。現在、医療や経済、農林水産などの取材を担当。

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