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来年度から本格化 医師の働き方改革

どう対応? 新潟市民病院の取り組みは
  • 2023年12月15日

 

来年度から本格的に始まる「医師の働き方改革」。県内の病院でも来年度からの実施に向けて各病院が準備を進めています。なかでも今回注目したのが新潟市で医療の中核を担う新潟市民病院です。7年前に働いていた医師が亡くなり、過労死と認定されたことをきっかけに改革を進めてきました。特に力を入れてきたのが患者と医師の歩み寄り。現場を取材しました。
(新潟放送局 記者 藤井凱大)

来年度から本格化「医師の働き方改革」とは

来年度から本格的に始まる「医師の働き方改革」。
勤務医の年間の時間外労働の上限が一部の例外を除いて原則960時間に制限されます。また勤務と勤務の間にインターバル、休息時間を設けることが求められます。

導入の背景にあるのは勤務医の厳しい労働環境です。去年の調査で全体の21点2%が過労死ラインを超える時間外労働をしていると推定されています。実際に過労で亡くなる医師もいて、長時間労働を前提とした医師の働き方を変えることが医療を持続可能にするために必要だと考えられています。

 

新潟市民病院

新潟市民病院 重視したのは”患者と医師の歩み寄り”

県内の病院でも来年度からの実施に向けて各病院が準備を進めています。なかでも今回注目したのが新潟市で医療の中核を担う新潟市民病院です。7年前に働いていた医師が亡くなり、過労死と認定されたことをきっかけに改革を進めてきました。特に力を入れてきたのが患者と医師の歩み寄りです。

様々な改革を進める中で市民病院が最も力を入れたのが「逆紹介」です。そもそも紹介制度は、地域のクリニックなどから患者の紹介を受けることです。それとは逆に、地域の医療機関に患者を紹介する仕組みを強化しました。

改革の前は年間6000台の救急搬送と27万人の外来患者を受け入れるなど、手厚い医療体制を整えてきました。

改革に乗り出したきっかけは7年前に研修医が亡くなったことです。この医師の月の残業時間は160時間を超え、その後、過労死と認定されました。市民病院が医療体制や医師の働き方の見直した結果、取り組んだひとつが「逆紹介」でした。

 

当初、毎年病院に寄せられる200件あまりの意見の中には、逆紹介についての批判が目立ったといいます。

病院に寄せられた声

「逆紹介するのは困る」「長期間市民病院にかかっているのに突然利用できないのは、納得できない」
病院の医師たちは患者たちの声に向き合い、丁寧に説明していきました。

新潟市民病院 大谷哲也院長

大谷院長
「私たちの病院がすぐに診療をやめるという訳ではありません」と。具合が悪くなったり、あるいは状態が変わった場合、そこ(地域のクリニック)の紹介状を持ってきていただいて「すぐに診ますから」というようなお返事をしていました。

クリニックで診察を受ける棚橋𠮷市さん

すると、少しずつ患者たちの理解も深まっていきました。
実際に新潟市民病院から地域のクリニックに逆紹介を受けた棚橋𠮷市さん。糖尿病などの治療を近所のクリニックで受ける中である気づきを得ることができました。クリニックのメリットは日常生活の指導や予防策を含め、きめ細かな診察が受けられること。

棚橋さんは、医療機関ごとの特長を理解して医療サービスを受けるようになりました。

棚橋𠮷市さん

棚橋さん
かかりつけの先生の指示のもとで先生の方がどうしても対処できないということであれば、大きい病院を紹介してもらってそこで診察をしていただいて、またかかりつけ医に戻ってくる。

改革を始めて6年。新潟市民病院の外来患者数は年間3万人近く減少。医師の平均時間外労働も月8時間の削減につながりました。しかし病院にはまだ過労死ラインを超えている医師がいます。
地域の医療機関や住民と、より一層の連携が欠かせないといいます。

新潟市民病院 大谷哲也院長

大谷院長
(長時間労働の医師には)強制的にちょっと休んでいただくというような対策も現在しております。どう工夫して乗り越えていくかというのを、地域全体で考えたほうがいいと思います。

こうした医療の”機能分化”ともいえる動きは県内でも今後、広がっていきそうです。
取材した医師は次のように話しています。

大谷院長

新潟市民病院 大谷哲也院長
働き方改革のなか必要な医療を提供していくには、これからはすべての医療機関が協調する必要がある。

岡田院長

岡田内科医院 岡田潔院長
病院と診療所の連携を確立していくには住民や患者の理解が必要だ。

医療機関のそれぞれの役割を私たち患者の側も理解することが重要です。

わずかな変化も見逃さない取り組みも

このほか、市民病院は新しい取り組みも始めています。
それは研修医を終え専門的な研修を受ける専攻医と呼ばれる医師を対象にしたもの。こうした医師の過重労働が近年、全国的に課題になっていて病院では医師のわずかな変化も見逃さないよう相談体制を整えました。

去年、新設したのが「専門研修支援室」です。対象となる市民病院の専攻医はおよそ40人。専攻医は患者の診療など本格的な業務が始まることに加え、論文の執筆や学会発表の準備なども必要で長時間勤務になりがちだといいます。

新潟市民病院 平山裕医師

平山医師
やりたいけどやっぱり体力的な限界というのはあるかと思いますので、誰かがそこで労働時間として把握、管理していかないと過重労働になってしまう。

相談に乗るのは先輩の医師。直属の上司に言えないことでも気軽に相談してもらい、わずかな変化も見逃さないようにしたいといいます。

平山医師
もっとがんばりたいという専攻医もいるし、現状でも結構あっぷあっぷで専攻医としてもしんどいという先生もいらっしゃるので、あくまで平均的な数字で見るのではなく、何かできることはないかという感じで見てあげたい

働き方改革というと数字上の管理に意識がいきがちですが、それだけでも不十分だといいます。同じ労働時間でも負荷の感じ方はそれぞれ違うので単に基準を満たしているかどうかだけではなく1人1人の状況を見ていくという意識が、今後働き方改革を行っていく病院でも求められています。

働き方改革で地域医療への影響は?

一方、医師の働き方改革で気になるのが身近な地域の医療への影響です。
▼県外の都市部の周辺部では働き方改革を背景に大学病院から派遣されていた医師が地域の病院から引 き揚げる動きが出る可能性が指摘されているほか▼県内では病院から診療所に移行する変化が起き始めています。
新潟県は全国的にみても医師不足が顕著で、働き方改革をきっかけに救急外来を縮小せざるを得なくなる医療機関も出る可能性が指摘されています。
医療の側にとっても初めての改革であるため具体的な動きは今後本格化していく段階です。県内の医療関係者からは地域医療にどこまでの影響が出るのかはまだ見通せないという声も聞かれます。患者と医師、どちらの健康も大切にする医療を実現するため、私たちもしっかり向き合わなければならないと思います。

  • 藤井凱大

    新潟放送局 記者

    藤井凱大

    平成29年入局。函館放送局、札幌放送局を経て、2022年夏に新潟放送局に赴任。現在、医療や経済、農林水産などの取材を担当。

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