紙おむつごみについて考えてみませんか?
- 2023年11月10日
高齢化が進む中、じわじわと問題になってきているのが「大人用の紙おむつ」のごみです。高齢者福祉施設などから廃棄される使用済みの紙おむつ。このごみが年々増え、焼却炉をいためるなど影響を及ぼしているのです。そこで自治体や企業がごみ削減への取り組みを始めています。新たなごみ問題「紙おむつ」について考えてみませんか?
(ディレクター大久保美佳)
【増え続ける大人用紙おむつごみ】
少子高齢化が進む中、子ども用の紙おむつの生産量というのは年々減っている一方で、増え続けているのが大人用の紙おむつの生産量です。
大人用紙おむつは子供用に比べて大きく、水分も多く含んでいるため、その分ごみの量が増えます。
紙おむつごみの量は、2015年度は210万トンでしたが、2030年度には261万トンになると思われています。
一般廃棄物の7%程度を紙おむつが占めると言われており、人口減少でごみの総量は減っていく一方で紙おむつの割合は増えていきます。
【水分を含んだ紙おむつ 介護士の負担に】
新潟県十日町市にある高齢者福祉施設で今、大きな負担となっている仕事の一つが「入所している高齢者などが使用した紙おむつの処理」。
使用済み紙おむつは水分を含むと重さは4倍にまで膨れ上がります。
そのためこの紙おむつが詰まった袋は1つ10キロほど。
廃棄量は年間50トンにも及び、処理は負担だといいます。
業務の中でもいちばん力を使うんじゃないですか。
運ぶのだけでも結構重労働です。
【燃やすときにも問題に…】
紙おむつごみは焼却される際にも様々な課題があります。
紙おむつごみの処理に悩んでいたという新潟県十日町市の担当者と、専門家に話を聞きました。
紙おむつは水分とプラスチック成分が非常に多いごみ。
いったん燃え始めるとプラスチック成分というのは高温になりますので、焼却炉内の耐火物と言われる熱を抑えるところがいたんでしまう。
水分を非常に含んでしまうことから、焼却炉に入れるときに非常に燃えにくいごみで、温度を保つために助燃剤を入れなければならない。
炉のいたみは激しくなる。非常にやっかい。
【紙おむつリサイクル エネルギーの地産地消】
そこで始まったのが「紙おむつリサイクル」です。
新潟県十日町市ではペレットとして活用しています。
十日町市の高齢者福祉施設で集められた紙おむつはごみ焼却施設に運ばれます。
しかしここで焼却されるわけではありません。
施設で発生する余熱を生かして、機械の中で排泄物に含まれる細菌やウイルスを滅菌。
そこにおがくずを混ぜて固めることでペレットにしているのです。
できあがったペレットは再び十日町市の高齢者福祉施設に戻り、ボイラーで燃やされます。
その熱を活用して施設のお風呂を温めるという資源の循環活用を行っています。
紙おむつはどうしても毎日出てくるもの。
ごみとして処理してきたが、今は施設に別の形でエネルギーとして戻ってくる。
施設にとっても、入居者、ご利用の方にとっても、非常に助かっている。
紙おむつは焼却炉ではやっかい者扱い。
でもそれは紙おむつが悪いわけではない。
誰が悪いわけではない。
僕らの手でリサイクルして別のものに作り変えれば社会に貢献できる。
【全国に広がる紙おむつリサイクル】
環境省の調べによると紙おむつのリサイクルを実施・検討している自治体は新潟県十日町市を含めて全国で35程度。
これを2030年度までに今のおよそ3倍、100自治体に増やすという目標を設定しています。
全国の自治体の取り組みの1部をご紹介いたします。
福岡県大木町は持続可能な街を目指し、ごみゼロを目指す「もったいない宣言」を公表しています。
町のごみ回収施設では実に45品目もの分別を行っているんです。
もちろん、紙おむつごみも専用のボックスで回収しています。
全国で初めて導入し、町内で出る紙おむつごみの8割以上を回収することができているんです。
回収された紙おむつごみは建築資材としてリサイクルされ、街の施設の壁として利用されています。
さらに大木町では高齢者のごみ出しをサポートする事業も行っています。
紙おむつを含めたごみは重いため、高齢者にとってゴミ出しは負担となります。
また複雑なリサイクル品目を覚えるのも一苦労のため、町に相談の声が届いていたそうです。
そこでシルバー人材センターと協力して、ゴミ出しサポートを立ち上げました。
ゴミ出しが困難な高齢者宅を中心に週2回訪問しています。
訪問の際に住民の方とコミュニケーションをとることで、高齢者の見守りにも役立っているといいます。
お顔を見ないと安心できない。
元気な顔を見るとうれしくなりますね。
おかげですごく幸せに仕事ができる。
うれしいです。
鹿児島県の志布志市と大崎町は焼却施設を持たない地域。
ごみはすべて最終処分場に埋め立てられています。
最終処分場を長く使うためにはリサイクルが欠かせません。
ゴミの1割から2割を占める紙おむつごみのリサイクルにも乗り出しました。
そこで大手紙おむつメーカーと協力して行っているのが、「リサイクル紙おむつ」の生産です。
このために何度も試作を重ねながら、特別な機械を開発しました。
リサイクル紙おむつは九州の病院や福祉施設で実際に使われ始めています。
使用済み紙おむつはまさに資源消費型のビジネスモデル。
紙おむつ自体のごみに占める割合はどんどん増えてきますので、
これを何とかするというのは製品を供給するメーカーとしての責任。
環境にやさしい製品を作り、それを使う満足感・社会的意義をユーザーに強く働きかけていきたい。
【新たな技術も】
紙おむつごみを減らすことにつながる介護機器も開発されています。
東京都大田区の福祉施設では、介護者の負担軽減や高齢者の生活を向上させるために、様々な介護機器を取り入れています。
ここで活用されているのが排泄のタイミングを知らせる機器です。
500円玉ほどのサイズの機械を下腹部に貼ると超音波センサーにより、膀胱にたまっている尿の量を計測することができます。
一定量たまると知らせが介護者のもとに届き、高齢者を誘導することで、トイレで排泄することができるのです。
これにより紙おむつを汚すことを減らすことができているといいます。
介護士にとって負担の大きい排泄に関する業務の負担を軽減できるだけでなく、高齢者が自力で排泄をコントロールできた瞬間に立ち会えた時の喜びがあるといいます。
排泄の問題を解決できた時はすごくうれしい。
排泄を何回もしてしまうご利用者さんがいて、僕たち介護士に対しても「申し訳ない」といつも言っていた方がいたが、この機器によってトイレの回数というのが明確に減らすことができた。
その時は「よかった」っていう話をご利用者様とした。
お客様が喜んでいただけるといううれしさがある。
【取材をしてみて】
最初は紙おむつごみがどんどん増えているっていう話から、今後どうなっていくのかという不安もあって今回の取材を始めました。
取材を進める中で「やっかいなごみ」ではあるが、一方で活用次第ではすごくいろんな可能性のある資源だということを感じました。
持続可能なリサイクルの仕組み作りなど課題はありますが、高齢化が進む中で逃れられない紙おむつごみの増加について今から考えていくことが大切なのではないかと思いました。
金よう夜きらっと新潟「“紙おむつごみ”について考えてみませんか?」をぜひご覧ください。
【再放送(新潟県域)】11月12日(日)13時05分~
【NHKプラス】こちらから 11月24日(金)19時57分まで配信