多頭飼育崩壊 猫も飼い主も助けるためにできることは?
- 2023年06月19日
【身近にも?高齢者に多い猫の多頭飼育崩壊】
ペットが増えすぎて飼い主が適正に飼うことができなくなる「多頭飼育崩壊」。中には飼い主が経済的に破綻してしまうケースもあるといいます。 昨年、新潟県内の動物愛護団体が対応した多頭飼育崩壊は35件。新潟県動物愛護センターが対応した12件と合わせると、ほぼ毎週のように発生していることがわかります。特に多いのは、夫婦のみや一人暮らしの高齢世帯のケース。問題を未然に防ぐために私たちにできることをまとめました。 (NHK新潟 ディレクター 土屋詩美)
【生活への影響は甚大】
4月中旬の新潟市内。
私は多頭飼育崩壊が起こったという一人暮らしの高齢女性の自宅から猫を保護する現場に同行しました。
早朝、雨の中集まったのは、愛護団体スタッフ、新潟市動物愛護センター職員、地域包括支援センター職員の8人。
「ちゃんと匂いがついても大丈夫な服できた?内履きは持ってきた?」
私は愛護団体の方に言われた通り、上下雨合羽というフル装備で来ましたが、案内されたお宅は庭のある大きな一軒家で、外から一見しただけではとても多頭飼育崩壊が起こっているようには見えません。
ところが玄関のドアを開けた瞬間、強烈な獣臭に襲われました。
部屋の中は畳も障子もボロボロ、ソファーには猫の糞尿が水たまりのように溜まった状態で、正直に言えば、この家に暮らす飼い主さんの健康が心配になるような環境でした。
【想像を絶する猫の繁殖力】
女性の自宅にいた猫は、全部で14匹。
最初は数匹だったのが、どうしてここまで増えてしまったのか。
猫の高い繁殖力を示すものに「猫算」という考え方があります。
猫は生後半年から妊娠が可能で年に2、3回、一度に4から8匹ほど出産します。
実際にはエサが食べられなかったり、交通事故に遭ったりと数が減ることはありますが、 理論上は1年で約20匹増える計算になります。
増えすぎるのを防ぐために、飼い主には不妊去勢手術を受けさせることが求められています。
しかし女性は年金暮らしで手術費用を捻出できず、子どももいますが迷惑をかけたくないという理由から相談できず、気づくと自分の生活が脅かされるほどに数が増えていたといいます。
【高齢者の多頭飼育崩壊 未然に防ぐには?】
現在60代後半の女性。
猫を飼い始めたのは、介護していた母親が亡くなり、配偶者と離婚して一人暮らしになってからでした。
女性にとって猫は寂しさを埋めてくれる存在だったといいます。
長年ペットと高齢者の問題と向き合ってきた、「どうぶつがかり」代表の三浦真美さんは、解決には「動物」の問題の裏にある、「人間」の問題に目を向けることが大切だといいます。
飼い主さんは、表面的に増えてしまった猫のこと以外に背景にいろんな問題を抱えています。
それは、孤独だったり貧困だったり、本人の病気だったり…そうした問題が単体ではなくて複合的に合わさって、ご本人としてはどうしようもない状況に陥っている場合も多いんです。
問題を抱えている人ほど、声を上げにくいという傾向があるため、親族だけではなく、地域の方々にも見守っていただきたいと思います。
リスクのある人を地域で見守るために、三浦さんが活用しているのが『黄色信号チラシ』です。
裏面がチェックシートになっていて、多頭飼育崩壊のリスクを、飼い主とペットに関する具体的な事例からガイドラインに沿って確認することができます。
シートのダウンロードはこちらから http://ndn2001.com/enlightenment_handbill.php
✓5つ以上チェックがついたら、最寄りの愛護センターや保健所に相談してください
✓センターの職員が訪問するなどして、飼い主さんの状況を確認します
✓相談者の個人情報が飼い主さんに伝わることはありません
✓いきなり猫を取り上げるなど、飼い主さんを傷つけるようなことにはならないので、気兼ねなくご相談を!
【人間と動物の福祉 横のつながりが肝心】
今回女性が多頭飼育崩壊に陥っているとわかったのは、女性の入院がきっかけでした。
ここ2、3年、新潟県は人間の医療や福祉関係者と動物の福祉関係者の連携を強化しています。
女性から自宅でたくさんの猫を飼っているという話を聞いた入院先の医療相談員が、動物愛護団体に相談し、そこに市の愛護センターも加わることで、スムーズな対応に繋がったといいます。
また飼い主さんを必要な福祉に繋げるという視点からも、人間と動物の福祉の連携は重要です。
猫の手術やセンターへの引き渡しなどが済んだ後も、福祉関係者が飼い主へのケアを続けることで、多頭飼育崩壊に多い再発を防ぐことができると期待されています。
【高齢者とペットが最期まで幸せに暮らすためには】
女性の猫は、新しい飼い主を探す譲渡会に参加するためにセンターで一時保護されることになりました。
ケージに入れられた猫に対して「この子はやんちゃで寂しがりや」「この子はあまり触られるのが好きじゃない」など 1匹1匹の性格を事細かく話す様子からは、女性の猫に対する愛情が伝ってきました。
最後ケージが運び出されるときに、猫に対して泣きながら「ごめんね」と謝る女性の姿を見て、勝手な考えだとは思いつつも「もうすこし数が少ない段階で誰かが手を差し伸べられたら、女性は最後まで自分の大切な猫と暮らせたのではないか」と感じました。
多くの高齢者にとって、生きていくうえで心の支えになってくれる存在のペット。
もちろんペットに対する責任は飼い主が負うべきものですが、私たちも同じ社会に生きる隣人として見守ることが、不幸な事例が少しでも減らすことに繋がります。
どうか少しでも違和感を覚えた時には、関係機関にご相談・通報ください。
相談窓口一覧(新潟県の場合)
新潟市にお住いの方 新潟市動物愛護センター:☎ 025-288-0017
新潟市以外の 下越地域にお住まいの方:☎ 0254-24-0207
中越地域のお住いの方:☎ 0258-21-5501
上越地域にお住いの方:☎ 025-525-9263
佐渡にお住いの方:☎ 0259-74-3398
高齢者とペットの問題を取り上げた番組がNHKプラスで配信中(6/23(金) 午後7:57 まで) https://plus.nhk.jp/watch/st/150_g1_2023060954103