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佐渡に舞う奇跡の鳥 ~トキ その知られざる姿とは?~

  • 2023年07月10日
飛び立つトキ
むき出しになった真っ赤な顔

国の特別天然記念物 佐渡のトキを徹底記録

ピンク色の鮮やかな羽。むき出しになった、真っ赤な顔。トキの学名はニッポニアニッポン。まるで、日本を象徴するような名前です。日本には今佐渡でしか生息していないトキ。私たちは、新潟大学や環境省の協力を得て、去年9月からその生態を記録し続けています。今回はその中間報告です。  
(ディレクター 寺北泰久)

いま佐渡には500羽を超えるトキが

群れで木に止まるトキ

佐渡の中でも数多くトキが生息するという国仲平野。
山々に囲まれた豊かな田んぼが広がっています、 田んぼの他にも、ため池の中、そして木の枝でもトキを観察できました。
体長はおよそ75cm、国の特別天然記念物にも指定されています。
佐渡では今、500羽を超えるトキがいると推定されています。

絶滅から奇跡の復活を遂げたトキ

人工繁殖によって誕生したヒナ

江戸時代まで、トキは日本各地で見られた普通の鳥でした。
ところが、明治以降、そのきれいな羽を狙った乱獲で、 どんどん数を減らしていきました。
そして、1981年日本のトキは野生では見られなくなってしましました。 
しかし、中国から譲受けたトキをもとに人工繁殖に成功。
2008年、佐渡で初めて野外へ放たれ、野生復帰を果たします。
その4年後には野生に戻された鳥からヒナも誕生しました。
その後も、トキは自分たちの力で順調に数を増やし続けてきたんです。 

徹底記録から見えてきたトキ本来の姿とは?

500羽以上にまで増えた佐渡のトキ。
寝る時も、食事の時も常に群れで行動していることが分かりました。
これが、数が増えてきたことで見えてきた、野生のトキ本来の姿なんだといいます。
「群れ」でいることは、トキにとって多くのメリットがあるんです。 
冬、繁殖期を迎えると、トキは身体の色が変わります。
首の周りから出る黒い物質を羽などを使って全身に擦り付けるんです。
こうした習性がある鳥は、世界中でもトキだけだと言われてます。
トキは、冬になって大事な繁殖期が近づくと、外敵から目立たないようにこのように色を変えると考えられています。 

繁殖期になって、黒っぽく色を変えているトキ

 その繁殖期、オスとメスを観察していた時のことでした。
オスが木の小枝をちぎって近くにいるメスに渡す光景をよく見かけます。
これ、「枝渡し」と呼ばれる求愛行動のひとつなんです。 
さらに、オスがメスの背中に乗って、くちばしを合わせ合っている姿も観察できました。 
こちらは擬交尾(ぎこうび)と呼ばれる行動です。
こうやってオスとメスは互いの親密度を高め合っているんです。 
群れでいることで、オスとメスの出会いが増えているんですね。 

トキの擬交尾

さらに、「群れ」でいることは、日本海の厳しい冬を乗り切る上でもメリットがありました。 
吹雪にも襲われる2月。
トキにとって、過酷な環境ですが、雪にはおかまいなく、群れで食べ物を探している様子を観察することができました。
どうやら、皆、田んぼの稲の切り株の周りをしきりに突いています。
こうした、伸びた切り株の周りでは、雪があまり積もらず、水が凍っていません。
トキの食事となるドジョウやカエルなどの生き物たちが、ここに避難していたんです。
凍っていない食事場所を見つけて、厳しい冬を乗り切っていたのです。
なぜトキたちは切り株の周りに食べ物があるとわかったのでしょうか?
私たちも不思議でしたが、実はこれも群れ行動のおかげだと考えられているのです。
群れにいるトキは皆、年齢が様々です。
中には、2007年に生まれ、15年近くも、佐渡の野生で何度も冬を越してきたベテランのトキもいるんです。
彼らは、雪が降った時でも生き物が集まりやすい場所を 経験的に知っていると考えられます。
群れのみんなはこうしたトキについて行って食事場所を教えてもらっていたんです。 

稲の切り株をつつくトキ

トキの復活を支え続けた佐渡の農家さんたち

群れで生きるという野生本来の姿を取り戻したトキ。
その陰には、佐渡の農家さんたちの支えがありました。 
戦後、佐渡でも品質の高いコメを大量に収穫するために、農薬がたくさん使われていたことがありました。 
その結果、トキの食べ物となる生き物が田んぼから数を減らしてしまったことがあったんです。
そこで、野生にトキを放つ前から、佐渡の農家さんたちは農薬を減らしたり、冬の間も田んぼに水を張ったままにしたり、生き物を増やす取り組みを続けてきたのです。
でも、「農薬を使わない」というと聞こえは良いですが、田んぼは放置すると雑草が伸び放題。
これを毎日手作業で抜いていかなければなりません。
ここまでの手間と苦労を惜しまないのは、トキへの愛情が勝るからなんだといいます。 

農薬を減らすことで、田んぼには生き物がいっぱい

トキの子育ても継続して取材中!

 繁殖期もまっただ中の5月。
私たちはトキ研究の第一人者、新潟大学の永田尚志(ながた ひさし)先生に同行させていただきました。
すると、林の中で巣作りをしたり、既に巣を完成させて、卵を大事に温めているつがいを観察することができました。
トキの本格的な子育ての様子は、NHK総合で毎週日曜夜7時半から放送している自然番組「ダーウィンが来た!」で継続して取材中です!
また放送後、この記事で報告したいと思います。 
絶滅から復活を遂げて過酷な自然を群れで生き抜くトキ。
早ければ3年後、本州でトキが野外に放たれる計画も出てきています。
またいつか、日本中の空でトキを見られるといいですね。 

巣で抱卵中のトキ

おわりに

◆トキの “知られざる姿” はNHKプラスで配信中!(7/21(金) 午後7:57 まで) https://plus.nhk.jp/watch/st/150_g1_2023070743804
◆日本で一番美しいトキのホームページはこちら

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