ページの本文へ

にいがたWEBリポート

  1. NHK新潟
  2. にいがたWEBリポート
  3. 子の看護休暇 有給・小学生以上対象の企業も どう利用進める?

子の看護休暇 有給・小学生以上対象の企業も どう利用進める?

新潟 燕市の老舗メーカーは「若返り」で制度整備
  • 2023年05月16日

「朝出勤しようと思ったら子どもが38度近い熱が出た」。
「平日に子どもを予防接種に連れて行かないといけない」。
働きながら子育てをしているとこのような事態に遭遇することがよくあると思います。
こんな時、活用できるのが「子の看護休暇制度」。育児・介護休業法で規定された労働者の権利です。
一方、実態は制度が明確に規定されていなかったり、制度があっても利用は少なくなったりしています。こうした中、仕事と子育ての両立に向けて、企業の間では制度を明確にしたり、利用促進を図る動きが出ています。
(新潟放送局 野口恭平 記者)

放送した動画はこちら

「子の看護休暇制度」とは?

子の看護休暇制度は、育児・介護休業法で規定された労働者の権利です。

対象は小学校に就学する前までの子どもを養育する労働者で、子どもが1人の場合は年間5日、2人以上の場合は年間10日取得することが可能です。

事業主は原則として「申し出を拒むことはできない」と規定されています。

子どもがけがをしたり病気にかかって世話をしたりしなければいけないケース、また、インフルエンザなどの予防接種や健康診断などを受けさせる場合も取得できます。

もともと「半日単位」でしたが法改正により令和3年1月からは「時間単位」でも取得できるようになっています。

働くパパ、ママにとってはありがたい制度のように見えますが、なかなか普及していないのが実態です。

「令和3年度雇用均等基本調査」によれば「制度の規定がある」と回答した事業所の割合は65.7%で、残る30%以上の事業所は規定がありません。

規模別にみると、従業員が500人以上の会社は「規定あり」が95.5%なのに対して、29人以下の事業所では「規定あり」が60.3%、「規定なし」が39.7%と規模の小さい会社ほど規定がある企業が少なくなっています。

「若返り」で制度に向き合うことになった老舗メーカー

燕市にある老舗のカトラリーメーカー「燕物産」も子の看護休暇の規定がなかった企業です。

この会社は100年以上、スプーンやフォークを生産。金属加工が盛んなこの地域でも伝統の企業です。

それでも、ほかの製造業と同様に人手不足に悩んでいました。

そうした中、新型コロナ禍が経営を直撃。

ホテルや飲食店などのエンドユーザーで業績が悪化すると、カトラリーの発注も抑えられてしまい、厳しい時にはひと月の売上が平時の40%減になることもあったといいます。

こうした中、この会社では「景気が低迷しているときこそ、若者を採用するチャンスではないか」と考え、採用を強化したそうです。結果的に、今では約40人いる社員のうち20代と30代が半分以上になり、若返りが進みました。

工場では60代以上の熟練工から若者が技能を学び、虎の子の技術の承継が進んでいます。

一方、若い世代が増えたことで新たな課題も浮上しました。

子育てと仕事の両立に悩む社員が増えているのです。話を聞いてみました。

20代 2歳の子を育児中の女性
もともとは美容関係に勤めていましたが子育てのため職場も近い今の会社に転職しました。ただ、保育園に行っている子どもは突然咳や鼻水が出ることもあって…。急な休みだと有給を使ってるんですけど、子どもの体調不良で有給がなくなってしまったこともありました。

30代 2歳の子を育児中の男性
共働きなので、子どもが病気の時は実家にお願いしています。ただ、子どもが感染したノロウイルスをお祖母ちゃんがもらってしまったこともあって…その時は妻が仕事を休みました。休める環境や制度があれば私も使いたいと思います。

市役所とも連携し就業規則改定のモデルケースに

子どものいる社員を働きやすくするためにはどうしたらいいのか。

会社が注目したのが子の看護休暇でした。これまで就業規則に明文化されていませんでしたが、規則の見直しを進めています。

捧開維 常務

燕物産 捧開維 常務
今まで若い人が少なかった会社なので福利厚生とか子育て支援とかそういうものに対して昔のまま止まっているのが現状でした。若返りが急ピッチで進んだので、そこらへんが追い付かないような状況で、今は情報を集めながら社労士さんと一緒に就業規則の見直しをしています。

制度の導入に向けて燕市の補助事業の活用も検討しています。この日は打合せが行われていました。

燕市では今年度、子ども関連の政策を担う部署を立ち上げるなど、子育て支援政策の強化を掲げています。

市の担当者も、この地域は中小企業が多く、制度の導入や利用が不十分だとして、ほかの企業のモデルケースになってほしいと期待しています。

燕市商工振興課 楡井弘人 課長補佐

燕市商工振興課 楡井弘人 課長補佐
私も「子の看護休暇制度」についてはよく知らなかったのですが、部下が活用している様子を見て、大事な制度だと感じるようになりました。こちらの会社は燕市でも老舗のカトラリーメーカーなので、こういう企業がまずチャレンジしていく姿を見せるのが、ほかの企業に対してもすごく大きな説得力を持つと思います。

捧開維 常務
今後も100年、会社として生き残っていくためには一緒にライフステージを歩んでいく社員がいなければ成り立ちません。子育ても含めて責任をもって、若い人が生涯働いていけるような環境を作っていきたいと思います。

利用は低迷…

一方、子の看護休暇はあまり利用されていないのが実態です。

国が、小学校就学前までの子を持つ労働者がいる事業所に調査を行ったところ、子の看護休暇の取得者がいたという割合は28%余りにとどまっています。

制度を拡充し利用者が増えるIT企業

どうすれば社員が休暇を取りやすくなるのか。

制度の充実に取り組んでいる新潟市中央区のIT企業「インプレッシヴ」です。

従業員は約50人。システム開発などを手掛けています。

子の看護休暇制度は法律上、有給でも無給でも良いことになっていて国の調査では65%の事業所が「無給」となっていました。

ただ、それでは生活にも影響が出てしまいます。このため、会社では看護休暇を「有給扱い」としました。

また、対象も法律では「小学校就学前」となっているところ義務教育を終える「中学校卒業まで」に延長しています。

白井孝和さん

プログラマーとして働く白井孝和さん。4歳の子どもを育てていて、去年(2022年)夏、子どもが突然高熱を出した際、看護休暇を利用して仕事を休みました。

白井さん
朝、子どもの体が熱いなと思って測ったら38度超え。新型コロナかと思って焦りました。それで1日お休みをいただきました。子の看護休暇は有給になっているので気兼ねなく取得できるので助かっています。

仕事の俗人化を防ぐ 「社長の後悔」も原動力に

工夫は制度の充実だけではありません。この会社では一つの仕事に複数人のチームであたるようにして、誰かが休んでも業務をカバーできるようにしています。

チームで業務にあたる

この会社では学校行事などのために休みを取得できる有給の「子育て休暇」も年5日付与しています。

令和4年度は、「子の看護休暇」だけでも対象となる12人の社員のうち6人が取得しました。

会社の佐藤潤一社長です。

佐藤潤一 社長

先代の創業者の時代から子育て支援には力を入れてきたそうですが、自身があまり子育てに関われなかったという経験も制度を充実させる原動力になっているといいます。

佐藤潤一 社長
何度か転職をしていますがIT業界には30年ほど勤めていて子どもが小さい時は妻に任せきりでした。娘が1~2歳のころ、ひきつけを起こして救急車で運ばれた際も、仕事のトラブル対応で病院に駆けつけることができませんでした。そのことがずっと心に引っかかっていて、経営者という立場になってから意識的に子育て支援に取り組んでいます。

今では、子どもの高校のPTA役員もやっているという佐藤社長。個人的な思いと念を押しつつも、地域貢献の一環で「PTA会長手当(仮)」のような、PTA活動を頑張っている社員向けの手当て制度の創出も検討していると話していました。

その上で、社員に長く働いてもらうためにも子育て支援が経営の重要な課題だと訴えます。

佐藤潤一 社長
せっかく仕事を覚えてもらったのに、やめますと言われてしまうと会社としては大きな損失です。良い人材にいかに入社してもらって、長く働いてもらうかが会社を経営する上で大きなテーマです。制度があるだけではダメで、制度を整えた上でうまく使ってもらい、仕事にも家庭にもいい循環を生み出していくことが必要です。

  • 野口恭平

    新潟放送局 記者

    野口恭平

    2008年入局 徳島放送局、報道局経済部を経て新潟放送局へ。幼いころから南魚沼市で年末年始を過ごす。私も取材をするまで「子の看護休暇制度」を知りませんでした。

ページトップに戻る