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“子育て家庭を孤立させない”コロナ禍 新潟県の子ども食堂は

  • 2022年06月30日

子育てで大変な家庭を支援しようと食事を提供してきた子ども食堂。新型コロナウイルスの影響が長期化する中で活動は制限され、ウクライナ情勢を受けた物価高騰なども加わり、子育て家庭を取り巻く状況はますます厳しくなっています。専門家は、今こそ、子ども食堂を中心として子育て家庭を孤立させず、支援の輪を広げていく必要があると指摘しています。
(新潟放送局 記者 阿部智己)

コロナ禍 子ども食堂は弁当作りに注力

弁当を作る子ども食堂のスタッフ

新型コロナウイルスの感染拡大以降、新潟県内の子ども食堂の多くは感染拡大を防ぐため、その場で一緒に食べるのではなく弁当を配る形での活動を行ってきました。

新潟市江南区にある「めぐみ子ども食堂」では、新型コロナウイルスの感染が拡大したおととしから手作りの弁当を配る活動を始めました。

今は月に2回、それぞれ約50人分の弁当を予約制で配っています。農家やフードバンクから寄付された食材で弁当を作り、菓子や果物、レトルト食品などの食料品の提供も行っています。取材した日の夕方、弁当を配る時間になると、次々と小さな子どもの手を引いた母親たちが訪れ、スタッフたちと近況を話し合ったりしていました。

 

子ども

「好きなお菓子やジュースを持って行けるし、お弁当はいろいろなおかずが入ってるから食べるのが楽しみです」

母親

「いろんなものが少しずつ高くなっていて、お弁当買ったり、外食したりするのもちょっと躊躇してしまうところがあるのでありがたいです」

母親

「うちは子どもが4人いるので、すごくありがたく大助かりしています。家の中で子どもが1人でぽつんとしていることもあるし、少しでもこういう交流があることがありがたい」

 

新型コロナの影響が長期化し不自由な日常生活が続く中、一緒に食事はできないものの、弁当を取りに訪れる人たちのささやかな交流の場にもなっていました。

コロナのダメージ大きい

「めぐみ子ども食堂」代表の松下紀美子さんは、弁当の需要が思った以上に大きく、安価で栄養ある弁当を求めている人がいかに多くいるかを実感したといいます。

めぐみ子ども食堂 松下紀美子 代表

「コロナの影響による経済的、精神的なダメージが大きく、家庭に余裕がない状態になっている。家庭によっては、子どもたちが学校の給食だけで栄養補給しているとか、夕食の時間がすごく遅くなっているという話を聞く。そういう家庭の痛みが私たちのお弁当に対する需要の背景にあると感じる。スタッフの数にも限りがあるので難しいが、本当はもっと多くの家庭に配りたい」

松下さんたちは以前のように一緒に食べる活動を再開し、再び地域の人の居場所になることを願いながら、いまは生活が苦しい人たちの支えになりたいと弁当を配る活動に力を入れています。

松下紀美子さん
「弁当を提供する側としては、もう素人ではなくプロの意識で、本当に安心安全で栄養バランスが取れた安価でおいしい食事を提供して皆さんに元気になってもらいたい」

会食を再開した子ども食堂は

てらこや食堂が開かれる金寶寺

一方、新潟市中央区の金寶寺で開かれる子ども食堂「てらこや食堂」では、ことし4月から会食を伴う活動を再開しました。

新型コロナ感染拡大前の活動の様子(てらこや食堂フェイスブックより)

この子ども食堂は、新型コロナの感染拡大の前は誰もが気軽に立ち寄れる交流の場として親しまれ、多いときには100人もの親子などが訪れていました。

新型コロナの感染拡大を受け、2年にわたって活動を休止していましたが、子ども食堂の主催者で寺の副住職を務める朝倉奏さんが行っている無料の塾の生徒とその保護者に参加者を限定する形で食事の提供を再開しました。

子ども食堂運営 てらこやサンガ代表 朝倉奏さん

朝倉奏さん
「子ども食堂を開催し、みんなで楽しくごはんを食べていたころが本当に懐かしくて、早く再開したいと思っていました。規模はすごく小さくなりましたけれども再開できて本当にうれしい。支えてくださった方々に感謝の気持ちでいっぱいです」

取材した5月の夕方、学校を終えた小中学生が塾に集まってきました。塾は寺の本堂で開かれ、厳かな雰囲気の中、子どもたちは持参した問題集などに集中して取り組んでいました。

そして午後7時、待ちに待った夕食の時間。調理スタッフが作ってくれたこの日の夕食のメインはチキンのたれかつ。子どもたちに大人気のおかずです。感染対策のため食事中のおしゃべりはできませんが、子どもたちは黙々と食べ、何度もおかわりしていました。

 

小学5年男子
 

たれかつがすごいおいしかった。みんなで食べるとやっぱり楽しいし、おいしいです。

中学2年男子

たれかつを5枚食べておなかいっぱいです。コロナもあって、こういうみんなでごはんを食べる機会がなくなっているなかで、子ども食堂を再開してくれてうれしい。

朝倉奏さん
「ようやくこの日が来たなという感動があり、これからまたいろいろな人の喜ぶ姿が見られると思うとうれしい。みんなで集まって食事をし、集まった方々が交流して、あしたもまた前を向いてみようかなという気持ちになる場所だったらいいなと。ここがみんなの大事な居場所になって、地域の子どもたちが豊かな人生を歩む1歩となったらいいなと思っています」

新型コロナによる不安定さ 日常生活 根幹揺るがす

子どもの福祉に詳しい新潟県立大学の小池由佳教授は、新型コロナの影響が長期化する中で貧困など子どもを取り巻く問題が深刻化していると言います。

新潟県立大学 小池由佳 教授

「新型コロナの長期化で、所得が減収しているというのももちろんあるが、生活の不安定さが生まれていることの影響が大きい。急に学級閉鎖になるとか、楽しみにしていた行事がなくなるとか、大人であれば仕事があったりなかったり、新たな変異株が出てくるかもしれないといったこともある。そうした先の見通しが立たない不安定さというものは、私たちの日常生活の根幹を揺さぶっている。新型コロナの長期化は精神的な面も含め影響は深刻だ」

小池教授はさらに、ウクライナ情勢などを受けた物価高騰の影響が追い打ちになっていると指摘しています。

「コロナに加えて物価の上昇というのも出てきて、もともと生活が厳しい状況の方たちはさらに追い込まれるだろうし、そうではない方たちも、やはりこの不安定さの中でいろんな生活上の困難というのが生じている」

子ども食堂を核に 子育てへの意識変革を

小池教授は、コロナ禍、物価高と、子どもを育てる環境が厳しさを増す中、社会の中で子どもを育てる意識を育くみ、子育て世代を孤立させないことが重要で、子どもを中心にして大人同士がつながる子ども食堂が果たす役割は大きいといいます。

「子ども食堂には食そのものを提供するという役割ももちろんあるが、もう1つは人の手を借りて子育てするというか、厳しい状況にある方たちも自分たちだけで抱える必要はないというメッセージを発する場になる」

小池教授は、子ども食堂の活動が広がっていく中で、子育ては親がするものだという意識の変化につながることを期待しています。

「今はまだ子育ては親の責任、家庭の責任という意識が強くあると思う。決して親や家庭が責任を持たなくていいということではなく、子育てに責任を持つということは、直接自分だけがやることだけを意味するのではない。必要なときに必要な支援を使いながら子どもを育てるというのも責任の1つだということ。社会全体がそうした意識を持てるようになっていけば、子育てしやすい環境になっていくのではないか」

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