高千穂峡と高千穂峰 100キロ離れた宮崎の景勝地に残る神話の謎
- 2022年09月08日
投稿者 さっちゃん さん
「高千穂峡」と「高千穂峰」場所が離れているのになぜ同じ名前なのでしょうか?
視聴者の疑問に答える「てげ探」。今回は宮崎で有名な2つの景勝地のナゾ。2つの離れた場所になぜ同じ地名がついているのか。この夏、宮崎に赴任したばかりの新堀記者が取材します。
2つの「高千穂」が巻き起こす“高千穂論争”
まず2つの場所を確認しましょう。「高千穂峡」は宮崎の北側に位置し、熊本と大分との県境、「高千穂峰」は宮崎の南側に位置し、宮崎と鹿児島の県境にあります。この2つの場所は直線距離でなんと100キロ離れていました。確かにこんなに離れていて、なぜ同じ「高千穂」という名前がついているのか疑問になります。
この「謎」に迫るきっかけはないかと書籍やネットで調べて見ると「高千穂論争」「タブー」「なぜか2か所ある神話の舞台」などなど。刺激的な言葉の数々がすぐ見つかりました。
そして、私はふと思いました「この疑問に答えることはできないのではないか・・・」
しかし、“ウラを取る”(情報の確認をすることです)のが記者の仕事です。この“謎”に迫る鍵は歴史にあるとわかり、専門家に話を聞きに行きました。
2つの「高千穂」神話にその答えが
伺ったのは「古事記」などの古代文学を研究している県立看護大学の大館真晴教授。
大館真晴 教授(県立看護大学)
2つの「高千穂」は神話をルーツにしたものなので現代で判断することは不可能ですよ。
教授に話を聞いて早々に「解けない永遠の謎」だと結論を示してくれました。
この謎のスタートは日本に現存する最古の歴史書「古事記」。この古事記に「高千穂」ということばが初めて登場します。天照大神(あまてらすおおみかみ)の孫の「ニニギノミコト」が地上の世界に降り立った「天孫降臨」の場所が「高千穂」だとする神話です。これが高千穂のルーツとされています。
そこで本題。2つの「高千穂」についてです。この古事記をはじめ、「高千穂」という言葉はその後、奈良時代に書かれたとされる「日本書紀」や「日向国 風土記」にも登場していました。
大館真晴 教授(県立看護大学)
前提として現在の研究者の多くは『昔の人たちがみんな一つの「高千穂」のイメージを共有していた』という考え方をとりません。書物ごとに異なる多様な「高千穂」のイメージがあったと考えます。
「高千穂」をめぐる様々な解釈
①「古事記」の記述
「高千穂之久士布流多気」は研究者の中でも2つのどちらの地域なのか見解が分かれる。
②「日本書紀(本書)」の記述
「日向襲之高千穂峯」は今の高千穂峰とする説を支持する研究者が多い。その理由はこの中の「襲」の文字が高千穂峰の周辺の地域を指していることばだからだそうです。
③「日向国風土記 逸文」の記述
「日向高千穂二上峯」は多くの研究者が今の高千穂峡を含む地域とする説を支持する。こちらは高千穂の記述の前に「臼杵郡」などのことばがあることがそう考えられる理由だそうです。
取材した情報をわかりやすくすると下図のようになります。
3つの歴史的書物の「高千穂」の記述についてこう整理が可能だということです。つまり『古事記』『日本書紀』『日向国 風土記』それぞれの書物の「高千穂」が別に存在するという解釈だということです。そうしないと研究や論証を進めていくうちに多くの「矛盾」を抱えることになるからだそうです。
「なぜ2つの高千穂が存在するのか」この疑問の答えは同じ神話をルーツにした地名が、よりどころとする書物によってどちらがその舞台とも解釈が可能だったということでした。
大館真晴 教授(県立看護大学)
神話の「高千穂」の世界を大切に引き継いで現代に至っている非常に貴重な地域が宮崎県に2か所あるということをこれからも大切にしていけばいいのではないでしょうか。
土地への誇りと愛着
大館教授の話を聞くと「答えは出ない」と分かっていても、実際にその地域の人たちの地名や土地への思いを聞きたくなりました。県南部、高千穂峰近くにある狭野神社の名誉宮司で町の歴史に詳しい松坂督亮さんです。
松坂督亮さん(狭野神社の名誉宮司)
昔から多くの歴史がありますから。100年も生きていない私がどちらが本当の神話のルーツなのかなんて申し上げられません。みんな自分の町が好きですからどちらがルーツかなんて話すことは私は良くないのではないかと思いますよ。
一方、県北部、高千穂峡の近くにあるおよそ1900年前に建立されたとされる高千穂神社の宮司・後藤俊彦さんです。
後藤俊彦さん(高千穂神社・宮司)
崇高な神様の慈悲によって始まったとされる地が宮崎県に2つもあるというのは幸せなことです。どちらかで悩むよりも両方の地を訪れてみてほしい。「高千穂」は永遠のミステリーです。
2つの地域を訪れるといずれの「高千穂」もその名前に誇りを持った魅力的な場所で改めて「高千穂」という名前が大事にされているのを痛感しました。今回の「てげ探」、視聴者の疑問には答えられませんでしたが宮崎県、そして宮崎に住む人たちの郷土愛に触れるすばらしい機会をいただくことができたと感じています。
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