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ウクライナ侵攻直撃!宮崎で注目の飼料高騰に負けない畜産とは

  • 2022年09月05日

ロシアによるウクライナ侵攻や円安の影響で飼料用の穀物が高騰するなか、国際情勢の変化をものともしない、ユニークな経営を行う宮崎県・日之影町の畜産農家に注目が集まっています。
キーワードは“エサ代ゼロ円”です。

牛が出勤!? エサを求めて自ら放牧場に

朝9時になると、誰に指示されるでもなく牛舎を出てくる牛たちが宮崎県日之影町にいます。

人が住まなくなった集落の坂道をゆっくりと登っていきます。たどりついたのは...?

標高250メートルの急斜面に開かれた広大な放牧地!

牛たちを育てているのは、岩田篤徳さん。子牛を産む母牛を育てる繁殖農家で、究極の経営方法だと胸をはります。

“究極”ってどんな経営

まずは主食の牧草。牛が食べてもまた勝手に生えてくるので、この分のエサ代はかかりません。
もともと山に生えている植物も牛たちの大好物です。

草食動物の牛とはいえ、このやり方は、実は異例です。一般的な畜産ではトウモロコシなどの穀物でできた配合飼料を食べさせています。ほとんどがアメリカなどからの輸入です。

「輸入飼料に頼っていては世界情勢の変化の影響をまともに受けてしまう」という危機感から15年前に始めたのが、配合飼料なし、“エサ代0円”の放牧でした。岩田さんによりますと、放牧をしない場合に比べて安産なことが多く、生まれてくる子牛の状態も健康です。

岩田さん
「海外産の飼料に頼らないでいいような、強じんな経営こそ、安定している畜産経営。地に足のついた経営を目標にしていた」

放牧地は全部で東京ドーム2個分ほど。これを確保するのもほとんど元手をかけませんでした。
もともと耕作放棄地だった場所を格安で借りています。自分自身で重機を操作して、木を切って運び、竹をなぎ倒して、10年かけて放牧地に生まれ変わらせました。

常識外れにも見える岩田さんの挑戦は、穀物をめぐる国際情勢が激変するなか、注目が集まっています。

岩田さん
「輸入飼料が安い時は、ほかの人は『岩田は何をしてるんだろう』と感じたと思う。それでも実際は輸入穀物で畜産を経営するというのはやっぱり本来の姿じゃないと信じてやってきた。こういうウクライナ侵攻のような国際的な紛争があったら何というか砂上の楼閣ですもんね」

新たに“岩田さん流の放牧”に踏み出す農家も

今では岩田さんに学ぼうと、多くの畜産農家が見学に訪れています

地元・日之影町で繁殖農家を営む甲斐耕一郎さんもその1人です。

これまで輸入飼料ありきの経営を続けてきた甲斐さんは、今回、飼料価格の高騰を受け、
「このままでは畜産を続けていけない」と感じるようになりました。
 

自分の土地を使い、まずは数頭の規模から岩田さん流の放牧を始めてみることにしました。 

甲斐さん
「あまりにも一気にエサ代が上がったので、この先大丈夫だろうかという心配が大きい。これから先は、自分の牛は自分でエサをつくらにゃいかんなと改めて感じたところです」

飼料価格は高騰 子牛価格は急落

岩田さんが飼っているのと同じ繁殖牛の配合飼料について、見たものです。以前は1トンあたり6万円を切る価格でしたが、去年の始めごろから値上がりが始まっています。
これは世界的な穀物需要の高まりが理由です。そうした中でことし2月にロシアが世界有数の穀倉地帯であるウクライナに侵攻。さらに値上がりのペースが上がり、直近では7万7000円を超えています。農林水産省によりますと価格への影響は遅れて出てくるということで、今後、さらに値上がりする見込みです。

さらに子牛の価格は“競り”で決まり、繁殖農家では決めらないので経費の増加を売値に転嫁することもできません。子牛を買って大きく育てる肥育農家の側も同じように飼料価格の高騰に悩まされているため、子牛の仕入れにお金をかけることができないのです。その結果、子牛の価格は逆に下がっていて、去年の8月は1頭が平均74万円ほどだったのが、今月は50万円台にまで急落しています。繁殖農家にとってはまさに「ダブルパンチ」です。飼料価格がどうなるのか見えない中、何とか踏ん張っている畜産農家も多いなか、今回の事態はリスクをはらみながらも続いてきた、従来の畜産のやり方を見直すきっかけにもなるかもしれません。

  • 坂西俊太

    NHK宮崎 コンテンツセンター 記者

    坂西俊太

    県政などを担当
    獣医師の資格を持ってます

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