【特集】高齢者に多い薬の副作用 抗がん剤や抗うつ薬、その他の治療薬について

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【特集】高齢者に多い薬の副作用 抗がん剤や抗うつ薬、その他の治療薬について

薬は、病気やけがを治したり軽くしたりする働きがある一方で、副作用という望ましくない症状を引き起こすことがあります。抗がん剤や抗うつ薬、貧血や便秘の治療薬、ひざの痛みの治療薬など、さまざまな薬の副作用について解説します。

高齢者に多い薬の副作用

高齢になると複数の薬を服用する人が増えます。75歳以上で薬を使っている人では、1か月に1つの薬局で7種類以上の薬を受け取っている割合が26%にものぼります。70代の男性Aさんの例を見てみましょう。

Aさんのケース

Aさんは高血圧があり、軽い脳梗塞を起こしたこともあります。不眠症と腰痛にも時々悩まされます。しかし、それぞれ治療しながら、あまり支障なく暮らしてきました。ところが最近、足元が時々ふらつくようになりました。また、物忘れが増えたとも感じています。
心配になったAさんは、高齢者の病気に詳しい医師に診てもらいました。医師はAさんが薬を7種類も使っていることに注目しました。高血圧の薬が3種類、脳梗塞の再発を防ぐ薬、不眠症の薬が2種類、そして腰痛の薬です。Aさんのふらつきと物忘れはこれらの薬の副作用だったのです。血圧の薬が多く血圧が下がり過ぎていることもふらつきに影響していました。

薬が6種類以上になると、副作用を起こす割合が10~15%にまで高まります。したがって、薬は「なるべく5種類まで」を目安にしましょう。

高齢者に副作用が増える理由

高齢者に多い薬の副作用には「ふらつき・転倒」「物忘れ」「うつ」「せん妄」「食欲低下」「便秘」「排尿障害」などがあります。特に「ふらつき・転倒」は、骨折して寝たきりになることも少なくありません。

高齢者は若い人に比べ、副作用が重症になりやすく、さまざまな臓器に及びやすいのが特徴です。うつ・せん妄などの精神的な症状が多いため、認知症と間違えられることがあります。また、食欲低下・便秘などの日常的な症状が多いため、薬の副作用だと気付きにくいことがあります。

高齢者に副作用が増える理由は、薬の数が多いことだけではなく、薬の効き方が加齢とともに変わってくることも影響します。
薬は通常、服用すると胃や小腸から吸収され、血液によって全身を循環して目的の臓器に到達します。これを「分布」と言います。このあと薬の効き目が現れるのです。時間の経過とともに、薬は肝臓などで徐々に「代謝 分解」されたり、腎臓から「排泄」されたりして効き目が消えていきます。
しかし高齢になると、肝臓や腎臓の働きが低下するため、薬の代謝分解が遅れて効き目が必要以上に長引いたり、薬の排泄が遅れて薬が体内に長く残ったりします。そのため薬が効き過ぎてしまうのです。

多すぎる薬を減らす

副作用を避けるには「多すぎる薬は減らす」が鉄則です。薬の優先順位を考え、本当に必要な薬か検討します。また、高齢者が副作用を起こしやすい薬は、できるかぎり避けます。

多すぎる薬は減らそう

薬のトラブルを避けるため、高齢の患者さん自身が心得ておきたいことがあります。

  1. むやみに薬をほしがらない
  2. 体の状態も薬の効き方も若い頃とは違うことを念頭に置く
  3. 処方された薬は「きちんと使うこと」「自己判断でやめない」
  4. 他に使っている薬は必ず伝える

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抗がん剤

「抗がん剤」は細胞の分裂・増殖を障害することで、がんを小さくしたり、なくしたりするものですが、正常な細胞も攻撃してしまうので副作用が多く出てしまいます。抗がん剤による副作用の程度や症状は抗がん剤の種類によって異なり、個人差もあります。副作用のなかでも自覚症状として現れやすいのが、吐き気や脱毛。口内炎・手のしびれ、味覚障害なども起こる可能性があります。

食に関する副作用の現れ方

食に関する副作用の現れ方

副作用の強さには波があります。たとえば、胃がんの抗がん剤治療で14日に一度点滴を行う場合、点滴直後から強い副作用が現れますが、数日で治まります。吐き気や嘔吐(おうと)を抑える制吐剤をあらかじめ使えば、症状は弱くて済む場合もあります。のみ薬の場合は副作用が点滴ほど強くありません。しかし毎日服用するため、その間、副作用がずっと続き、かえってつらく感じてしまう人もいます。

自分が使う抗がん剤では、どのタイミングでどんな副作用が現れるのかを知っておくと心の準備ができ、対策が立てやすくなります。

また、抗がん剤の副作用として口内炎が現れることがあります。これを予防するために、まず投与前に虫歯・歯周病を治療することが勧められます。

がん治療中の食事の悩み、抗がん剤の副作用について知りたい方はこちら

大腸がんの場合

大腸がんの抗がん剤はめざましく進歩しています。近年では、特定の遺伝子を持つがん細胞を狙い撃ちしてがんの進行を抑える「分子標的薬」の開発が進み、生存期間が延びています。分子標的薬は従来の抗がん剤よりも副作用が少ないのが特徴です。

分子標的薬による副作用には、手足の皮膚障害や血圧上昇など、従来の抗がん剤とは異なる副作用が起こります。

大腸がんの薬物治療と効果・副作用について詳しく知りたい方はこちら



抗うつ薬

うつ病は、脳の神経細胞の働きに異常が生じることで起きると考えられています。抗うつ薬は、神経細胞間で情報を伝える神経伝達物質の働きを高める作用があるため、うつ病の症状を改善させることができます。

抗うつ薬はその作用から5つのタイプに分けられています。

  1. SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)
  2. SNRI(セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬)
  3. NaSSA(ナッサ)・(ノルアドレナリン作動性・特異的セロトニン作動性抗うつ薬)
  4. 三環系
  5. 四環系

主な副作用

抗うつ薬の主な副作用

抗うつ薬の主な副作用は下記の通りです。

  • SSRI:吐き気・食欲不振・下痢
  • SNRI:吐き気・尿が出にくい・頭痛
  • NaSSA:眠気・体重増加
  • 三環系:口が乾く・便秘・立ちくらみ
  • 四環系:眠気・ふらつき

抗うつ薬の副作用は、服用を開始して最初の1~2週間に強く出ることが多く、それ以降は治ってくることがほとんどです。また、抗うつ薬の効果が現れるまでに日数がかかることもあり、初めのうちは副作用だけが感じられることがあります。
「薬をのんだらかえって具合が悪くなった」と治療を中断せず、副作用がつらい場合は医師に相談するようにしてください。

抗うつ薬について詳しく知りたい方はこちら



鉄欠乏性貧血

貧血の中でも、一番多いのが鉄不足によって起きる「鉄欠乏性貧血」です。
「動悸」「息切れ」「疲れやすい」「顔色が悪い」「頭が重たい」などの症状の他に、鉄欠乏性貧血に特徴的な鉄不足そのものが起こす症状が出ることがあります。
例えば爪の変形、就寝時に足がむずむずして寝つけない「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」、そしてまれな症状ではありますが「氷が食べたくなる」という症状が出る人もいます。

鉄剤の副作用

鉄剤の副作用

鉄欠乏性貧血の治療は、不足している鉄を補うために「鉄剤」を使用するのが基本です。副作用として吐き気、胃痛、下痢などの胃腸障害や、まれに発疹がみられることもあります。また便が黒くなることがありますが、あまり気にしなくても問題ありません。副作用が強い場合には、服用する薬の種類を変更する、服用するタイミングを変更するなどして対応します。
それでも副作用が気になる場合には、注射や小児用のシロップに変更する場合もあります。

鉄欠乏性貧血の治療、鉄剤の副作用などについて詳しく知りたい方はこちら



便秘の治療薬

従来から使われている便秘薬

酸化マグネシウムは、便を軟らかくして排便を促す薬です。定期的に使用しても安全と言われていますが、多く使うと血液中のマグネシウム濃度が上がることがあります。腎機能障害のある人や腎機能が低下している人、高齢者はマグネシウム濃度が上がりやすく、筋力低下などを招く場合があります。
センナなどの刺激性便秘薬は、大腸を刺激して大腸が波打つように動く「ぜん動運動」を高めて強制的に便を排出する薬です。この薬を日常的に長期間使っていると、耐性(薬に対する抵抗)が増し、ぜん動運動の動きが弱くなります。その結果、薬の量を増やさないと便意が現れなかったり、便意そのものがなくなったりすることがあります。

新しい便秘薬

ルビプロストンリナクロチドは、小腸に入った食べ物・つまり便の元を腸液の分泌を促進することで便を軟らかくし、便の移動をスムーズにして排便を促進する薬です。エロビキシバットは、胆汁酸の吸収をコントロールする薬です。

いずれの薬も、腎機能との関連や耐性の問題を心配する必要はほとんどありません。ただし、下痢や腹痛が起こることがあります。ルビプロストンは、特に若い女性で吐き気などが起こることがありますが、大体1週間程度で治まります。妊娠の可能性がある人や妊婦などには使用できません。

便秘薬の種類・効果、副作用などについて詳しく知りたい方はこちら



股関節、ひざの痛みの治療薬

股関節の痛みの原因

股関節に痛みを引き起こす原因の多くは「変形性股関節症」ですが、それ以外の原因でも股関節の痛みが現れるものがあります。
骨粗しょう症の治療薬「ビスホスホネート」を長年服用していると、まれに「非定型大腿骨(だいたいこつ)骨折」を起こすことがあります。
また、短期間に大量のステロイドを投与する「ステロイドパルス療法」や長期間にわたるステロイド治療などで、服薬するステロイドが一定量を超えると「骨頭壊死(えし)」を起こすリスクが高まるとされています。骨頭壊死とは、何らかの理由で大腿骨頭の一部の血流が途絶え、そのために組織が壊死して骨頭に変形や破壊が起こる病気です。

ステロイドは、「突発性難聴」「膠原病(こうげんびょう)」「リウマチ」「ネフローゼ症候群」など多くの病気の治療に用いられています。もし、治療を続けていて股関節が痛むなどの異変を感じた場合は、すぐ整形外科の専門医に相談してください。

股関節の痛みと薬の副作用について詳しく知りたい方はこちら

ひざの痛みの治療薬

中高年のひざの痛みで最も多いのは、ひざ関節の軟骨がすり減って起こる「変形性ひざ関節症」です。
変形性ひざ関節症の薬には「外用薬」「内服薬」「注射薬」があります。

外用薬の湿布は副作用が少なく比較的安全に使える薬ですが、医療機関から処方される強力なタイプの湿布は、一度に何枚も使うと血液中の薬の濃度がのみ薬と同程度にまで高くなることがあります。胃腸障害や腎機能障害などの副作用を起こす可能性もあるため、使い方を指示通りに守ることが大切です。

変形性ひざ関節症の薬の副作用

内服薬の「非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)」は、長期間に渡って使用すると、胃腸障害や腎臓障害、心血管障害が起こることがあります。「COX-2選択的阻害薬」も胃腸障害が起こる場合がありますが、NSAIDsより少ないのが特徴です。また、「アセトアミノフェン(解熱鎮痛薬)」も副作用が比較的少ないのですが、のみすぎると肝機能障害など起こす場合があります。「オピオイド」は、ふらつき・悪心・便秘・めまいなど。「デュロキセチン」の副作用は少し変わっていて、吐き気、眠気、口の渇きなどがあります。

変形性ひざ関節症の治療では、作用機序の異なる薬が使えることで併用が可能になり、複数の薬が処方されるようになりました。こうした「多剤併用」は、薬の作用が必要以上に強く出たり、副作用が出やすくなることもあるため望ましくありません。特に高齢者は糖尿病や高血圧などの持病の薬を服用していることも多いので、注意が必要です。

また、炎症がひどく、ひざに関節液がたまって痛む場合は注射器で関節液を抜き、そこへ「ステロイド」や「ヒアルロン酸」を注射します。
「ステロイド」は痛みを急速に抑える効果が期待できますが、繰り返し使うと関節の骨や軟骨に悪影響があるという報告があります。年に何度も繰り返して行うことは一般的に推奨されていません。

ひざの痛みに効く治療薬の効果と副作用などについて詳しく知りたい方はこちら



アルツハイマー病の治療薬

アルツハイマー病は、記憶を司る脳の海馬の周辺から萎縮が始まる病気です。早い段階で診断して適切な薬を使えば、症状が軽い状態を維持することも期待できます。

薬の副作用

薬は現在全部で4種類あり、神経伝達物質のアセチルコリンの減少を抑える作用を持つドネペジル、ガランタミン、リバスチグミンと、神経細胞の死滅を防ぐ作用を持つメマンチンがあります。

ドネペジルやガランタミン、リバスチグミンの主な副作用は、吐き気やおう吐、下痢などの消化器症状で脈拍が遅くなることもあります。薬の使い始めや増量後などにイライラしたり、興奮したり、攻撃的になる場合もあります。
メマンチンの主な副作用は、ふらつき、眠気、頭痛、血圧上昇、便秘、食欲不振などです。高齢でふらつきや眠気などの症状が出た場合は、転倒や骨折の危険があります。

アルツハイマー病の治療薬の副作用について詳しく知りたい方はこちら



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