【特集】漢方とは?漢方薬が処方されるケース、体の不調への改善効果

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【特集】漢方とは?漢方薬が処方されるケース、体の不調への改善効果

西洋医学では手が届かない症状への解決策として注目を集める「東洋医学」。気圧の変化が原因の頭痛やメンタル不調の改善には漢方薬が処方されます。生理痛や更年期症状など女性特有の症状改善にも古くから漢方薬が使われてきました。体質や症状によって使い分けられる漢方薬について詳しくご紹介します。

漢方とは

漢方は、西洋医学的な検査などで「病名」を明らかにして行う治療と異なり、病気に対する「体の反応」を見て診断・治療を行います。漢方医学では心と体を1つのものとして捉え、病気は心身の働きのバランスが崩れたときに起こると考えます。そのため、漢方薬で心身全体のバランスを整え、自然に治癒する力を高めることで症状の改善を促します。

漢方とは

漢方薬は、薬効のある植物や動物、鉱物などから作られた生薬(しょうやく)を組み合わせて使われます。生薬は200種類以上ありますが、その多くが植物に由来したものです。1つの漢方薬は、基本的に2種類以上の生薬で構成され、剤形には煎じ薬(せんじぐすり)とエキス剤の2種類があります。一度に使われる薬は1種類か、多くても2~3種類までが原則です。

「漢方」の種類や診断について詳しく知りたい方はこちら

漢方薬が役に立つケース

漢方薬が役立つことが多いケースは、主に5つあります。

漢方薬が役立つケース

  • ケース1
    自覚症状があるのに、医療機関で「異常なし」「原因不明」などと診断された場合。この場合、西洋医学では治療の対象とならないことがありますが、漢方薬であれば、患者さんの体質や状態に合わせて選ぶことができます。
  • ケース2
    病名を診断されたが、有効な西洋薬がない場合。
  • ケース3
    「不眠」と「イライラ」がつらいなど、心身の両方に症状がある場合。漢方では体の症状だけでなく、感情やストレスなどといった精神的な症状も治療対象となります。
  • ケース4
    「疲れやすさ」と「冷え」など、さまざまな症状がある場合。
  • ケース5
    使用している西洋薬が多い場合。特に高齢者の場合、副作用が起こりやすくなり、そのために西洋薬の使用が難しくなることがあります。

実際にこうした悩みがあり、漢方薬による治療を希望する場合は、まず主治医に相談してください。

漢方の診断

漢方では、まず患者さんの体質と心身の状態を診ます。そして、その結果をもとに、患者さんに合った漢方薬を見立てていきます。

漢方

体質は「陰・陽・虚・実」という概念で表し、診断します。
「陰」は、寒がりで、顔色が青白く体温は低めで、食欲があまりないようなタイプです。「陽」は逆に、暑がりで、顔色が紅潮しやすく体温は高めで、冷たいものをよく飲んだり食べたりするようなタイプです。「虚」は、体力がなくて疲れやすく、胃腸が弱くて、どちらかというと下痢をしやすいタイプです。「実」は逆に、体力があって無理が効きやすく、胃腸が強くて、どちらかというと便秘をしやすいタイプです。

心身の状態

心身の状態は「気・血(けつ)・水(すい)」という概念で表し、診断します。
「気」は、いわば元気の"気"で、心身全体のエネルギーのことです。「血」は、血液とその流れを指します。「水」は、リンパ液や消化液など体内を循環する血液以外の水分のことです。この「気・血・水」のいずれかでも量が不足したり、流れが悪くなったりすると、心や体の不調が起こると考えます。

たとえば、疲れやすさや食欲不振があれば、気の量が不足している「気虚(ききょ)」と診断されます。顔色の悪さや頭痛、肩こりがあれば、血の巡りが悪い「瘀血(おけつ)」と診断されます。体のどこかにむくみがあれば、水の流れが滞る「水滞(すいたい)」と診断されます。

漢方薬による治療 気虚や瘀血、水滞の診断や処方について詳しく知りたい方はこちら



低気圧による不調を改善

季節の変わり目や天気が崩れる前など、天気や気圧の変化で起こる頭痛やだるさ、体の痛みなどの改善に、古くから使われてきたのが漢方薬です。

心身の不調を見極めるとき、漢方では「気・血・水」で診断しますが、天気や気圧による不調の場合、この「水」に異常があるといいます。東洋医学でいう「水毒(すいどく)」の状態です。気圧の変化によって、体内の水分バランスが崩れることで「むくみ」や「血行不良」などが起こり、頭痛やけん怠感、体の痛みなど、さまざまな不調の引き金になると考えられています。

水毒の傾向は「舌」で分かる!?

天気による不調を感じやすい人は、日頃から「水毒」の傾向があると考えられ、手軽にチェックできる方法として「舌」があります。東洋医学では、舌は内臓をはじめ全身の状態が表れやすいとされています。「水毒」では、舌がむくんで縁に歯形がつくのが特徴です。

水毒の舌

「水毒」のチェックリスト

「水毒」の傾向は、舌以外でもチェックすることができます。
気になる人は、確認してみましょう!

水毒チェックリスト

天候による不調に処方される漢方薬

「水毒」を改善し、天気による不調に多く処方されるのが「五苓散(ごれいさん)」です。体内の水分代謝の異常を抑制する作用があると考えられ、古くから使われてきました。

「五苓散」は薬局やインターネット通販でも入手することができます。しかし、天気による不調には、片頭痛をはじめ、さまざまな病気が潜んでいる可能性があります。ぜひ、かかりつけ医や漢方専門医に相談し、診断を受けてから処方を受けることをおすすめします。

低気圧による不調を解決!「漢方薬」のチカラについて詳しく知りたい方はこちら



メンタルの不調を改善

東洋医学の考え方でメンタル不調の原因を探ると、関係が深いのが「気」です。「気」は「気力」「元気」などに象徴される「生命のエネルギー」です。

「気」の異常 3つのタイプとは?

「気」の異常は、「気虚(ききょ)」「気滞(きたい)」「気逆(きぎゃく)」の3つのタイプに分けられます。漢方専門医の今津嘉宏さんによると、メンタルの不調で処方される漢方薬は主にこの3つのタイプ別に分かれます。今津さんが注目する生薬と漢方薬を教えてもらいました。

「気」の異常 3つのタイプ

気虚(ききょ)

体を動かすエネルギーである「気」が不足しているため、気力がなく倦怠感(けんたいかん)が現れやすいのが特徴。また、「気」を作るとされる胃の調子が悪い人もこのタイプが多い。

気虚(ききょ)

【生薬】人参
主な作用は滋養強壮
【漢方薬】補中益気湯(ほちゅうえっきとう)、十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)、人参養栄湯(にんじんようえいとう)、六君子湯(りっくんしとう)、加味帰脾湯(かみきひとう)など

気滞(きたい)

「気」の流れが悪いため、気分や感情が不安定、眠れないといった症状が出やすいのが特徴。また、のどが詰まるような感覚も起こりやすくなります。

柴胡(さいこ)と蘇葉(そよう)

【生薬】柴胡(さいこ)
主な作用:抗炎症作用
【漢方薬】柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)、抑肝散(よくかんさん)、抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)など

【生薬】蘇葉(そよう)
主な作用:抗不安・鎮静作用
【漢方薬】半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)、香蘇散(こうそさん)
など

気逆(きぎゃく)

通常は、上から下に流れていると考えられている「気」が逆流しているため、足は冷えるのに、のぼせるなどの症状が起こりやすいのが特徴。また、動悸や突発的な頭痛なども起こりやすくなります。

桂皮(けいひ)

【生薬】桂皮(けいひ)
主な作用:解熱・抗ストレス作用
【漢方薬】苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)、桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
など

メンタル不調を解決!漢方のチカラについて詳しく知りたい方はこちら



女性のお悩みを改善

漢方の専門医によると、生理痛や更年期症状に悩む女性の多くは、「冷え」や「肩こり」など「血」の巡りが滞っていることが根本にあるといいます。血液の循環が低下することで、痛みやけん怠感などさまざまな症状を引き起こすと考えられています。

そこで、こうした症状の改善によく用いられているのが、三大女性漢方薬です。どれにも「血」の働きを改善する生薬が調合されています。体質や症状によって、それぞれの人に適した漢方薬を使い分けます。

三代女性漢方薬の使い分け
  • 当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
    血の巡りを改善する「当帰」などに加え、体の「水」の巡りを整える生薬が配合されています。足腰の冷え、生理不順、また、足がむくみやすいなどの症状がある方に処方されます。
  • 加味逍遙散(かみしょうようさん)
    更年期のイライラやけん怠感、また、生理前のメンタルの不調など、「気」に関係する症状がある方に処方されます。
  • 桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)
    下半身の冷え、のぼせ、生理痛など、「血」の巡りが滞っている状態が重い場合に処方されます。

漢方薬は、ほとんどの婦人科や内科で処方しています。また、更年期障害の診断がついていれば、健康保険も適用されます。おだやかな効き目で安心して使えるものがほとんどですが、薬なので副作用もあります。自己判断で量や種類を増やしたりせず、医師や薬剤師に相談するようにしましょう。

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起立性調節障害の治療

起立性調節障害は思春期の子どもに多く発症する病気で、自律神経の働きが悪くなることで起こります。通常、横になった状態から立ち上がると、血液が下半身に移動します。このとき、自律神経がうまく働かないと、血管が収縮せず脳への血流が低下してしまいます。その結果、めまいや立ちくらみ、けん怠感や頭痛などの症状が現れるのです。

これらの症状は午前中に強く出るため、学校へ行けなくなるケースも少なくありません。また、夕方や夜には症状が落ち着くため、寝るのが遅くなるなど、生活習慣が崩れ、悪循環になるケースもあります。

起立性調節障害チェックリスト

自分や家族が起立性調節障害かも…と思ったら、上のチェックリストを参考にしてみてください。

起立性調節障害の治療に漢方薬

起立性調節障害の治療は生活改善が基本です。運動、水分をしっかりとること、睡眠リズムを整えること、この3つを継続することが大切です。また、標準的な治療として血圧を上げる薬が処方されますが、効果が見られない患者さんには、「腹診(ふくしん)」や「舌診(ぜっしん)」など、東洋医学に基づいた診察を行い、その結果、症状に適した漢方薬を処方することがあります。

起立性調節障害の治療で注目される東洋医学について詳しく知りたい方はこちら



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