アルツハイマー型認知症の人が見ている世界 ケアのヒント

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認知症アルツハイマー病物忘れをする言葉が出ない脳・神経

認知症の人の世界を理解しよう

今回は、アルツハイマー型認知症の人が見ている世界について解説します。
認知症の人が見ている世界を知ることで、より良い介護のヒントにもつながります。

アルツハイマー型認知症の人が見ている世界

ケース1:何度も同じことを聞く

何度も同じことを聞く

デイサービスに通っているさとこさん。
「デイサービスの日はいつだったかしら?」と娘さんに聞きます。
「あさってですよ」と、教えてもらいましたが…5分後。
「デイサービスの日はいつ?」と聞いてきます。1度や2度ではなく、何回も聞いてくるため、家族は困っています。

アルツハイマー型認知症はいま聞いたこと、少し前に聞いたことを覚え続けることが苦手

一方、認知症のさとこさんが見ている世界では「あさってが、デイサービスの日、ちゃんと覚えておかなきゃ!」
と思ったのですが…
「あれ?」デイサービスの日は…心配になってデイサービスの日を何度も聞いてしまっていたんです。

アルツハイマー型認知症では、いま聞いたこと、少し前に聞いたことなどを覚え続けることが苦手になります。(短期記憶障害)
同じことを何度も聞くのは、それだけ本人が気にしている関心事だからです。認知症の人は常に不安な気持ちを抱えていて「周囲の人に迷惑をかけたくない!」「間違えたらどうしよう」と思っています。本人なりに周囲への思いやりから聞いているのですが、忘れやすくなっているために何度も同じ話を聞いてしまうのです。

【対応のポイント“心をゆさぶる”】

心をゆさぶるというのは、私たちの喜怒哀楽の4つの感情に訴えるような言葉を足して伝えることです。本人の印象に残りやすく記憶に結びつきやすくなるのです。

「デイサービスはあさってですよ」と言うだけでなく、「仲の良い○○さんと会えるから楽しみですね」という風に前向きなメッセージをつけます。

ポジティブなメッセージだけでは不安が収まらない方には「お母さん大丈夫よ。私が代わりに覚えておくからね」と、ご本人の記憶を肩代わりして安心してもらうことを心がけます。

ケース2:ここはどこ?場所がわからない

場所がわからないケースの場合

送迎バスに乗ってデイサービスに行く山崎さん。車が到着し、他の利用者が降りる中、山崎さんは混乱した様子です。
運転手さんが「みんな待ってますよ!」と言うものの、山崎さんは「家に帰りたい」と言うのです。

場所が分からない 認知症の人が見ている世界

一方、認知症の山崎さんが見ている世界では、バスに揺られてふと気づくと「ここはどこなのか?」「今何時なのか?」わからなくなっていました。
少しすると「そうだ、会社に行くんだ。出勤中のバスの中だ」と、思いました。
バスは止まりましたが、山崎さんはどこかまだわかりません。そこでいったん「家に帰ろう」と思ったのです。

認知症の人は今が「いつ」なのか、ここが「どこ」なのか、目の前の人が「誰」なのかを認識することが苦手になります。これを見当識(けんとうしき)障害とまとめて言います。
多くの場合、時間→場所→人物という順番で認識するのが苦手になります。今が「いつ」なのかという認識においては自分を実年齢よりも若いと思い込むケースがあります。男性の場合は30〜40歳代の働き盛りの頃、女性の場合では20〜30歳代の子育て中の頃など、いちばん元気だった時代を「今」と認識していることがあります。
また「どこ」という認識においては、家の中でも部屋を出ると場所がわからなくなり、トイレの場所がわからない場合もあります。
本人にとっては急に知らないところにいるという認識なので、不安や恐怖を感じていることもあります。

【対応のポイント“本人の話を聞いて安心してもらう”】

「○○さん、不安そうに見えますけど、どうされましたか?」と穏やかに声をかけ、本人の話を聞き、本人の状況や気持ちを理解することが大切です。
「ここはデイサービスの施設ですよ」などと説明をするのではなく、まずは本人の話を聞き、話に共感しながら今いる場所を一緒に思い出すことがポイントです。

問いかけに対して「いや会社に行かなくちゃいけないんだ」と言うのであれば「あ、お仕事ですね。息子さんがそう言えば、あの二代目で頑張ってますもんね」など、共感し話をすることで「あ、そうだった息子に代譲りしたんだ」と、本人の中でも今の状況を理解してくることがあります。
そんなタイミングを作ってあげることや一緒に探すことが大切です。

認知症の人の行動の理由を考えるポイント

認知症の人の行動の理由を考えるポイント

職業や生活習慣、趣味などの情報を把握することや、幼い頃の思い出や結婚の馴れ初めなど、昔の話を事前に聞いておくとその人の言動の理由を知るヒントになります。

ケース3:のどが渇いたからハサミが欲しい

のどが渇いたからハサミが欲しい

デイケアに通っている千代さん。
「のどが渇いたんだけど、ハサミはないかしら?」と言います。
「のどが渇いたならお茶を持ってきますよ」と施設のスタッフが尋ねますが、ハサミが欲しいと言います。

認知症の人が見ている世界

一方、認知症の千代さんが見ている世界では、ペットボトルのお茶を持ってきたけど…ふたが開きません。人に開けてもらうのは悪いし、自分のお茶があるのにもらうのも申し訳ない。
そうだ、ハサミを使えば開けられるかもしれない!と考えていたのです。

認知症によって脳の機能が低下して思考力や判断力が衰えると、物事を道筋立てて考えるのが苦手になります。(実行機能障害)
そのため認知症の人は一般的な常識と食い違う言動をします。
また言葉がうまく出ないこともあり「あれ、それ」などの指示語が多くなったりします。つじつまが合わず理解し難い言動でも本人にしてみれば懸命に考えた結果です。この場合、ふたを開けるにはどうすればいいのかをあれこれ考えて導き出されたのが「はさみがあれば開けられるかもしれない」ということなのです。

【対応のポイント“相手のことをよく観察し、解決のヒントを探る”】

まず「○○さんどうしましたか?」と声をかけ、注意深く本人の行動や周囲の状況などを観察します。そしてそこから想像を巡らせます。
この場合、バッグの中にある手つかずのペットボトルがありました。
「ペットボトルをどこに置いたかわからなくなっているのかも」「ふたの開け方がわからなくて、ハサミで開けようと思っているのかも」と想像します。さまざまな想像から解決の糸口が探っていきましょう。

ケース4:お風呂に入りたくない

ケース4:お風呂に入りたくない

お風呂に入りたくない、きよこさん。
家族がお風呂に入ることを勧めますが断り続けています。

お風呂に入りたくない 認知症の人が見ている世界

一方、認知症のきよこさんの世界をみると…
「髪を洗うのはどれ?」「お湯の出し方ってどうやるの?」「タオルはどれを使ったらいいの?」と、毎回、入浴後には疲れ果てていたんです。
そこで、きよこさんは、今日は外には出ていないし臭いもしないからお風呂に入らなくてもいいと思い、断っていた結果、1週間が経っていました。

認知症になると手順や段取りをこなすのが苦手になる症状が出てきます。
入浴は服を脱ぐ、湯に浸かる、体を洗う、髪を洗うなど、複雑な作業が必要です。例えば、2つある蛇口のうちどちらをひねればお湯が出るのかで迷う、シャンプーやボディソープを使い分けるなどで混乱が生じやすいのです。
さらに認知症の方の中には、お湯がぬるぬると感じたり、熱い、冷たいなど身体感覚が鈍くなる、あるいは敏感になることもあります。
また嗅覚が鈍くなり、自分の体臭に気付きにくくなることもあります。
入浴とトイレは一人だけでやりこなす場面のため、一連の手順、選択の多さなどから入浴拒否をしてしまうのです。

【対応のポイント“できることは見守り、苦手な部分は手伝う”】

入浴を勧めるときの声かけでも心をゆさぶることが大事です。
「お風呂できましたからどうぞ」ではなく「温かいお風呂がちょうどできましたよ!」「私がお背中流しますので、ぜひどうぞ」というような声かけをすることで、気持ちよく入ることができるようになる場合もあります。
入浴してくれたときには、できることは見守り、苦手な部分を手伝うことが大切です。例えば、髪をシャンプーで洗えたが泡を洗い流すのが苦手になっていた場合には「泡がついてるじゃないダメじゃない」とは言わずに「泡がついてるから流させてね。ありがとうね」と言って流すのを手伝いましょう。
こちらが先に「ありがとう」と言うと、介護側もされる側も悪い気持ちにはなりません。

ケース5:早口で何を言っているの?

早口で何を言っているのかわからない

娘夫婦と一緒に住む和子さん。
家族でご飯を食べながら雑談をしていました。「駅前にお寿司屋さんができたよね、あそこいきたい!」「そうか、予約できるかな?」と娘夫婦が話しています。
「お母さん、明日の夕食は外で食べるよ…わかった?」と和子さんに聞きました。和子さんは「わかった」と答えましたが…

会話 認知症の人が見ている世界

一方、認知症の和子さんが見ている世界では「エキマエにオスシヤサンデキタヨネアソコイキタイ」「ソウカ、ヨヤクデキルカナ」と聞こえていました。
最後に「わかった?」と聞かれたところだけは分かったので、返事をしていたのです。

認知症の人から見ると、私たちの会話がビデオの早送りのような2倍速以上で聞こえていると言われています。また、言葉が連続し、つながって聞こえ言葉の理解がしにくくなります。
私たちに置き換えると、海外に行って周りの人が外国語で話しかけてくると分からないというようなイメージです。

この場合は耳自体が原因の難聴ではなく、認知症の場合は言葉を理解したり発したりする脳の領域が衰え、聞くことや話すことが苦手になると考えられています。
ただ一方、難聴があると認知症になりやすいという報告もあるので注意が必要です。

【対応のポイント“ゆつくり簡単な言葉で伝える”】

認知症の人と話すときには、言葉一つ一つの間を開けてあげることが大切です。句点や読点を意識して話します。
簡単に言うと、“はつきり”伝えたり、“ゆつくり”伝える、そのぐらいのつもりです。言葉も長く話すと前のことが分からなくなってしまう場合があるので、簡単な言葉で3単語ぐらいで短く伝えることを心がけましょう。

例えば「明日夕食は外で食べるよ」ではなく「明日、夕食、外よ」というように短く伝えると伝わりやすくなります。

また、ジェスチャーも有効に使えるとなお伝わりやすくなります。
ポイントは先にジェスチャー(ご飯を食べる動き)を行い、その後に「ご飯」など言葉をかけるようにします。
ジャスチャーと言葉を同時に行うと2つの情報を頭の中で処理しないといけません。
すると混乱が生じやすくなるので、ジャスチャーをしてから声かけをして1つずつ情報を伝えるようにします。日常生活ではなかなかしない順番ですが、認知症の人が見ている世界の中ではこのような伝え方の方が安心してもらえるケースが多いです。

NHK福祉情報サイトでも、「認知症」に関する情報をまとめています

詳しい内容は、きょうの健康テキスト 2023年1月 号に掲載されています。

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