乳がん体験談・取材レポート 病気への向き合い方や家族の支え

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乳がんを乗り越える

女性に最も多いがん、「乳がん」。罹患率はこの40年で4倍に急増し、今や11人に1人がかかると言われています。
一方、検診技術や抗がん剤の発達により、乳がんの5年生存率は90%を超えます。これは、多くの患者やその家族が再発や転移の不安を抱えながら、10年、あるいはそれ以上の長期にわたり、乳がんと共に生きることを意味しています。

不安の10年をどう乗り越えるか?患者や家族の直面する問題や悩みに対し、SNSなどで寄せられた経験者たちの知恵や工夫、さらには専門医の知見や最新の医療情報を取材することで、乳がんとつきあいながら生きる術を考えていきます。

家族が乳がんに わが家はこうして乗りこえる

乳がんと診断された奥様を支えるご家族。取材で学んだのは“発想の転換”でした。

ウイッグ選びも副作用も 笑いに変える

例えばウイッグ選び。あえて子ども達と一緒に行ったことで、娘さんは「楽しかった!」と笑いながら話してくれました。

「いろんな種類があってビックリしたし、全然似合わないのもあったね!ものによっては、おばあちゃんそっくりになったりして、写真撮ったもんね!笑」
そして「いきなり髪が抜けた姿を見たら驚くし、動揺すると思う。でも自分たちでウイッグ選んだ上で、どんどん姿が変わっていったから、受け入れられました」
と、堂々と話してくれました。

ちなみに髪の毛が抜け、眉毛も薄くなった後、子ども達が母に付けたあだ名は「せん〇くん」だそうで…
副作用すら笑いに変える発想の転換と、母の変化を自然と受け入れることができるよう、一緒に準備をされてきたその工夫に、あっぱれです!!

治療も家族のイベント「サヨナラおっぱい式」

乳がんの治療を家族で乗り越える

そしていよいよ手術。入院前に自宅で開催されたのは、ご家族だけの「サヨナラおっぱい式」です。
娘さんが、お母さんの乳房をなで、ありがとうとサヨナラのキス。赤ちゃんの時たくさん飲んで、包まれて眠り、いつも安心感を与えてくれた、お母さんのおっぱい。面と向かって「ありがとう」と「さよなら」をできたことで、きっとこれからも、温かい思い出を胸に、子ども達も一緒に、お母さんのがんと共存していけるのだと思います。

お母様は無事に手術を終えられました。これからもご家族一緒に、仲良く明るく前向きに、がんと向き合っていかれることと思います。こんな素敵なご家族と出会えたことで、私も自分の家族観を改めて考え直しました。病気の有無に関係なく、「家族の絆」を結ぶ上で大切なことをたくさん教えてくださったご家族に、心から感謝を申し上げます。

手術で乳房切除 かわいいパッドで術後を豊かに

乳がん手術による、乳房の切除。へこみができてしまった乳房をどうカバーするか、再建するかどうかなど、悩む人も多いかと思います。番組に寄せられた意見の中には、手作りおっぱい部を結成して、手編みのパッドを作ることで補ったという声が届きました。

乳がん手術後、切除した胸をどうカバーするかは、多くの方にとって悩みです。一部だけを切除する温存手術でもへこみが目立ってしまう場合がありますが、市販のパッドはなかなか見つからないそうです。

彼女たちが作っている手作りのパッドは、一人ひとりが求めるボリュームや柔らかさ、重さなどに合わせることができ、材料は百円均一でそろうものばかり。さらに、花柄などをあしらい、見ていても楽しい工夫をしています。
片方の乳房を全摘したという参加者は、かつて、自分の胸に合う市販品が見つけられず、タオルを入れるなどして代用していました。肌触りも気になり、気持ちも暗くなっていましたが、この手編みパッドに出会い、大きく変わったそうです。
さらにこの団体では、乳がんのイベントや病院などで、自分たちが作ったパッドを患者さんたちに配布しています。同じ病気と闘っている人とのつながりができることも、励みになっているといいます。

乳がんは、いろんなものを失う病気でもあります。でも、それを明るく補えるアイテムも、悩みを共有できる仲間もいます。乳がんになり、つらいことばかりと感じていらっしゃる方には、ぜひ知って欲しい取り組みだと感じました。術後のQOL(生活の質)をどう保っていくのか、選択肢は増えています。

思春期の子どもとの向き合い方

番組の投稿フォームには思春期の子どもを持つ乳がん患者からの声が寄せられています。2年前に乳がんと診断された50代の女性が今回、カメラの前で胸の内を語ってくれました。過去のつらい体験を共有してくださり、ありがとうございます。

彼女がいちばん悩んでいたのは、当時中学3年生だった娘のこと。抗がん剤治療による副作用がつらくてなかなかコミュケーションがとれず、家族の雰囲気はギクシャクしていきました。娘も徐々に不安定になり、学校が終わっても帰って来なくなったり、習い事に行きたくないと飛び出したりしたそうです。

悩む女性の心の支えとなったのは、子育て世代のがん患者たちが、気持ちや近況を自由に書き込み、交流できるSNS「キャンサーペアレンツ」です。彼女の心を動かしたのは、小学生の子どもをもつ患者が書いた日記。家族だからこそ言えない思いや、気づかってしまう歯がゆさなど、女性が抱いていた葛藤が表現されていたといいます。
それをきっかけに、SNSに参加した女性。他の患者の方々が、家族でどうやってがんと向き合っているのか知り、自分の悩みも書き込むようになりました。女性が気持ちを吐き出せる場を見つけ、変わっていったことで、娘も穏やかに変わっていったと言います。

女性は、支える側の家族にも、支えられる場が必要だと話します。

「今思うと、娘にこそはけ口がなかった。友達にも、誰にも言えなかったみたいなので。家族が支えあうためには、患者だけでなく、夫や子どもたちも、家庭以外の場で支えられることが必要。」

乳がんのタイプや治療法がそれぞれ違うように、家族のかたちや関係もそれぞれだと、彼女の言葉から考えさせられました。寄せられた一人一人の声に引き続き、耳を傾けていきたいと思います。

支える家族にも支えを

妻や恋人が乳がんと診断されたら、パートナーの男性はどう接しているのか、悩みはないのか。そんな疑問を抱き、配偶者や恋人ががんになったパートナーたちのピアサポート・ネットワークを取材しました。それが、SNSグループ「キャンサー・パートナーズ」です。

サイトを開設した三宅俊介さんは、2012年に妻のがんが発覚し、2014年に亡くなるまでその闘病を支えました。実は、三宅さん自身もがんサバイバー。妻の病気がわかる9か月前に急性骨髄性白血病と診断され、抗がん剤治療も経験しました。
妻の闘病中、幼い娘がふたりいた三宅さん。育児、家事、仕事に追われながら、子どもも妻も支えることは、精神的にも大きな負担だったと言います。

その後、三宅さんは、自分と同じような立場の人たちと出会うなかで、健康な大人として患者を支えることを周囲から求められ、パートナーが孤立している状況を目の当たりにしてきました。自身の経験から立ち上げたSNSには、誰にも打ち明けられないもやもやした気持ちを吐露したり、それに対するアドバイスがあったりと、さまざまな書き込みやメッセージが集まっているそうです。

「とにかく一人で抱え込まないで」
と三宅さんは話してくれました。

乳がん経験者が支える立場になる

「私は病気の先輩なんです」

―病院内の「乳がん情報提供室」で働く吉田さんが語った言葉です。彼女は10年前に乳がんと診断。当初は何も考えられずに泣いてばかりいたそうです。乳がんと向き合う中で彼女が選んだのは、勉強をして乳がんの先輩として支える側に立つことでした。

相談室にはやさしい音楽が流れ、アロマの香りがする部屋は、まるで病院内とは思えないほど落ち着いた空間です。
「患者さんやそのご家族と話すとき、リラックスしてほしいから」
という吉田さんなりの気配りです。室内の棚にはウィッグや美容品なども置かれており、治療中の生活をどう豊かにしていくか、女性ならではの悩みに寄り添いたいという経験者の強い思いが感じられました。

多いときで一日あたり5、6人の患者と、時には数時間かけて対話をするという吉田さん。支える側に立つために、NPOが主宰する乳がん体験者向けの講座を受講し、がん医療にかかわる専門知識も学習しました。相談内容に応じて、時には治療に向けて医師と情報交換し、時には別の支援窓口につないだりと、今ではワンストップで患者の悩みに対応しています。

吉田さんのように病院の職員として患者の相談に応じている乳がん経験者は全国的にもまだ少なく、ボランティアとして相談員をされている方が多いそうです。インタビューに答えていただいた谷和行医師は、
「吉田さんのような患者の先輩として相談に応じられる職員が、もっと全国の医療機関で増えていくことが理想的だ」
と話していました。

これまで番組に寄せられた声でも「職場や親族、周りに相談ができない」という悩みは多く届いています。身の回りにもし乳がんを経験された方がいたら、そのような先輩と色々話すことが、乳がんを乗り越える上で大きな支えになるのかもしれません。

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この記事は以下の番組から作成しています

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