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「亜由未が教えてくれたこと」坂川智恵さんインタビュー 第1回「障害者の家族は不幸」という言葉

2017年07月21日(金)

笑顔の坂川智恵さんと亜由未さん

由未が教えてくれたこと」坂川智恵さんインタビュー
第1回「障害者の家族は不幸」という言葉

 ▼妹の介助をする姿を番組に
 ▼不幸だと生きていてはいけないの?
第2回 第3回 第4回

 



Webライターの木下です。

妹の介助をする姿を番組に


今年の5月9日に、『ハートネットTV』では、「亜由未が教えてくれたこと」という番組を放送しました。NHK青森の坂川裕野ディレクターは、神奈川県の津久井やまゆり園で殺傷事件を起こした植松聖容疑者の「障害者の家族は不幸」という言葉を否定したいがために、実家に戻り、亜由未さんにカメラを向けることになりました。坂川ディレクターの妹の亜由未さんは、肢体不自由と知的障害のある重症心身障害者です。

坂川ディレクターの実家は、東京の板橋区にあります。小さい頃から妹とは自宅でともに暮らしていましたが、世話や介助をしたことはありませんでした。しかし、今回は、番組のために妹さんの知らない一面や家族の苦労を知ろうと、1か月間介助をしたいと両親に申し出ました。

「亜由未が教えてくれたこと」
介助の目標はただ世話をすることではなく、妹を笑顔にすることでした。「自分の家族は幸せなんだ」と示したくて、がんばりますが、妹の亜由未さんは思うように笑ってくれません。そんなときに、母親の智恵さんは、「結果的に笑顔なのと、笑顔を求めるのは違う」と息子をたしなめます。

「障害者は笑顔でないといけないの?」という智恵さんの問いかけは、坂川ディレクターだけではなく、メディアすべてに向けられた問題提起でもあるような気がしました。昨年、バリバラでは「感動ポルノ」というテーマで、「障害者が非障害者を感動させるための道具にされていないか」という問題提起を行い、大きな反響を呼び起こしました。しかし、その一方で、昨年の津久井やまゆり園の事件の後には、さまざまなメディアが「幸せな障害者像」や「明るい障害者像」を示すことで、犯人の優生思想に対抗しようとしました。

そんな中、母親の智恵さんは、「障害者を無理に笑顔にする必要なんてない」と言います。それはなぜなのか、ご自宅を開放したコミュニティスペース「あゆちゃんち」に話をうかがいに行きました。


不幸だと生きていてはいけないの?


木下
:「障害者の家族は不幸だ」という植松聖容疑者に対抗する意味で、息子さんは妹の亜由未さんを笑顔にしようとがんばります。それに対して、母親である智恵さんは、「結果として笑顔になるのと、笑顔を求めるのは違う」と戒めますよね。あの言葉の真意は、どこにあるのでしょうか。

坂川:犯人の植松容疑者は、「障害者の家族は不幸だ」と言ったわけですが、それに対して、「いや、私たちは不幸じゃありません」なんて言い返すよりも、「不幸な人間は殺されなければならないのですか? 生きるのが許されるのは幸福な人間だけですか?」という根本的なことを問いたいのです。
 「見た目は不幸に見えるかもしれないけれど、実は幸せです」なんて言う必要さえないと思います。「不幸で何がいけないの」と言いたいですね。人生、幸せだと感じたり不幸だと思ったりいろいろなんですから、「不幸なら生きている価値はない」なんて、冗談ではないと思います。

木下:亜由未さんは、いつも笑っている、明るいイメージが強いですね。その姿を視聴者に見てもらって、植松容疑者の言葉を否定したいという、坂川ディレクターの気持ちはよくわかります。

坂川:どうしてもSNSなどに上げる写真は笑顔のものが多くなりますから、いつも笑っているように思われてしまうのです。でも、ふだんは笑っていないことも多いですし、体調によっても、全然違います。だから、ネットの中だけの亜由未しか知らなくて、初めて介助に来られる方は、「え、あゆちゃん、笑わないの!」と不安になられることがあるようです。でも、私たちもそうですけど、年がら年中笑ってるわけではないし、笑ってなくても充実していることってあるのに、笑顔ばかり求められたらしんどいと思います。

木下:介助する側にとっては、利用者の笑顔は仕事をしていく上で、大きなモチベーションになると言いますが。

坂川:学生時代に読んだ本で、安倍美知子さんという障害当事者の方が書かれた『ピエロにさよなら』という本があるのです。著者の美知子さんが、リハビリ中に一生懸命足を引きずりながら笑顔でがんばっていると、お父さんも先生もみんな笑顔になっていく。でも、本当はそうするのは辛くて、シンドイことだったのです。でも、「私が笑わなくなると、みんな去っていくのではないか」、そう思って、いつも笑っていたというのです。私はその本のことが忘れられません。
 亜由未はたまたま笑う障害者ですけど、表情がわかりにくかったり、笑わない方もおられます。明るい笑顔の障害者だけに人気が集まり、そうでない人には支援が手薄になるとしたら、それもおかしなことです。人間はいろいろな表情をもっていて、一日のうちでも変わりますし、逆に一日中、機嫌の悪い日だってあります。亜由未もいろいろな顔をするし、私は、それが「いいな」と思っています。詩人の相田みつをじゃないですけど、「人間だもの」と言いたいですね。

 

木下 真

▼関連ブログ記事
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  第2回  地域の人々と交わるスペースを創る 
  第3回 重い障害があっても地域で暮らす理由
       第4回 一緒にいることがスタートでありゴール

知的障害者の施設をめぐって 全14回障害者の暮らす場所 全5回相模原障害者施設殺傷事件 全6回相模原市障害者施設殺傷事件に関して【相模原市障害者施設殺傷事件】障害者団体等の声明


▼関連番組

 2017年5月9日放送『ハートネットTV』「亜由未が教えてくれたこと」
 2017年7月22日放送『ETV特集』「亜由未が教えてくれたこと
 2017年7月26日放送『ハートネットTV』「障害者施設殺傷事件から1年 第3回 障害者は“不幸”?」
 2017年9月24日放送『NHKスペシャル』「亜由未が教えてくれたこと」

コメント

 先日の放送を拝見し、早速、家族みんなに見てもらいたくて再放送を録画しました。
「障がい=困難が増すこと」にしてしまうのは、社会の仕組みと、周囲の理解(受け止め方)であるということ、はっきりと伝わって来ました。亜由未さんの存在に苦労は多いでしょうが、それ以上に「教えられたこと」を多いと受け止めることができたご一家は、本当の意味で強い家族なのだと感じます。とても素敵です。
 他のお二人のお子さんを「介護に巻き込まなかった」というご両親の方針、とてもはっきりとしていると感じました。それでいて、ドキュメンタリーの起点となったご長男、医学部で学ばれている娘さん、実はお二人が亜由未さんを通して考えたこと、生き方に影響を与えたものはとっても大きいのだと思います。
 そんな家族づくりを進めて来られたお母様、そして陰ながらとは言えないほどの支えとなっているお父様が印象的でした。
 さらに、この幸せの体験を地域の方々にも分け与えてあげようというご家族の努力は、亜由未さんの居場所と意味を広げる一助になっているのだと思います。
 私たちの家族は、実子二人に加えて、特別養子の子を育てています。この子を育てる際の苦労を実子二人に押し付けないこと、学校に行く年齢になった時に将来であうかもしれない「産んだお母さんが分からない」という悩みや、周囲の偏見から守るために周囲に理解してもらうように努力することを心に決めて来ました。状況は全く違いますが、坂川さんご一家から教えていただいたことにも通づるものを感じます。ご家族の取り組みを参考にしながら、この子の居場所を作り、この子が私たちの家族に幸せをもたらしてくれていることに有難うと言いながら育てていきたいと思っています。
 私たちを幸せにしてくれる「ありのままの」ドキュメンタリーを見せて下さった、坂川さんご一家に心より感謝しています。大袈裟かもしれませんが、生き方と家族のつくり方の力と考えをいただきました。

投稿:つか 2017年10月02日(月曜日) 13時21分

初めまして。
先日、放送を拝見しました。
亜由未さんの笑顔がとてもとても素敵で、家族からの大きな大きな愛情、そして、相手への深い思いやりをとても感じました。
亜由未さんのお母さんが、亜由未さんの笑顔でいることの努力(本当は身体がえらいはずなのに)、また、お父さんが、かけがえのない存在に寄り添っていることが幸せと、おっしゃっていた事がとても印象的です。
自分の周囲の存在へ、もっともっと感謝して、感受性を沢山磨いて、相手の気持ちを沢山沢山想像して、生きていきたいと、亜由未さんとご家族、ヘルパーさんから、学びました。
相手からの愛情をしっかり感じ取り、そして、自分の精一杯で答えれる人になりたいと思いました。

投稿:亜由未さんの笑顔が素敵です☆ 2017年09月28日(木曜日) 14時00分

「家族でも介護には向き不向きというものがあると思う。介護を当然のようにやれる、あゆみさんのご両親のような人がいれば、できない人もいる。」

➡ 出来ないのか、それともやりたくない、やろうとしないのか? 


「同様に、家族でなくても障害をもつ人々をやさしく介護できる人も存在する。」

➡ それは、何故なのか? 介護に向いているからなのだろうか? 出来る事なら介護の仕事なんてやりたくはない、自分達は安い給与でサービス労働までして、趣味や家族団らんなどの時間まで我慢して働いているのに・・・、だけどやるからに人として適当なことはできない、きちんと責任感をもってやらないといけないと思ったりして頑張ってやっている介護者だっているだろうと思えます。 


社会の人たちが、この番組から、そういった部分を汲み取ってもらえることが一番の願いだ。

ほんとうに難しい問題だと思います。

投稿:おっちゃん 2017年09月27日(水曜日) 19時54分

あゆみさんに自宅での介護を望む、親心はわかります。けれども、双子の娘さんの進路を阻む言動は娘さんに気の毒です。我が家にも、医学部に進学した息子がいます。医学部の勉強は、苛酷です。実習、学科共に試験が多く学生の中には、メンタルを病む人もいます。勉強中は勉強に集中させてあげてください。我慢強い娘さんなので、母親に感情をぶつけていないですが、心中を察してください。切磋琢磨しながら、人生を選ぶ自由は大切です。あゆみさんが、施設に入る選択はありませんか?専門家によるケアができ、あゆみさんの人生も広がります。

投稿:かあさん 2017年09月27日(水曜日) 07時37分

ご両親は、人として、無条件に、ずっと、あゆみさんに尽くし、幸せな暮らしを願って、行動している姿が、素晴らしいです。やさしいきれいな心で接しいるからあゆみさんに、伝わっているんです!ご両親は信頼されているんですね!強い絆を人生の中で経験出来る人はあまりいないです。冷たい国!相変わらずの税金の無駄遣い!ばかりしている!国は、
ご両親にゆとり介護とご両親の為のケアを提供して欲しい。絶対に必要です。最新テクノロジーで人工知能介護ロボットを家族が見守りながらロボット活用して行くシステムがあれば、介護も楽になります。妹さんは、自身の心に正直に生きて欲しいです。あゆみさんには、いつでもやさしい気持ちで接して欲しいです。

投稿:アツシユ 2017年09月25日(月曜日) 13時39分

私にも、癲癇という障害をもつ兄がいる。いったんは、兄のことを見るのだという思いもあり、就職していた東京を引き上げ九州にもどったこともあった。しかし、地元での生活は自分にあわなかったこともあり、その反動からか、はるか遠くニューヨークへ移住してしまった。

あゆみさんの双子の妹のゆりかさんが、「家族なのだから障害をもつ家族を介護するのが当たり前だと思われるような社会になると困る」という話は、私も彼女と同様にいつも思ってきたことだ。

兄を施設の人たちにまかせて、ニューヨークで普通に暮らしていることは、自分が本来やるべきことから逃げ悪者になっているようで、罪悪感がわいてくる。

ゆりかさんが、母親のちえさんからの電話で「本当は近くにいてほしい」と、本心を告げられたとき、ゆりかさんの気持ちを思うと自分と重なって一番つらかった。ちえさんは、自分にもどうにもならないこれからの介護の不安をゆりかさんに、ぶつけてしまったのだろうけど。

家族でも介護には向き不向きというものがあると思う。介護を当然のようにやれる、あゆみさんのご両親のような人がいれば、できない人もいる。同様に、家族でなくても障害をもつ人々をやさしく介護できる人も存在する。

社会の人たちが、この番組から、そういった部分を汲み取ってもらえることが一番の願いだ。なんて、兄を人任せにしている私が、偉そうに言えたものではないな。

投稿:アル 2017年09月25日(月曜日) 09時55分

お母さんが一番大変ですね。
大腸の手術をされているんですね。
介護が忙しくて自分の治療が二の次になってしまったのですね。
お母さんと長女さんの病気が良くなって毎日が楽になるのを祈っています。

投稿:通行人 2017年09月24日(日曜日) 23時31分

僕はやまゆりえん殺人事件は、とっても悲しいです、障害者は何も悪くないのに殺されてしまったのが悲しいです、僕は同じ障害者があるので、わかります。僕はこのやまゆりえん殺人事件は許しません。障害者は頑張って生きているのに不幸とかはあり得ません、僕はいつもぞわぞわしてます、怖くて寝れません。

投稿:よーちゃんさん 2017年09月24日(日曜日) 22時00分

番組を見始めた時は、失礼なのですが、不愉快に感じました。
あゆみさんの外見が美しくなかったからです。
でも、番組を見ている内に、あゆみちゃんが、笑うと、一緒に
私も嬉しく思い、番組が終わる頃には、もっと笑って欲しい、
可愛い、と思っている自分がいました。
私自身、精神障害なのに、障害者を差別するのが、
分かりました。多分、近くに身体障害者がいないせいです。
近くに、重度障害者がいなければ、番組はじめで、
疎ましく思い、そう思っていながら、
一時間で、感情移入もするのだと分かりました。
重度障害者の価値は、その笑顔だと思いました。


投稿:ゆお 2017年07月28日(金曜日) 22時11分

 昨夜、NHKで再放送を見ました、私には自閉症で知的障害がある息子(二男)を親たちが誘致の運動をして立ち上げた入所施設に預けております、ちなみに長男は生後先天性の心臓病を持っていたのですが当時田舎の産院兼内科で主治医が一人という環境の為、1か月健診で「チアノ-ゼがある。」という主治医の名刺の裏に書いた紹介状を持ち東京の国立小児病院に飛んで行きましたが、生後44日で亡くなりました。亜由未ちゃんのように
 仮に心臓の手術を受けられてたとして、同じような脳性まひが起こらなかった可能性は排除出来ません。
子供の障害や病気に親は、「自分の命に代えても良くしてあげたい。」と思い、見返りを求めるものではありません。
 日々心をこめて介助するなかの、ほんの些細な子供の喜びの表現
があるがゆえに生きていられる気がしております、私・親も60代後半になりつつあります、亜由未さんの御母さんが「せめて東京か埼玉に住んで。」と、次女の方に電話をしている事が人ごとには思えませんでした。

投稿:ゆ-みんのママ 2017年07月23日(日曜日) 08時30分

放送を拝見しました。ご両親の大変な介護の日常を
取材されているのに、どこかのんびりしたお兄さんの
様子が介護というものは思っていたよりも特別なものでは
ないのかな?と思わせてくれました。
あゆみさんが、お兄さんのあげるご飯を
食べてくれない場面は、思わず笑ってしまいました。
また、お母さまが、お嬢さんに電話で話している様子は
胸が熱くなりました。
家族にとって、障がい者の存在は重いけれど、
それぞれが大切に想う気持ちが痛いほど伝わりました。

やまゆり園の事件では、被害者の様子が全くわからず、
どのような方々に対して加害者があのような発言をしたのか
よくわかりませんでした。
しかし、この番組を見て、障がい者に価値がないという考えは
やはり間違っていると確信することができました。
というよりも、同じ人間なのですから当たり前です。

障がい者の日常は世間から隔離されすぎていて、
そのことが差別につながるような気がします。

ご家族の不安が少しでも解消される社会を
望みます。

投稿:のぞみ 2017年07月23日(日曜日) 01時38分