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「精神疾患の女性の妊娠・出産を支える ~てんかんがあっても"あきらめない"~」

2015年06月15日(月)

今月、日本精神神経学会学術総会を取材しました。精神医学が私たちの生活や社会にどのように関わっていったらいいのか、3日間に渡って実に様々なテーマが取り上げられ、活発な議論が繰り広げられました。

 

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今回で111回という歴史のある総会。「うつ病治療」や「スティグマへの向き合い方」、「認知症の人への地域づくり(オレンジプラン)」を検証するだけでなく、「犯罪被害者支援」や「脳科学から見た児童虐待」といったテーマも設定されました。

 

 

 

私が注目したシンポジウムは「精神疾患をもつ女性の妊娠と出産の基礎知識」。“女性の”と大きく掲げて行われたセッションは、学会でこれまでにほとんどなかったそうです。「周産期うつ病」「統合失調症の人の恋愛・結婚・子育て支援」という、女性特有のイベントにどう向き合い、寄り添い、支援していくのか発表があり、議論が行われました。

 

このシンポジウムの中で、「てんかんのある女性の妊娠・出産を支えるには?」というテーマで講演がありました。100人に1人いる、てんかんの患者さん。これまでもブログや番組で取り上げたことがあり、私自身、関心の高いテーマでした。

 

 

<ヤマケンボイス>

「もっと“私”を診てほしい ~てんかん勉強会に参加して~」

子どものてんかん | ヤマケンボイス | 

「映像の力 ~正しく知る“てんかん発作”~」 

 

 

 

演者は、3年前の番組にも出演していただいた、てんかん専門医の渡辺雅子(国立精神神経医療研究センター病院)さん。「てんかんがあっても、子どもを持って大丈夫なのだろうか」という声に、長年耳を傾けてきたそうです。

 

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都内でクリニックも開設している渡辺さん。患者さんを診ながら、「てんかんを広く知ってもらい、病気を隠さなくてもいい社会に」と啓発活動にも力を入れています。会場は満員。関心の高さを感じました。

 

てんかんの患者さんは、発作をコントロールするために、薬の“適切な種類と量”を服用することが必要です。てんかんのある女性の子どもは90%以上が良好である一方、抗てんかん薬による奇形(心臓や唇などの奇形)の出現率は、一般の2~3倍というデータもあります。そのリスクのため、妊娠したてんかんのある女性のおよそ2割が、自分の判断で薬の量を減らしたり止めたりした、という報告も。渡辺さんは、「しっかり薬を飲むことも大事」だと言います。

 

服薬のメリットとデメリットがあることから、そこに専門医が入ってアドバイスすることは、てんかんのある女性にとって、必要不可欠であると思います。

専門医は、▼妊娠前から、薬の飲み方や胎児へのリスクなどを丁寧に伝え、妊娠するかどうかの判断は本人や家族にゆだねたり、▼妊娠中は薬の血中濃度をモニターして、投薬量を調節したりするなどの対応をします。そして、出産時や産後もケア。渡辺さんは、「てんかん患者さんは自己評価が低い場合が多いのですが、出産という女性の大きな営みを経験することで自分を認められるようになり、強くなった人も多くいます」と話します。

 

先月下旬、WHO(世界保健機関)は、今後の重要テーマとして「てんかん」を掲げました。てんかんは診断が簡単ではない病気であり、社会の理解もまだ十分ではありません。投薬など適切なアドバイスをするてんかん専門医の養成も急がれますが、てんかんのある女性の妊娠・出産・育児を支える仕組みを、医師や家族まかせにするのではなく社会で整えることは、多くのてんかんの患者さんの希望につながるのではないでしょうか。

 

てんかんがあっても、一人の生活者です。

初めから「できない」とあきらめることを一つでも少なくできるように。

私自身も勉強し、継続的に伝えていきたいと思っています。

 

【過去のヤマケンボイスーてんかんの記事ー】

『もっと"私"を診てほしい~てんかん勉強会に参加して~』  2013年03月22日

子どものてんかん  2013年07月08日

映像の力 ~正しく知る"てんかん発作"~ 2014年09月21日

 

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