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映像の力 ~正しく知る"てんかん発作"~

2014年09月21日(日)

てんかん治療が変わる“一歩”になるかも知れません。

日本の人口のおよそ1%、100万人いると言われている、てんかんの患者さん。主な症状は「発作」です。この発作を、「映像」という誰もが「見える形」で治療や社会の理解につなげていこうという動きが加速しようとしています。

では、「映像」を使うことの利点はどこにあるのでしょうか。

今の社会では、発作について理解しているという人は、医師を含めて少ないのが現状です。その結果、適切な治療が施されないために、発作が残ってしまった、治療の副作用に苦しむ、または発作への誤解や偏見に悩み、生活に支障が出ている患者さんも少なくありません。


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メディア向けのてんかんセミナー。会場いっぱいで、関心の高さがうかがえた。


発作は“多種多様”で、患者さん一人一人、発作の特徴が違います(一人の患者さんに現れる発作は、いつもほぼ同じです)。発作のすべてが大きな全身けいれんを起こし倒れる、ということは決してなく、発作の種類の一部に過ぎません。患者さん自身も周りも、てんかん発作とは思わずに見過ごされている小さな発作も多いのです。

そこで、「映像の力」を使って、医師がその患者さんの発作はどういったタイプなのかを見て知ることが、治療の大きな手助けとなるのです。


でも、発作はいつ起こるかわかりません。そこで、てんかんの専門施設の中には、患者さんに数日間入院してもらい、連続で長時間撮影しながら脳波も記録するという「ビデオ脳波モニタリング」を行っているところがあります。映像と脳波で正しく診断し、薬の種類や手術の是非を判断するなど、適切な治療に結びつけるのです。てんかん専門医の言葉を借りると、“発作診ずして、てんかん診るな”。発作の正しい診断によって、患者さんのQOL(生活の質)が上がり、医師も本人も家族も前向きに治療に取り組めるようになるはずです。


しかし、そのような施設が全国各地にあるわけではありません。さらに、個人情報保護の問題があり、撮影した映像を他の医師や患者さん、または一般の人たちに見せることが難しいそうです。もっと多くの人にてんかん発作について知ってもらいたい、その思いで、このほど、てんかん専門医の監修のもと、てんかん発作を“見て”学べるDVDが作成されました。

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DVDの静止画。実際の患者さんではなく、俳優に専門医が発作の動きを指導し、忠実に再現。個人情報保護の観点や、「演技」と認識した方が見やすいことが理由とのこと。


このDVDがあれば、全国どこの医師でも映像で学ぶことができます。各地にいるてんかんの患者さんに、あまねく発作が正しく診断されるようになれば、日本のてんかん治療の大きな一歩になります。

さらに、「患者さんが自分の発作を確認できるメリットは限りなく大きい」と、DVDを監修した東北大学大学院の中里信和教授は話します。


20140921_yamaken004.jpg東北大学病院てんかん科科長も務める中里教授。「自分の障害を知らずにいるのは、自分の人生設計ができないことにつながる」と強調する


「てんかんも他の障害と同様、リハビリテーションという概念が必要です。てんかんがあることによって、医学的にも社会的にも様々なハンディキャップがあるのですが、これを克服して患者さんにとってベストな人生を歩めることが理想です。てんかんの場合の最大の問題は、患者さんがハンディキャップの第一となる、自分の障害(てんかん発作)そのものに気付いていない点です。自分のハンディキャップを認識することは、リハビリテーションの第一歩になります」

「そこで、映像で自分の発作のタイプを知ることにより、「自分は運転をしない方がいい」「列車のホームの立ち方」「熱湯や熱い油をつかう調理を避ける」など、自分の安全管理につなげることができます。そして、就職や進学を考える際に、職場や学校の方々にDVDを見せ、発作時の対応について説明することが可能です。大抵の場合「発作があっても心配ありません、安心して見守って下さい」で良いのです。他にも、「発作があったことを私は気付かないので教えて下さい」と話して、職場の方を安心させることができます。」


このDVD、まずは医師など医療関係者に配布。その後、多くの人に知ってもらうために、患者さんや家族、学校や会社などに広げていきたいと、中里教授は話しています。


「百聞は一見に如かず」
てんかん発作を、社会全体が正しく知るために――。

 

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