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地域づくり情報局

土佐の森から~未来へのたより

高知県いの町のNPO法人「土佐の森・救援隊」中嶋健造さんたちによる「自伐型林業」での山林・中山間地再生への挑戦。

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2016年05月13日 (金)

自伐型の現場を体験して驚き、自伐林家に接してさらに驚く

行政や林業界の反応の前に、自伐型林業が「おもしろい!」と感じ、普及活動を始めた理由を、先に説明したい。

間伐した材のほぼすべてを出荷する森林ボランティア活動に継続して参加しているうちに、伐倒・造材・搬出が少しずつできるようになり「こういう林業であれば、自分でもできるのではないか」と思うようになってきたのだが、もう一つ気になることがあった。活動毎に出荷している材が結構な収入になっているのではないかと感じ始めたことである。

これは平成15年前後のことで、当時は「林業は儲からない」ということから山林放置の問題が深刻になっていたころで、森林組合が時々おこなう間伐も補助金頼みの「伐り捨て間伐」がほとんどで、「販売しても赤字になるから搬出しない」が一般化していた。故に当初は、私も材はお金にならないのだろうと思いながら参加していた。それが参加しているうちに、ボランティアがおこなう呑気な間伐・搬出活動でも収入になっていることに気付くのだが、これには少々驚いた。それどころか(前回も書いたが)、参加者にはもれなく地域通貨券:モリ券(千円相当)が配られ、多いときには数枚になり、懇親会もかなり豪勢なのだ。「いったいどこからそんな資金が生まれているのだ?」となる。どう考えても出荷している原木の収益以外には考えられない。当時は伐り捨て間伐が一般的なので、山林所有者(自治体や個人)は、「伐り捨てた材は自由にしてもらってよい。搬出してもらうと山の掃除になってありがたい」という感じで無償提供してくれていた。

興味は、その収益額である。当時は初心者含めて10人ぐらいの作業で、1泊2日(初日の午後~2日目の午前中)の実質1日の作業。チェーンソーで伐倒・造材後、林内作業車で搬出し、土場から2トンユニック車で原木市場まで運ぶという工程。直接経費はチェーンソーと林内作業車・2㌧トラックの燃料代で約2~3千円程度。出荷量は少ない場合約3m3、多いときには2回運び約6m3程度だった。この頃は高知西部での作業が多かったので、ヒノキの山へ入ることが多く、当時のヒノキの中目材が平均2~2.5万円だったので、6万円~15万円くらいだった。経費と手数料引いて収益は5~14万円程度ということになる。この10人程度のボランティア作業をプロの自伐林家に置き換えてみると約3人だろう。1人あたりの日当に換算すると1.5万円~4万円強となる。「なに!」である。単純に平均3万円として20日間働けば月収60万円となる。材質が悪く、この半分でも十分である。「林業は儲かるやないか!」と驚いたのである。



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軽架線による搬出状況

これは一般世間の林業観と真逆ゆえ、ちょっと俄かには信じられず、実際の自伐林家を調べてみることにした。そして自伐林家を紹介してもらい、さらに驚くことになった。最初に会った自伐林家は、勤め仕事を主にしながら休日に自伐林業する「サラリーマン林家」だと紹介されたため、呑気にやっているのかと思いきや相当本気で実施している感じだった。何故か、それは収入がかなりあるということと、山が良くなるという実感があるためだった。当時で約50年生のスギの山を30ha弱所有され、年間間伐材約200m3出荷し、収入は何と副業で300万円前後である。使っている機械は我々と全く同じ、林内作業車と2トンユニック車である。故にコストがかかってないのは容易に想像がついた。またプロ林家の機械もこれでよいのだと、収入もそうだが林業システムにも驚いた次第である。別れ際に「林業とはこういうものよ、自らやれば赤字になどなるはずがないし、十分な収入も得られる。だからやりゆうがよ」とニヤリと笑った。「なるほど」こちらもニヤリである。そして次に、今もお世話になっている徳島県の専業自伐林家の橋本さんを知ることになり、さらに驚くのである。

橋本さんは100haの山林を所有され、息子さんと奥さんと3人で施業されており、高密度路網を敷設し、1~2割間伐を10年単位に繰り返す、長伐期択伐施業を展開されていた。息子さん世帯と2世帯が、専業自伐林家として自立し、悠々と余裕のある生活をされていたのである。息子さん二人を大学まで出し、その上に昭和の終わりに山を相続することになり、数千万に及ぶ相続税(分割で)を払い続けているのである。それも皆伐は一切せずに、間伐の繰り返しによりである。そしてその息子さんが林業を喜んで、かつ誇りを持って継いでいるのである。さらに驚いたのは、山の状態である。林業に関わり始めて良好な森林はよく見学していたのだが、それらの森林とはレベルの違う素晴らしい針広混交林が広がっていたのである。生業・自営業として成立し、森林環境保全を両立させているのである。「これは理想的林業ではないか!」「自伐林業は凄い!」と驚いてしまったのである。

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橋本山混交林

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橋本山


この驚きの経験が、その後の自伐型林業展開や普及活動に大きな推進力になったのはまぎれもない事実である。そして自伐を推進し始めて、また違う驚きを体験してしまうが、それはまた次回。

土佐の森から~未来へのたより

中嶋健造さん(NPO法人 土佐の森・救援隊 理事長)

IT、自然環境コンサルタント会社等を経て、2003年、NPO法人「土佐の森・救援隊」設立に参画。現在、理事長。地域に根ざした環境共生型の林業は、山の所有者が自分で伐採する”自伐”であると確信し、「林業+バイオマス利用+地域通貨」を組み合わせた「土佐の森方式」を確立。森林・林業の再生、中山間地域の再生、地域への人口還流、地方創生、森林環境の保全・再生等のために、自伐型林業の全国普及にまい進している。

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