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2016年05月09日 (月)

"誇り"に思えるもの、見つけてみませんか?【都市計画プランナー・西郷真理子さん】

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シャッター通りと化し、人影もまばらな商店街…。全国各地で、そんな商店街の再生を手掛け、大きな成果を上げてきた西郷真理子さん。その成功の秘訣をうかがってみると―。そこには、単にヒット商品やムーブメントを起こすということではない、人としての暮らしや生き方を見つめ直す大切な“気付き“があふれていました。いま東日本大震災の被災地でも、まちの再生事業に取り組む西郷さん。どんな思いを胸に秘め、実践しているのでしょうか?

 

-- 西郷さんが商店街の再生で最も大事にしているコンセプトが、“ライフスタイルのブランド化“ですね。

西郷氏  私たちは、地域に住んでいる人たちが自分たちのまちを誇りに思う、その誇りに思ったことを大切にしながらまちづくりをするということが、いちばん大事だと思っています。そこでまず向き合うことになるのが、「自分たちが誇りに思うものとは何だろう?」ということです。そう問われると、たとえば名所・旧跡があるとか、そういうことが思い浮かぶかもしれません。けれども、私たちが基本になると思っているのは、“自分たちの暮らし方“というようなところです。そういったところに誇りを持つのが基本じゃないかと思っているわけです。そこで“ライフスタイルのブランド化“ということを、打ち出しているわけです。

自分たちの暮らしに誇りを持つということは、自分たちが食べているもの、使ったりしているものが、実は魅力的なものだと気付いていくことにつながるわけです。魅力的なものであれば、まちの外に情報発信してみようということにつながる。そうすることによって、それを買いたいとか、そこに行って食べてみたいとか、外からそういう人たちが集まってきて、まちの産業を生み出していくことへとつながっていく。産業が生み出されれば、そこに雇用がうまれ、生活のしやすさも出てきて…と、良い循環がどんどん始まっていくわけです。

そのわかりやすい説明の例として、フランスをあげることができます。フランスは農業国です。ブドウをたくさん作っています。でもブドウを輸出するのではなく、ワインを輸出しています。さらに言うと、それは単にワインを輸出しているのではなく、ワインを飲む“ライフスタイル“を輸出しているのです。ワインというものを単に売るということではなくて、ワインを飲む暮らし方を提案しているというわけですね。その暮らし方というのは、一緒にチーズやフランスパンを食べるということと共に、フランスの伝統文化は実に素晴らしいですから、そういうものを皆さん方も体験して下さい、買って下さい、ということを提案しているわけなのですね。

翻って、日本を見てみるとどうでしょうか?例えばおいしい日本酒があったとします。「これはおいしいですよ」とアピールして売ろうとするわけですけれども、その日本酒を飲むライフスタイル、私たちのライフスタイルまでを提案しようというところまでは、なかなか至っていません。まだまだ、単品だけを売ろうとするところにとどまっています。日本酒を飲もうというときには、それに良く合うおいしい日本食があるわけです。おいしい日本食というのは、その地域で採れた最良の自然素材が生かされたものであって、特に日本食というのはフランス料理とは違って、素材が上手に生かされている本当に素晴らしい日本の文化だと思いますので、そういうものを含めて誇りにできるわけです。そうやって日本酒を飲むライフスタイルをブランド化して、そのライフスタイルを外に向かって提案していくことが大切なのだと思います。

では、そのライフスタイルをぜひ体験してみたいと、外から人々がやって来るようになったとします。外から来る人たちは、まずどこに行くか。そのライフスタイルを代表する“まち“に、まずは行ってみようとなるわけです。そのまちでいろいろな情報を仕入れ、泊まったり、ご飯を食べたりして、そのまちの魅力を味わってから、じゃあその先に行ってみようと。例えばフランスだったら、そのまちの郊外にあるワインの蔵元とか醸造元に行こうとかなるわけですね。

日本に限らず世界でも19世紀までにできたまちというのは、自然・芸術・文化をとても大切にしてつくられてきています。行ってみると、非常に快適であり感動するのですよ。そういうまちが多いわけなんですね。そういうまちには、その地域の良いものがみんな集まっているわけです。地域の良いものがみんな集まっており、その良さが凝縮されていて、それが体験できるようなっている。言ってみればそのまちというのは地域全体のショーケースみたいなものですから、まずはそのまちに行って、例えばおいしいワインを飲んで、それからそのワインを作っているところに行って、そこでまたワインを飲みながらレストランでご飯を食べたり―、ということをするわけです。

またフランスの例になりますが、フランスにはミシュランという、1つ星とか2つ星とか、みなさんが大騒ぎしているあのミシュランですね、あの星が付いているお店が、相当数、地方にあります。小さなまちの地元の人たちが行く小さなレストランが、実は2つ星であったりするのですね。そして、わざわざパリからそのお店まで食べに行くと。それで、ご飯を食べたら泊まりたくもなるからということで、オーベルジュといわれるスタイルで、お店には宿泊施設も整っているわけですね。そういう意味では、日本のまちの中に、そういうものが凝縮されているものが必要なのではないかと思います。

 

-- これまで西郷さんが関わってきたまちを例にあげていただくと?

西郷氏  例えば被災地でいうと、石巻でお手伝いをしています。石巻は海産物がいろいろ採れて、おいしいものが沢山あります。そのひとつが、タラコ。全国一位の出荷だった時もあるのですが、どこに出荷しているかというと、九州の博多に出荷しているわけです。博多明太子の原材料ですね。それで、もともとおいしいタラコなのだけれども、出荷する時のコストは安い。一方、博多で明太子に加工され、博多明太子へとブランド化されると、価格はもう5倍とかになるわけです。石巻でも、タラコをそのまま出荷することに加え、高く売るということができれば、その地域を潤すことにつなげていけるのです。

海外では、特にヨーロッパやアメリカでは、原価がいくらだからいくらで売るというかたちではなく、「これにはこれだけの価値があるのだから、その価値であなたは買いなさい」というように、非常に高い価格を設定しています。それは高い価格に見合うものがあるという自信があるからであり、その自信が地域を潤しているのです。日本の場合はそうではなくて、「いくらかかったから、それにちょっと経費を乗せてみましょう」というようなかたちで価格が設定されるものだから、価格競争の中で地方の良いものがどんどん負けてしまっています。石巻の話に戻ると、博多明太子という名前があると、とてもおいしそう、だから博多にも行ってみたい、と思うわけですね。ですから石巻も、食べてみたい、行ってみたい、体験してみたいというものを、地元の人々のライフスタイルの中から見つけてブランド化し、情報を発信していくことが大切だと思います。

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では、石巻で何がブランド化できるのかを考えると―。江戸時代、松尾芭蕉が石巻に来て、これほど魅力的で素敵なまちがあったのかというようなことを言っているのですね。とても街として賑わっていたところなのです。町家が綺麗に並んでいて、船も行き交って、たいへん賑わっていたと。そういう芭蕉を感嘆させる姿がかつての石巻にはあったのですが、いまはそういうものがなくなってしまった。そういう意味では、そんなまちをもう一度つくっていくことが必要です。そのまちは、自分たちの思い出になるような情景をベースにしながら、ヒューマンなスケールで、昔の町並みに依拠してもう一度再現するような感じでデザインしていく。そうすることで、快適で良いまちができていくし、どうしたらライフスタイルのブランド化へとつなげていけるのか、デザインやルールをみんなで確認しながらやっていこう、といった広がりにもつながっていくのです。


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いま石巻では、町家の仕組みを上手に活かしながら、再開発という仕組みを使って住宅を作っています。災難公営住宅と分譲住宅があるのですが、2階から上が住宅になっていて、その2階を含めて随所に、みんなで楽しく会話できるようなコミュニケーションのできる場所があるわけです。1階はお店にしようということなので、その1階のお店はライフスタイルショップということで、地域の良いものが体験できるような場所になっています。地域の様々なお店、海産物とか農家の方が作っているお米とかですね、そういうものがそこで食べられる、買える、体験できるというゾーンを作り、地域のあらゆる良いものを、そこで体験できるようにしていくということです。

 

-- 自分たちが誇りに思えること、大切に思えることを、再発見して育てていくと。

西郷氏  そうですね。例えば、自分たちが、これはおいしいと思っていただいている食べ物。日本は、四季折々、非常に自然が豊かで、人々はその時々のおいしいものを、自分たちでお料理していただいているわけです。その一方で、日常的に食べているものですから、おいしいけれどもそんなに深くは考えず、ただ昔から食べているからという受け止めにとどまっていたりします。それが実は、本物としての価値が非常にあって、価値があるからちゃんと売れると。高く売れるという話になると、これはやっぱり自分たちの誇りに思っているものは、本当にすごいものだったんだ、という自慢につながっていきます。こうして改めて実感し自信につなげていくことが大切で、そのことを通じてはじめて、ただ商品化してそれを売るということだけにとどまるのではなく、商品を通じて自分たちの生活の豊かさを体験してもらおうという、その先の話までつなげていくことができるのです。

よく、本物のわかる人、わからない人って言い方をしますけれど、教育を受けたりしたから本物がわかるということではないと思います。常日頃から本物に接しているから、本物がわかる人が育っているということではないでしょうか。そして、自分たちのやってきたことが一級である、その生活スタイルが実は一級である、本物であるということが、外の人たちから認められることによって、自信にもつながっていくわけです。外から来た人たちが、そういうふうに思ってくれて、「これ買って帰るわよ」と言ってくれる。そうやって売れることで、地域の経済が潤う。そうすると、これまでは「自分たちのまちはこれからどうなるのだろう」とか「ここで生活できるのかしら」とかマイナスの要素ばかり見えていたところから、こういうことをやればきちんと評価して買っていってくれる人がいて、暮らしも成り立たせていけるということで、そのまちに根付いて生活をする人がどんどん増えていくということですね。

 

-- それぞれの土地には、それぞれの本物がある。

西郷氏  例えば、器もそうですよね。器。東北ですと漆が中心になると思いますが、その漆の器がこれまた一級であると。本物と誇れる器なわけです。その本物を大切に使っていて、しかも丁寧に大切に使っているということは、消費文化、使い捨て文化ではない素晴らしい文化という一面をも持っているということでもあるわけです。また、とある浜でその浜の人たちが、とれたての海産物をおいしく食べているというのも、やはりひとつの本物であり、売りのひとつでもありますね。なおかつその季節の良いものをおいしく食べるということは、健康にものすごくいいといえますしね。そうしたことを、どんどんプロモーションといいますか、宣伝していって、みんなに来てもらうというのが、ひとつありますよね。それが日本の各地で、それぞれのまちのいろいろな素材をそのまま使って、石巻だったら石巻らしい、気仙沼だったら気仙沼らしい、そのまちならではの雰囲気を醸しだしていくということが大事ですよね。

 

-- 西郷さんにも出演いただいた番組のVTR(異業種が連携して石巻の「うまいもの」を発信)では、海草を使った新たな商品開発について紹介しましたが、取り組みはその後も順調に進んでいるそうです。


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西郷氏  あの番組では、「うまいもの発信協議会」の人たちが、すごく良い取り組みだと評価してくれていましたね。そういう専門家の人たちからの評価が自信につながり、今もものすごく頑張っていらっしゃいますよね。取組まれている方々は、もともと生産者で小売業者ではないのですよね。大量に卸すということはしていても、ものを売るという経験はないのです。いまは自分たちでものを売ってみて、実際に食べてくれている人達たちからどんどん意見をもらってやっていこうと。そのことで、自分たちの作ったものが、5倍とか10倍の値段で売れるようになっていく。地元にもともとあったもの、受け継がれてきた智恵や伝統を生かすことが、豊かさにもつながり始めているわけですね。そして、そこに行かないと食べられないものだったりするわけですから、外から人が来てくれるということで、賑わいにもつながっているわけですね。

また、自分たちの日常生活の暮らしが本物だと、自分たちが自覚していくことによって、自分たちの価値観が、より新しく、より創造的に、クリエイティブになっていくのです。例えば、石巻では、カツオやサンマといった有名なお魚の他にも、要するに雑魚と言われている小さくて目立たない魚だけれども、実は獲りたてを食べるとすごくおいしいものがあると。小さなお魚って加工するのが大変で、なかなか流通に乗せにくく販売に向かないと思うのですよ。だから自分たちだけで食べていて、あとは捨てちゃうということになっていたと思うのですけれども、やっぱり日頃から魚を獲っている漁師の人たちは魚の本物のおいしさがわかっているわけです。その人たちが日常的に食べているものが、やっぱり一番のものだと思うのですね。だから、流通していないということであれば、なおさらそれを利用して、その土地まで来てもらって食べてもらうということをやれば、地域が潤うわけですよ。来る人にとっても、実際にその場に来て体験しながら食べるというのは、とてもいいことですし。そういうものをどんどん増やしてくということじゃないですかね。都会の人たちと漁師の人たちとのある種のコミュニケーションですよね。

 

-- その土地でしか味わえない“幻の海鮮丼“とか?

西郷氏  ああ、いいじゃないですか!幻の海鮮丼。日本では、まだそういうことができていないと言われていて、多量に獲っても鮮魚として流通するのは1/3ぐらいだと聞いています。あと1/3ぐらいは冷凍して売るらしいのですけれども、残りの1/3ぐらいは捨てているという話でしたから。加工して付加価値を与えられる技術をもっと整えていくとか、獲れたてを来てもらって食べてもらうとか、そういうことをどんどんやっていく知恵ですよね。

実はかつては、そういう知恵の生かし方があったのです。それは、大店(おおだな)です。大店というのは、製造もして、卸しもして、小売もしていたのですね。どんなやり方をしていたかというと、例えば地域の農家の人に種を売って作物を育ててもらい、とれたものはどういうところに売ったらいいかをお世話して売った。漆器でしたら、加工とデザインを職人さんにやってもらって、作ってもらったものの販路を確保するというふうにして、まあいってみればプロデュースをしていたわけですね。そして、そうしたその地域の良いものをプロデュースする大店こそが、そのまちのメインストリートに集まっているお店だったんですよ。ということは、その地域の良いものが全部そこに集まっていて、そのプロデュースをする人たちの能力があればある程、地域が潤うという仕組みになっていたわけですね。

 

-- そうしたことに地域が取り組んでいくためには、外からの供給に頼るシステムではなく、自立した循環システムを地域で確立していくことも重要になってきますね。

西郷氏  まさにそれは、再生エネルギーを中心にした、エネルギー循環システムが必要になってくるということですね。エネルギーも多量大規模に作って、その大規模に作ったところから送電していくというこれまでのかたちですと、例えば電気の場合だと、相当な送電ロスがあるわけです。だからその地域でエネルギーを作ると。しかもそれが再生エネルギーということであれば、地域での循環ができますよね。私たちのエネルギー・マネージメントと、私は言っているのですけれども、ぜひ取り組んでいくべきだと思いますし、実際にそういう動きも起き始めていますよね。

エネルギーを作るのにはいくつか方法がありますけれども、ひとつは太陽光、もうひとつは風力、それから木質系のバイオマス。それは全部、海とか山とか、そういうところによるものですよ。特に木質バイオマスについては、木質チップを作って利用する事例がだんだん出てきていますが、それには森林がきちんと整備されていないと非常にコストがかかるそうです。また森林は「豊かな森林がいつかは海を作る」と言われるように海を豊かにする源でもあるわけですし、管理されないまま荒れてしまうと、森林も海も両方ともが荒れてしまうということですよね。これまで日本人は、自分たちの手で自然を上手に管理するといいますか、自然と上手に共生してきたわけです。そういうことをきちんとやっていけば、エネルギーの問題も自然と上手に管理できるようになってくるということなので、ぜひエネルギーのマネージメントということにも、地域で取り組んでいきましょうということですね。

また、人間というのは、やはり自然の中にいると癒されて、自ずとひとりでいても孤独はあまり感じないですし、同時に自然の中だとコミュニケーションがよくできてくるのですよ。要するに、人間関係が良好になるのですよね。そういう意味では、農業などをやりながら、そこでそれが福祉とつながるなんてこともあると思います。実は人間には、健康寿命と平均寿命があって、平均寿命と健康寿命の間には10年の開きがあって、その10年間は不健康であるということなのだそうです。不健康であることは本人にとっていいことではないですし、その不健康なところで社会保障のお金がかかっているわけですよ。ですからその不健康を減らしていって、健康寿命と平均寿命が一緒になれば、それはもう本人にとってもいいし、社会にとってもすごくいい訳です。それにはやはり、地域で自然と共生しながらやってくということではないかと思います。

 

-- それは、地域のコミュニティの構築ということにもつながる話ですね。

西郷氏  そうそう。自分たちの畑で採ったものを、みんなで食べるとか。あるいは魚もね、魚はちょっとそう簡単には獲れないでしょうけれども、浜辺に行って少し自分たちも手伝って、手伝った一部としてそのお魚をもらってきて食べるとかね。それから例えば、ムール貝は殻から身を取るのがすごく大変なんで捨てているということでしたが、それをひきこもり状態の人たちに手伝ってもらって、ちゃんと食べられるようにしていくとか。だいたい、誰だって歳をとっていったら、以前のように健康ではなくなったり、身体的に少し不自由になってきたりするわけなんだけれども、そういう中でも自分がやっていることが相手に感謝される。あるいはそういう相手に何かやってあげられることで相手に感謝される。そういうことができてくると、みんな、それがより生きがいになるわけですね。それは、効率とかそういうものとは違って、お互いにお互いを認め合うということであり、合理性などとは違う、新しいものを生み出していくことになり、結果として健康で長生きしていけるということにつながってくるのではないでしょうか。今までとはちょっと違うプロセス、自然の中でコミュニケーションをしながら、その自然の恵みを自分達が体験し、共有していくということではないかと思うのです。


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そしてさらに、自分たちが誇りに思っているものがあるということが、繋がりを強くしていきますよね。その誇りは、自分だけが思っているのではなくて、地域全体が誇りに思っているわけですから、そういうことを通じながらつながりがまたより強化されていきますよね。そうすると、人はつながることで安心ができ、自信を取り戻して、精神的にも安定してくるのですよね。それは、ネットでつながるということとはまた違う、物理的にお互いに顔を見るとか、手を握り合うとか、抱き合うということによるつながりですね。おいしいものを親しい人と一緒に食べるということほど、幸せなものはないとか。ネットは情報を得るという点では、素晴らしいものがあると思います。瞬時で様々な情報が手に入る訳ですから。けれども人のつながりということでは、やはり基本的なつながりは、同じ空間を共有して持つということだと思うのですよね。その同じ空間というものが、快適な空間であればあるほど、人と人とのつながりは、より良いつながりとなっていき、その人の中に蓄積されていきます。

 

-- そうした思いが、東日本大震災後、多くの被災地の方々と触れ合う中でさらに強まったと。

西郷氏  そうです。いま、被災地が置かれている状況というのは、日本の他のまちが10年とか20年とか先に経験するであろう厳しい現実を、一瞬にして体験してしまったということだと思うのです。だからその被災地の問題が解決できないで、他の地域が抱える問題を解決できるとは思わないのですよ。そういう意味では、被災地は、結果として課題の解決を見出していくことの最先端の地になったということです。ということは、被災地の人たちが、こういう方向でいこうとか、ああいう方向でいこうとか、知恵と力を尽くして取組んでいることは、まさに最先端のモデルなわけです。その最先端の部分をみなさんと確認しながら進めていき、解決へとつなげていくことです。

その解決の手法が良ければ、それは全国の他のまちでも使えるということです。被災地のみなさんの取り組みがより一歩進んだものとなって、他の地域の方々に対して、「私たちの歩いてきた道を見てください」というような自信につながっていけば本当にいいですよね。実際、被災地では、新しい価値観がどんどん生み出されているわけです。その新しい価値観は、時代をリードする価値観であり、全国の他の地域からもその価値観に賛同し、「一緒にやっていこう!」という人が、これからもたくさん現れてくれるのではないかと思っています。

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西郷真理子さん

都市計画プランナー、株式会社まちづくりカンパニー・シープネットワーク代表取締役。2011年 カンヌ国際都市開発未来プロジェクト最優秀賞受賞。「東日本大震災復興構想会議専門委員会」委員、内閣府国家戦略室「世界で活躍し『日本』を発信する日本人」選出。大学では建築学を専攻。在学中から、京都・金沢といった住民たちがまちづくりに積極的に関わり、伝統的な町並みを作り上げている事例を研究。埼玉県川越市で蔵造りを保存する運動に関わって以降、住民主体のまちづくりを次々と手掛け、滋賀県長浜市の商店街活性化プロジェクト、香川県高松市丸亀町商店街の再開発を牽引。丸亀商店街の再開発は、20年近くにおよぶ大プロジェクトで、にぎわいの復活に加え、商店街の売り上げが3倍に伸びるなどの実績から、国内のみならず海外からも注目を集める。

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