『414』。
この数字、何だかわかりますか?
これは山形県内の高齢者施設でこれまでに発生したクラスターの件数です。県内のクラスターの総数が約1000件なので、実に4割以上が高齢者施設だったことになります。
※集計方法が変更され、令和4年7月以降は学校や飲食店などでのクラスターは集計されていない。
これまで多くの高齢者施設では、対面での面会を制限してきました。こうした施設では新型コロナ5類移行後も重症化リスクの高い人が集まっているため、マスク着用や消毒などといった対策が引き続き求められています。
その一方で、国や県は入所者と家族の面会の機会を確保することも求めています。
5類移行をきっかけに面会について県内の高齢者施設がどのような対応を取っているのか取材しました。
▼山形市にある施設は。
山形市にある特別養護老人ホーム「ながまち荘」では、デイサービスなども受け入れながら80人が入所しています。
新型コロナが5類に移行後、ある男性が入所している姉の面会に来ました。しかし、この施設では直接対面できる面会を再開していません。
そこで男性が向かったのが施設の非常口。ガラス越しでの面会です。
男性が姉に会うのは1年ぶりです。声が聞き取りづらく、触れることもできません。それでも男性は次のように話しました。
「個人的には、コロナはまだ全然落ち着いてはいないと思います。施設が気を使って対応してくれているということなのでありがたい」。
この施設ではコロナ禍以降、入所者とスタッフ以外は入居スペースへの立ち入りを制限し、面会はガラス越しかオンラインに限ってきました。しかし、令和4年4月、クラスターが発生しました。
そうしたことも踏まえ、施設で介護の責任者を務める会田るみ業務主査らスタッフは、5類移行後の対応について検討してきました。
スタッフのミーティングのなかで、会田さんは次のように話しました。
「クラスターを経験しているので慎重にならざるをえない。施設で預かっている入居者は基礎疾患もあり、これまでどおり慎重に対応していく必要があります」。
施設のスタッフにも入所者と家族を直接会わせてあげたいという思いはありましたが、当面対応を変えず継続させることを決めました。
会田さんは「世の中が緩和されればされるほど、リスクが高まるのではないかというところでの判断になります」と話しています。
▼天童市にある施設は。
一方、直接対面できる面会を再開した施設もあります。
天童市にある特別養護老人ホーム「つるかめの縁」です。およそ30人が入所し、この施設もこれまで面会はガラス越しかオンラインでした。
5類移行後、入所者の男性に会うため家族が施設を訪れました。
この施設では面会の際、
・マスク着用
・飲食禁止
・時間は10分程度
・場所はゲストルーム
・1日2組で事前予約制などのルールが決まっています。
パーテーションといった仕切りはなく、触れあうこともできます。
久々の直接の再会に入所者の男性も家族も思いがこみあげ目には涙が浮かんでいました。
面会をした男性の息子は「きょう直接話ができて元気なのがわかりますし、大変良かったです」と話していました。
直接対面できる面会を再開させたこの施設ですが、職員からは感染者が出てしまうのではないかという不安の声もあり、何度も会議を重ねたといいます。
伊藤順哉 施設長は「利用者の“心の健康”という部分を第一に考えました。やはり一番の楽しみが家族と会うこと、手と手を取り合うことじゃないかなと思って対面での面会再開を決めました。感染のリスクは一向に変わらない状況にあるので、これまでやってきた感染対策を気を抜かずにしっかりやっていきます」と話しています。
▼面会のリスクとメリットは。
直接の面会を再開させた施設も見送った施設も、直接面会を行うと感染者が出てしまうのではないかと危惧し、悩みながらの対応となっています。
面会を行うことでのリスクやメリットなどについて最前線で対応にあたってきた山形大学医学部付属病院の森兼啓太 感染制御部長に聞きました。
「入所者が新型コロナに感染するという懸念は、まだしばらくは残り続けると思います。現在コロナの流行状況は非常に落ち着いてますので、面会に来る人が感染しているいう可能性は非常に低い。しかも面会者に必ずマスクを着用させて高齢者と会わせれば、感染のリスクというのはほとんどないと思います。家族が会いに来て、高齢者自身も幸せになって、そのことで元気になる。逆に会えないと落ち込んでしまう。ますます体調も悪くなる。そういったことは十分考えられますので、面会の回数を増やしていくことが望ましいと思います」。
天童市の施設で面会を終えた入所者の男性は、自分の部屋に戻る途中、涙を流していました。それだけ、面会というのは入居者の“心の健康”にとって重要なものです。
一方、新型コロナは5類になったからといって、感染力が変わるわけではありません。
それだけに高齢者施設の面会をめぐる模索は今後も続きますし、安心して直接の面会を行っていくためには、施設が日頃から医療機関や行政などと連携しておき、入所者が感染した場合に備えることが必要だと感じました。
山形局記者 | 投稿時間:12:25