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伊勢に「宇治」があるのなんでなん?

  • 2024年04月26日

「『宇治』と言われ、イメージする場所はどこですか?」
そう聞かれると、平等院鳳凰堂などで知られる「京都」という方が多いのでは?
一方、三重県伊勢市には「宇治山田駅」や「宇治山田商業」などがありますが、京都となにか関係があるのでしょうか?
伊勢に宇治があるのはなぜなのか、調べてみました。

(津放送局 周防則志)

寄せられた疑問「なんで伊勢に宇治が」

「どうして伊勢神宮のお膝元である宇治山田駅に京都の地名の『宇治』がついているのでしょうか」

NHK津放送局の「まるみえニュースポスト」に届いた質問です。

自分も以前からなぜ宇治なんだろうと思っていたのですが、深く考えていませんでした。京都とはお隣のどうしの府県ですし、なにか関係ありそうですが…。

まずは伊勢市にある近鉄の宇治山田駅を訪ねてみました。

すると、駅だけでなく周辺にはマンションや駐車場、歯科医院までさまざまな場所に「宇治山田」の文字が。

先月、センバツに出場した「宇治山田商業」もそうですよね。

「宇治と山田が合体」した?

なぜなのか知っているか、歩いている人たちに聞いてみると…。

「え?なんで宇治か?分かんないです」

「もともと京都より先にこっちが宇治という名前だったとか?」

「たしか昔、京都の宇治市と提携があったとかじゃなかったかな」

そんな声が。

なんだか皆さんあいまいです。

聞き込みを続けていると、駅の近くで店を営む人たちからはこんな話が。

男性:「宇治と山田があって合体したっていう話は聞いたことはあるんやけど、それが本当かどうかは分からないです」

女性:「おじいさん、おばあさんなんかから“山田に行くから一緒に行く?”とか言われたことはあります」

宇治と山田が合体?
どうやらもともとこの場所にあった地名が関係していそうですが…。

伊勢にはもともと「宇治」と「山田」という地名が

となれば、伊勢市役所ならきっとわかるはず。
市の文化政策課に向かい、学芸員の山本翔麻さんに話を聞きました。

山本さんは「宇治山田」は伊勢の歴史と深い関わりがあると話します。

伊勢市文化政策課 山本翔麻 学芸員
「伊勢神宮の内宮側の鳥居前町が実は宇治という町で、外宮側の鳥居前町が山田という町なんです。明治時代以降にその2つの地名をとって『宇治山田』という地名が誕生したんですね」

山本さんはその場で昭和5年の地図「宇治山田近傍」を見せてくれました。地図には「宇治山田市」の文字が書かれています。

そして内宮の近くには「宇治」。

外宮の近くには「山田」の文字が確かにあります。

山本さんによると、宇治山田の地名に関する経緯は以下の通り。

市町村制に基づき明治22年、宇治と山田が一緒になって宇治山田町ができました。

その後、明治39年に宇治山田市に。これをもとに昭和6年には宇治山田駅が開業します。

そして昭和30年、合併に伴って宇治山田市はなくなり、今の名前、伊勢市となったのです。

伊勢の宇治は「内宮」のある場所

では、そもそも「宇治」という地名は、京都の宇治と関係しているのでしょうか。

日本中世史が専門で皇學館大学の岡野友彦教授に聞くと驚きの発言が。

皇學館大学 岡野友彦 教授
「宇治山田の宇治と京都の宇治はたまたま同じなだけで全く関係ないんですね

え?関係ないんですか。

「鎌倉時代に書かれた『伊勢二所太神宮神名秘書』という本に『宇治郷は内郷なり』という記載があります。『内』という文字は『うち』と読めますよね。そこで、伊勢神宮の内宮のある場所を「内郷(うちごう)」と読んだと。それがなまっていって「宇治郷(うじごう)」になったということなんです。ですから京都にある宇治とは全く関係がない」

なるほど。「宇治」は「内」で、伊勢神宮の内宮から来ていたんですね。

京都の宇治は皇族が関係

一方で、京都の宇治は、『古事記』や『日本書紀』に登場する「ウジノワキノイラツコ」という皇族が関係しているとのこと。京都と伊勢の宇治は別の由来だったのです。

ちなみに、「宇治」という地名はほかにも兵庫県や岡山県、鳥取県にもあって、こちらはいずれも「ウジノワキノイラツコ」が関係するそうです。

また、「山田」については、はっきりとした由来は分からないとしながらも、江戸時代の文献『勢陽五鈴遺響』に、次のように記されていると話します。

皇學館大学 岡野友彦 教授
「山を背にして、前に田んぼが広がっているというので、山と田んぼで『山田』という非常にわかりやすい説が紹介されています。ただわかりやすすぎて、ちょっとどうなのかなとも思いますが」

ということで、結論はこちら。

「宇治山田駅の『宇治』は、京都の宇治とは関係がなく、伊勢市にかつてあった地名から来ている」でした。

「宇治」や「山田」という名前は自治体名から消えてしまい、その由来を知らない人も増えてきていますが、これからも駅や学校などに残り、愛され続けてほしいなと思いました。

  • 周防 則志

    津放送局 記者

    周防 則志

    2020年入局 
    “地域の課題を解決する”報道を目指している。
    趣味は食べること。三重に赴任してから10キロ太りました。

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