徳島から世界へ!“空飛ぶクルマ”に挑む研究者に密着
- 2023年11月16日
徳島大学で”空飛ぶクルマ”の開発をする山中建二さん(48)。
”モノづくり”への熱い情熱とその魅力を若者へ伝えたいという山中さんを追いました。
"災害に役立つ"空飛ぶクルマとは?
国内外で開発が進む“空飛ぶクルマ”。新たな交通手段として注目されています。
こちらは愛媛県で飛行実験が行われた空飛ぶクルマ。自動車というより、大きなドローンのような形状となっています。国内では多くの企業がドローン技術を応用した機体を開発。
2025年大阪万博での運航や、離島や山間部を手軽に行き来することを目指しています。
一方、徳島大学の山中健二さんが開発する”空飛ぶクルマ”は、自動車に近い形を目指しています。
ふだんは通常の車と同じように一般道を走行。そしてボタンを押すとタイヤがプロペラとなり、飛行モードに切り替わります。
山中さんの空飛ぶクルマは陸上走行がメイン。広い滑走路も不要で、道路があればどこへでも行くことができます。
災害時には寸断された道路を飛び越えるなど利用の幅が広いのが特徴。
まさに“空も飛べる”自動車なんです。
しかし自動車型には開発が難しい点も。ドローン型のようにプロペラをたくさんつけられません。山中さんが開発する空飛ぶクルマには車体の底に2つ、タイヤに4つのプロペラだけ。そのため安定飛行がとても難しい。
そんな困難な挑戦に山中さんを突き動かすのは、次世代の技術者たちへ伝えたい思いがあるからです。
原点は“好きを貫く”こと
山中さんが拠点を置くのは徳島県阿南市の高校。
全国各地で広がる、高校と大学が連携した教育活動を担い、高校生の授業も受け持ちます。
そのかたわらで取り組んでいるのが、空飛ぶクルマの開発。徳島大学の学生たちと互いに意見を出し合いながら、開発を進めています。
山中さんの教育者としてのポリシーは
「好きなことを貫くこと」。
ものづくりの楽しさや好きを貫く喜びを学生たちに伝えたいと思っています。
父親が鉄工所勤めだった影響で、山中さんは小さい頃から機械いじりが何よりも楽しみでした。
山中建二さん
“古い機械が息を吹き返す”
直ったときの感動があるので機械を修理することが好きですね。
独学で培ったスキルをいかして、開発を担当するエンジニアとして働くことが夢でした。
挫折の中でも“好きを貫いた”
就職氷河期の中、工業高校を卒業して大手電機メーカーに入社。
しかし、機械のプロ集団の中では圧倒的に専門知識が足りず、やりたい仕事ができないまま、わずか1年半で退職しました。
山中建二さん
学力とか知識の差とかを見せつけられた。
そこで一念発起。自ら学費を稼ぎ、大学で一から学び直そうと決意します。
そんな厳しい状況でも山中さんは、好きを貫きました。新たに挑戦したのが、当時はまだ珍しかった電気自動車のレースです。
大手企業のチームが参戦する中、資金のない山中さんは、わずか500円で軽トラックを入手。
すべてひとりで、一から電気自動車へと“魔改造”しました。
山中建二さん
電気自動車なんか作れるわけないやんとかバカにされてたこともあったので
いやもう作ってやるって自信も欲しかったんですよね。
周囲の声をよそに、500kmを見事完走。
完走した感激から涙を流す山中さん。
好きを貫くことで自信を取り戻した山中さん。その実績が買われ、大学にも入学。その後は自分の経験を若い技術者の育成に役立てたいと、大学教員の道に進みました。
山中建二さん
自分で作ったものがこのように完成して、物になっていくんだよっていうのを経験すると、将来日本の技術者としても誇りを持った製品が作れるし、いいものができると思う
開発を進める空飛ぶクルマにも、“好きを貫く”山中さんの思いをぶつけています。
大きな壁を乗り越え 初の浮上実験へ
去年8月、大学関係者やマスコミを招いて初めての浮上実験を行いました。
しかし、車体はほとんど宙を浮きませんでした。
何度も浮上を試みましたが、最後はプロペラが破損して実験を中断。
車体の重さやプロペラの回転数を、コンピュータで十分計算したはずでしたが、 現実はうまくいきません。
この挑戦に価値はあるのか。SNSには批判の声も届きました。
闘い続けた1年 リベンジへ
それから1年。未来を背負う学生たちに何を示すべきか。
山中さんは自らに問い続けてきました。
山中建二さん
自分がやりたいことは何なのかっていうのが大事。
今は空飛ぶクルマを作っているけど、最初はいろいろと叩かれた。叩かれまくったけど、やりたいことはなんなのかって問い続けた。
そして迎えた1年越しの公開実験の日。
今回は山中さん自らが車体に乗って浮上に挑みます。
この1年間取り組んできたのが徹底した車体の軽量化。
モーターの一部を取り外したり、プロペラをより軽いものに変更したり、機体をギリギリまで軽くすることに挑みました。
果たして宙に浮くのか・・・?
これまでの最高記録30cmの浮上に成功!
たった30cmですが山中さんにとっては大きな進歩。災害時に必要となる、ほんの少しだけ空を飛ぶシチュエーションで活躍させようとしているからです。
しかし、山中さんはまだ納得いっていません。
より空中で安定した状態をキープするため、プログラム段階から見直しを行っています。
姿勢制御の役割を果たすプロペラを強化し、空中で一点に静止する”ホバリング”を目指し、現在も日々改良を重ねています。
山中さんの努力をそばで見続けてきた学生はこう語ります。
学生
僕らのプロジェクトは“山中イズム”
ものづくりの楽しみ方を受け継いでいる
好きを貫く姿を背中で見せて、次世代に伝える。
山中さんの教育者そして開発者としての挑戦は続きます。
~山中さんの空飛ぶクルマの予定~
〇2023年12月22日~25日にマリンメッセ福岡で開催される福岡モビリティショーに出展が決定。
〇2025年大阪万博への出展を目指して改良中。