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徳島・吉野川市 老舗和菓子店が151年の歴史に幕

  • 2023年11月06日

吉野川市 山川町 川田でまんじゅうなどを製造、販売していた老舗和菓子店が151年の歴史に幕を閉じました。まんじゅうの味を守り続けてきた親子の物語です。

閉店発表後 惜しむ客が殺到

吉野川市山川町の老舗和菓子店が10月31日、151年の歴史の幕を閉じました。

最終日 あいさつする吉田恵子社長

老舗和菓子店6代目 吉田恵子社長
完全閉店の形になります。
きょうは朝早くからありがとうございました。

9月末に閉店が公表されてから、
国道沿いの店の前には毎日のように行列ができました。

10月25日午前 店の前の行列

美馬市の女性
さみしいよね。だからあと2回は来ます。自分の分と、仏壇にまつるのと。

毎回、午前中にはその日の分が売り切れになりました。

吉田恵子社長
まんじゅうに対する愛が深いと思って、
本当にありがたい限りだと思っているんですけど、
こちらが十分に提供できていないのが心苦しい。

地域で愛されてきた 川田のまんじゅう

薄皮でこしあんの一口サイズのまんじゅう。

一口サイズで優しい味が特徴

滑らかな舌触りと飽きのこない、ほど良い甘さが人気で
お土産やお茶菓子として、地域で愛されてきました。

戦前の店の様子

創業は明治5年。
かつては川田駅のホームでまんじゅうを立ち売りし、飛ぶように売れたと言います。
吉田社長の母、先代の明美さんは昔を懐かしみます。

先代の吉田明美さん

先代 吉田明美さん
剣山が一番賑やかだったかな。夏の剣山のお祭りね。
団体のバスの運転手さんから電話がありました。
「何時に出ます」言うて、「何人頼む」とか。それが5台6台と並んでいました。

高齢化 老朽化 時代の変化 店をたたむ決意

しかし、鉄道利用者の減少や高速道路の開通で人の流れが変わり、次第に売り上げは減少。
新型コロナの影響で手土産の需要が減ったことも追い打ちをかけました。

「体は健康そのもの!」といつも元気な福子さん

まんじゅうを製造する従業員も最高齢は81歳と高齢化。

工場は前回の建て替えから50年近くがたち、老朽化しています。
新たな建て替えや設備の入れ替えは資金の面から厳しく、菓子製造許可の期限が切れる10月末で閉店することを決断しました。

吉田恵子社長
スタッフや母も含めて重労働なものもたくさんあったので、母やおばあちゃんたちに楽させてあげたいなって言う気持ちも正直あって、この時期になった。

最後の日まで 全力を尽くす母と娘

閉店が公表されてから製造工場は大忙し。

ほかの従業員が来たらすぐに作業できるよう機械を準備する明美さん

現場を仕切るのは先代の明美さんです。
朝5時から、機械やまんじゅうの生地を準備します。

午前7時からほかの従業員も合流。

3分ほど蒸すとまんじゅうが出来上がる

夕方まで作業を続け、1日に8000個ほど作ります。
これまで週2日だった製造も3日に増やして対応しました。

吉田恵子社長
手作業が多いので、お客様は増えているんですが、どうしても作る量は限りがあるので、
精一杯やるしかないという感じです。

思いやりの味 いつまでも

迎えた閉店の日。

開店までに70人ほどが並んだ

朝6時半から客が並び始め、行列となりました。
午前9時、開店。

感謝の思いを込めて花束を渡す人も

思い出や感謝の思いを語りながら買い求める客の姿が目立ちました。

地元出身の女性
いつもあったけど、なくなると思ったら食べたいというか。並ばないとと。

地元出身の女性
いつでも来られるなというのがなくなるので、
やっぱり最終日どうしても来たくてがんばりました。
いつもあるのがなくなるのはさみしいですね。

客足は途絶えることがなく、午前中に完売。
従業員全員で最後の客を見送りました。

左:娘 吉田恵子社長 右:母 吉田明美さん

先代 吉田明美さん
私は製造ばっかりでね。
こっちにきてお客さんの買っていただけるのを見て、急に涙がでました。
ありがとう。
こっちにきたら感激、感激ですね。
こんなに価値のあるものだと、今、実感しました。

吉田恵子社長
ほんとに母は嫁に来てからひたすら仕事仕事で、
なので、これからは少し楽をしてというか、
楽しい毎日を過ごしてほしいなと思っています。

母と娘、最後まで全力を尽くし、151年の歴史に幕を閉じました。

心に残るまんじゅうの味

伝統はここで一度途絶えますが、思いやりのこもった味は地域の人の心に残り続けます。

制作後記 徳島放送局アナウンサー 高橋篤史

 私の母親のふるさと、祖父母の住まいが吉野川市にあったため、幼いころから親戚の集まりなどで、よくこのまんじゅうを食べていました。ほどよい甘さと一口サイズのこのまんじゅうが大好きでした。これまで各地に転勤してきましたが、地元・徳島に里帰りするとお土産としてもよく購入していました。値段も手ごろで、個数も稼げるし。。。そして、やっぱりおいしい。

 今回、惜しまれながらも閉店すると知り、残念な思い、切ない思いで取材しました。お客さんに取材をしていると私と同じく「懐かしの味だ」という方、「残念でならない」という声が多く聞かれました。
 しかし、先代の吉田明美さんに話をうかがうと厳しい現実を突きつけられる言葉が返ってきました。

先代 吉田明美さん
みな東京で住んでるとか、親だけがここにいるとか、そんなときにだけ、年末か、年1回くらい親の様子を見に帰って来る。
その時だけ、懐かしいっていうだけで、だったら商売やっていけんでしょ。
懐かしいだけで商売やっていけませんよ。
たまに「久しぶりやから来ました」だけでは商売やっていけませんよ。
お土産にするだけではやっていけんでしょ。

 まさに、私自身が「親の様子を見に、年に1度くらい里帰りし、その時だけお土産に買っている」人間でした。地元、徳島の衰退を憂いながらも結局、自分は都市部に働きに出ている。大切な地域の宝だと思っていたものが「失われてしまう」となってから慌てふためく。これからも同じようなことが、続いていくのだろうと思いながらも何もできない自分の無力さを、取材をしながら強く感じました。

 この店のまんじゅうは非常に手間がかかります。おいしさの決め手となる「こしあん」は、一粒一粒あずきの皮をむき、吉野川水系の良質の湧き水に何度もさらして雑味を取り除き、6時間以上をかけて仕上げます。保存料は使われておらず、あずき、水、砂糖のシンプルな材料で仕上げるため、冷凍保存はできず、日持ちしません。設備投資し、大量生産する体力は残されていなかったため、地域で愛された商品ではあっても、閉店の決断をせざるを得ませんでした。

 今後、自慢の「こしあん」の製法を守り、この地の湧き水を使って製造してくれるような理解ある事業者が現れれば、引き継ぐことも考えたいと6代目の吉田恵子社長は話してくれました。

 今回は地域で愛されてきたものの終わりを見つめる取材でした。この仕事を始めて20年目となり、初めて地元での勤務。今後は地域の大切なものを終わらせないために力を尽くせるような取材ができないものだろうかと感じました。

  • 高橋 篤史

    NHK徳島放送局 アナウンサー

    高橋 篤史

    徳島県三好市出身。
    秋田局・東京アナウンス室・高知局などを経て、2023年4月徳島局に配属。

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