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徳島出身・瀬戸内寂聴さん3回忌 “切に生きる”を語り継ぐ

  • 2023年11月02日

徳島出身の作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんが亡くなって11月9日で2年。
そのことばを支えに生きてきた人たちが寂聴さんのことを語り継いでいこうとしています。

“切に生きる”

寂聴さんが語りかける様子

瀬戸内寂聴さんは1922年5月に徳島で生まれました。
波乱万丈の人生を生き、2021年11月9日に99歳で亡くなるまで、作家として数々の小説を発表しながら、僧侶として世界で法話を行うなどして人々の悩みに寄り添いました。生前、大切にしていたのが「切に生きる」ということばです。

寂聴さん直筆の書

(平成16年の寂聴さんのインタビュー)                        若くても年寄りでも同じ。こうしてほしいということばがあります。それは私が今、実行していることですけど、「切に生きる」ということ。
「切に生きる」というのは、今を一生懸命に生きる、この瞬間を。こうやってて今、話していても、それは無常ですから、今一生懸命に生きて、今会っている人に自分の思いのたけを注ぐ

徳島市で行われた朗読の練習会

寂聴さんの思いを語り継いでいこうという人たちが徳島市にいます。3回忌を前にした10月、寂聴さんの教え子でつくる「瀬戸内寂聴記念会」が徳島市で朗読の練習会を開きました。読んだのは寂聴さんの「場所」という作品。教え子たちは寂聴さんとの思い出を胸に、作品を読み継いでいます。

参加者

寂聴先生は、本当に思ったままのことを素直に読んでいる。まったく飾っていないところに憧れます。

参加者

一番好きなのは『夏の終り』。文章も、こんなことも書くのかという驚きがありつつ、とても読みやすいので大好きな作品です。

清重康代さんと寂聴さん

その1人が教え子の清重康代さんです。
23歳の頃、東京の大学を卒業したばかりでしたが、初めて受験した教員採用試験で不合格となり、徳島の実家で将来に不安を抱えて過ごしていました。昭和56年、寂聴さんがふるさと徳島を文学で盛り上げようと立ち上げた「寂聴塾」の募集を見て、先行きの見えない人生を変えたいと思い、わずか1日で作文を書き上げて応募し入塾。寂聴さんと、全国から集まった65人の塾生とともに、人生とは何か、女性とは何か、愛とは何か、性とは何かなどを考えてきました。当時、寂聴さんが人生を語るとき、たびたび口にしていたのが「切に生きる」ということばでした。

清重康代さん

「自分の今いる所で、精いっぱい一生懸命に生活をしていくのがとても大事なのよ」と教えていただいたのはずっと覚えている。仕事の中で、今、自分に与えられている仕事に一生懸命に取り組む姿勢になった。

寂聴さんのことばが人生の転機に

清重さんが寂聴さんに提出した作文

清重さんは寂聴さんの塾で、毎回欠かさず作文を提出しました。自分の悩みを打ち明けたり、不安な気持ちをぶつけたりした作文に、寂聴さんは率直で、清重さんの気持ちの本質をついたことばを添えて返してくれたといいます。

清重康代さん
「気取らないで書きなさいね」とか「素直に書きなさいね」とか、先生はよく言葉でもおっしゃっていますし、その文章の最後にも書いてくださっていた。「自分の思うことをありのままに書いたらいいのよ」って。

ろう学校について書いた清重さんの作文

清重さんは、非常勤講師を務めながら29歳になったとき、初めてろう学校に勤めました。耳に障害のある子どもたちは、補聴器をつけて音が聞こえるようになると顔つきが変わり、ことばを覚えるようになりました。そんなひたむきな姿を見るうち、「自分が進む道はこれだ」と思い、感じるままを作文に書いて寂聴さんに提出しました。それまで寂聴さんからのメッセージは、「あなたは何がしたいのかわからない」など、厳しいことばもかけられていましたが、そのときの作文に添えられたことばが清重さんの人生を決めたといいます。

転機になった寂聴さんのメッセージ

寂聴さんのメッセージより
とてもよくできました。感情がこもっています。今の仕事がいいのでしょうね。また書いてくださいね。

 

清重康代さん

「今の仕事がいいのでしょうね、よかったね」と言われたので、自分が教員として仕事をしていく上で、大きく背中を押してくださった。

寂聴さんを語り継ぐ

寂聴さんのことばに後押しされ、およそ30年間、障害のある子どもたちに向き合いながら、「切に生きよう」としてきた清重さん。自分と同じように悩みを抱える人、中学生や高校生など若い世代、地元の徳島の人たちに寂聴さんのことばを伝え続けたいと考えています。

清重康代さん
先生がたくさん本を書かれた中で伝えたかったことは、それぞれが読んだりして吸収していけたらと思う。
瀬戸内寂聴という99歳まで生きた作家がいるということを、私たちはこれからも伝えていく。先生に教えていただいたことを考えながら生活していけたらと思っています。

瀬戸内寂聴さん
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