香川の女子少年院で語る元ひきこもり僧侶全国最年少の教誨師

2023年07月14日

刑務所や少年院で罪を犯した人に寄り添い、更生を促すボランティアの宗教家のことを「教誨師」（きょうかいし）といいます。香川県丸亀市の女子少年院でこの春、新しく全国最年少の教誨師となったお坊さんがいます。ひきこもりだったみずからの経験を元に、はじめての講話に臨む姿を取材しました。

緑髪のお坊さん

浄土真宗の僧侶、片岡千晶さん(28)です。
堅苦しいイメージがある仏教を身近なものとして親しんでもらおうと、県内外のお寺やカフェなどに出向いて、教えを説いています。

より分かりやすく伝えようと、この日は自分で描いた紙芝居を使いました。
世の中は自分の心次第で苦しみにも喜びにも受け取れるので、物事の捉え方を変えるだけで誰もが幸せになれることを説明しました。

なんとなく元気が出ないっていう人の方が多いと思うんですよね。でもそういう人がなんでもない日常を今日いい日だなとか、そんなふうに思えるような気づくきっかけになれたらいいなって思ってます。

全国最年少の教誨師に

この春、片岡さんは新たに「教誨師」となりました。
教誨師とは、刑務所や少年院で罪を犯した人に寄り添い、話を聞いたり、更生を促すような教えを説くボランティアの宗教家のことです。
教誨師は全国に約1800人いますが平均年齢は60代。20代は片岡さんただ1人で、全国最年少です。
女性の教誨師の数も全国に70人以下で、若い女性の教誨師として片岡さんは貴重な存在です。

教誨師として片岡さんが担当するのは丸亀市の女子少年院「丸亀少女の家」。
6月に初めての講話に臨むことになりました。

この施設には窃盗や薬物犯罪などの罪を犯した11人の少女が収容されています。
少年院に入る若者の多くが、親から受けた虐待などによる心の傷を抱えているといいます。

ひきこもりだった過去

講話を前にして、片岡さんは、少年院の少女たちに自分自身を重ね合わせていました。
幼いころから周囲になじめず、生きづらさを感じていたという片岡さん。
小学５年生から高校卒業までほとんど学校に通えませんでした。

なんで学校に行かないんだとか、みんながこんなに苦しんでいるのが分からないのかみたいな。あんまり家も居場所っていう感じではなくて。なのでもう本当に布団をかぶってただひたすら寝てるか何もしないっていうことしかできなかった。ずっとただただ苦しみを抱え続けて生きているみたいなそんな感覚でした。

当時の私がもし、これをすれば自分が楽になるっていう逃げ道としての犯罪行為があったら、それを絶対に選ばずにいられるかっていったら、それはもしかしたら選んでいたかもしれない。

大学進学を機に、初めて地元を離れたときに「ひきこもり」という先入観を持たず、対等に向き合ってくれる友人に出会いました。
１人では気づくことの無かった「喜び」。
様々な価値観に触れることで、少しずつ自分のことも認められるようになっていきました。

すごい狭い世界に生きていたんだなとも思ったし、世界って思ったより優しいんだなっていうのも感じましたね。

つらい経験をした自分だからこそ伝えられることがある

片岡さんは、自身の経験を踏まえて、少女たちに『つらい過去があっても誰もが幸せになれる』と伝えたいと考えています。

１番伝えたいのはこれから先の未来の話。今苦しくても希望はあるし、幸せになることもできる。その道に入っていく入り口、きっかけみたいなお話ができたらいいなと思ってます。

片岡さんは得意のイラストを使って、その日よかったことを見つけることで人生が幸せになるという四コマ漫画を用意しました。
少女たちにも、自分の身近にあったよかったことやうれしかったことを思い出して紙に書き留めるように伝えました。そうすることで、日常の中から小さな喜びを感じ取って欲しいと考えています。

やっぱり世の中って理不尽なことが多いし、それは自分の力ではどうすることもできないことの方がほとんどだと思うので、だからこそ受け取り方は自分次第でいいように受け取るというか。どうにもならない中でも幸せに生きていく術っていうのを身につけてもらえたらいいなと思います。

少年院で少女たちに語りかけた

6月29日、片岡さんは「丸亀少女の家」で初めて少女たちと対面しました。

少女たちも結構しっかり聞いてくれて、思ったよりは話しやすかったです。伝わっていたら嬉しいなっていう感じです。きょう少女たちに伝えたように、世の中生きてる人みんながいろんな出会いや苦しみ悲しみ喜びっていうのを受け取った上で、希望に向かって生きていけるような、そういう活動をしていけたらなと思っています。

片岡さんは、今後も定期的に同じ「丸亀少女の家」で少女たちに向けた講話を続けていくということです。若い女性という少女たちとの距離の近さと、ひきこもりだった過去を生かして、少女たちに寄り添っていきたいと話していました。