香川県の空手家先生 極真空手と保育の二刀流で世界へ挑戦
- 2023年06月27日
対戦相手に素手で直接打撃を与える激しい戦いぶりで知られる極真空手で日本一の男性が香川県琴平町にいます。日々の激しい稽古に励みながらも、こども園の先生として働くもう1つの優しい顔があります。空手と保育を両立しながら強くて優しい世界一の先生を目指す男性を取材しました。
強い空手家と優しい先生の両立
ことし4月に行われた極真空手の全日本大会で優勝し、日本一となった中山正純さん(29)。
道場を経営する両親のもとで5歳のときから極真空手を始め、毎日のように稽古に打ち込んできました。
得意技は柔軟性を生かした上段蹴り。身長2メートルの選手が相手でもあごに決まれば一撃で倒せる必殺技です。
中山さんには強い空手家とは一見正反対に見えるもう1つの優しい顔があります。
琴平町にあるこども園の先生として働いているのです。
高校生のときに道場で子どもたちに空手の指導をしたことがきっかけで、子どもと関わる仕事をしたいと思うようになった中山さん。9年前から空手と保育の仕事を両立しています。
中山さんは、保育の仕事が空手にもつながっていると考えています。
「保育の仕事をしながら空手を両立することによって、子どもたちが昨日できなかったことが今日できるようになったりと日々成長していく姿を目の前で見ることができています。その姿を見て、自分も頑張ろうと刺激をもらっています」。
空手と先生の意外な共通点
空手も先生も極めるのに必要なのは「体力」です。
元気いっぱいの子どもたちと同じ目線に立って一緒に遊ぶ中山さん。中山先生にかまって欲しいと次から次に子どもたちが中山先生を取り囲みます。
手裏剣遊びに鬼ごっこ、子どもたちをおんぶしたりと大忙しです。
さらに、「柔軟な対応力」。
予測不能な動きをする子どもたちの異変に気づいて対処しなくてはなりません。
子どもたちに危険が及ばないように注意深く観察し、ケンカが始まったらすぐに駆け寄ります。
空手でも相手の動きを見極めて、瞬時に対応できる力につながります。
そして最後は「諦めない気持ち」です。
この日の給食はマーボーナス。
教室にはナスが苦手な男の子がいました。
苦手な食べ物も諦めずに食べきれるように中山さんが寄り添います。
中山さんは、ナスを小さく刻んでごはんの上に乗せておすしのように食べるようにアドバイスしました。
すると、この男の子は苦手なナスをすべて食べきることができました。
中山さん自身も、壁にぶつかったときに1つ1つ乗り越えてきたという実感がありました。
5歳から始めた空手は周りからセンスがないと言われ続け、学生時代は大会に出てもほとんど結果を残せませんでした。
それでも社会人になってからも諦めずに厳しい稽古を続けることで少しずつ強くなっていき、日本一になることができました。
中山さんは、子どもたちにも諦めずに努力することの大切さを知ってほしいと言います。
「嫌なことも苦しいことも最後までやり抜ければ自分の力になって、そしてそれが自信になる。気持ちを強く持つことの大切さを自分が伝えられたらいいなと思っています」。
子どもたちのおかげで挫折を乗り越えられた
しかし、中山さんのこれまでの道のりは平たんではありませんでした。
2018年、全国大会の試合中に左ひざの靱帯を損傷する大けがを負いました。
「医者から1年は試合には出られないと言われて、その時は本当にかなりへこみました。空手をしたくてもできないという葛藤をすごく感じましたね」。
希望を失いかけていた中山さん。
そんなときも励ましてくれたのは子どもたちでした。
「僕が仕事に復帰したら子どもたちがすごく喜んでくれて笑顔で迎え入れてくれて、それを見てまた頑張ろうと感じました」。
目標は世界一
子どもたちが思い出させてくれた、壁にぶつかっても諦めずに努力する気持ち。
中山さんは、ケガを克服して再び前を向いて毎日体力の限界まで稽古に打ち込み、日本一までのぼりつめました。
今の目標は11月にカザフスタンで行われる世界大会で金メダルを獲得すること。
外国人選手の力強い攻撃にも耐えられる打たれ強い体を作り上げるためにも取り入れているのが「打たせ稽古」です。
極真空手の元世界チャンピオンでもある父親の敏之さんの全力の突きをノーガードで受け止めます。
かつては1発受けるのがやっとだったと言いますが、今では30秒間受け続けても耐えられるようになりました。
さらに、スタミナを鍛えるために金刀比羅宮の本宮までの石段785段を一気に駆け上がります。中山さんはこども園に出勤する前の朝6時にこのトレーニングを行っています。普通の人が歩いて登れば40分かかると言われますが、中山さんは10分で登りきりました。
中山さんは、今後も空手家と先生の2つの道を極めながら世界一強い先生を目指します。
「毎日毎日日々成長が僕のテーマなので、これからも苦しい稽古も最後までやり抜き、1度きりの自分の人生が満足いくように終わりたいです」。
取材後記
中山さんが教室で子どもたちに向ける優しい笑顔が、道場に入ると険しい表情に一変するのが印象的でした。私が取材した日、中山さんは朝6時に階段ダッシュをした後、7時30分から6時間こども園で働き、そのあと道場で子どもたちに空手の指導をして、最後に自分の稽古をしていました。忙しい中でも自分を追い込み厳しい稽古を続けるストイックさに驚きました。私も中山さんを見習って世界一のカメラマンを目指します!
※なお掲載している情報は放送当時のものです。