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遮断機が下りない… 香川の踏切で相次ぐトラブル 背景に何が

  • 2023年09月21日

走行中の電車が接近すると、当たり前のように下りる踏切の遮断機。
人や車が電車に接触する事故を防ぐため欠かせない設備です。
 

ところが、香川県内ではことしに入って電車が近づいても遮断機が下りないトラブルが相次いで発生しています。命を守る遮断機がなぜ下りなかったのか。
その原因を探っていくと、地方鉄道特有といえるかもしれない背景が浮かび上がってきました。

 

踏切なのに“遮断機下りない”

ことし4月11日に遮断機が下りなかった  
ことでん長尾線「上福岡踏切」 

トラブルはことし4月11日、高松市上福岡町の住宅街にあることでん=高松琴平電気鉄道・長尾線の踏切で起きました。

電車が接近したのに警報機が鳴らず遮断機も下りません。運転士がそれに気づきブレーキをかけましたが、列車が止まったときには遮断機が下りていない踏切内に進入していました。
けが人はいませんでしたが、四国運輸局は事態を重く見て、ことでんに「改善指示」を出しました。
 

ことし7月13日に遮断機が下りないまま電車が通過
ことでん琴平線「下所川第一踏切」

しかし、その3か月後の7月13日、再びトラブルが起こったのです。

今度は高松市三条町にあることでん琴平線の踏切で、前回と同様、警報器が鳴らず遮断機も下りません。しかも今度は運転士がそれに気づかず、遮断機が下りていない踏切を電車がそのまま通過してしまったのです。
 

ことし8月19日に南側の遮断機が下りなかった 
ことでん琴平線「円座踏切」

トラブルはさらに続きます。

その1か月後の8月19日の夜、高松市円座町のことでん琴平線の踏切で遮断機が下りませんでした。しかも1本だけでなく、上りと下りの2本の電車がそれに気づかずに踏切を通過していました。
 

8年間で17件

わずか5か月の間に相次いで3件も発生した踏切トラブル。

過去にも同様のことがなかったのか。調べてみると、ことでんでは遮断機が下りないトラブルが平成27年度以降あわせて17件起こっていたことが分かりました。

平成27年度以降に遮断機が下りなかった踏切がある区間

これまでにトラブルが発生した場所を路線図の上にまとめてみました。
青色で示した部分はことし相次いで発生した3か所。それ以前のケースもあわせてみてみると「志度線」「長尾線」「琴平線」の3路線すべてのさまざまな場所で発生していたことが分かります。

このようなトラブルはことでん以外でも起きているのか。

鉄道事故などのデータを取りまとめている四国運輸局に問い合わせました。
すると、平成27年度以降に四国4県で起きた踏切トラブルは18件あり、うち17件がことでんのものだということが判明。
全国的にみると、遮断機が下りないなどといった踏切の施設障害は年間で10件ほどだということで、専門家は「同じ会社でこれだけ続くのはきわめて多い」と指摘しました。

なぜ遮断機が下りない?

なぜ、踏切トラブルがこんなにも多いのか。
その謎を解くために、ことでんで過去に起きた17件のトラブルの原因を詳しく調べることにしました。

原因を取材する中で、まず気になったのが、機械の故障によるもの。中でも老朽化とみられるケースです。

ことし4月に起きたトラブルを見てみます。原因は踏切を制御するための変圧器のヒューズが経年劣化で破損していたことでした。このヒューズは、およそ40年にわたって使い続けられ、メーカーが推奨する10年から15年という耐用年数を大幅に超えていました。
また、メーカーが推奨する年数を11年超えて使用していた遮断機が壊れていたケースもありました。

このほかには、老朽化が原因かどうかははっきりしませんが、機械が故障して電車の接近を検知できなかったり、検知できても遮断機の方が故障して下りなかったケースが。また、工事上のミスや、確認すべきものをしていなかったなど作業上のミスによるものもありました。
 

 

やはり気になるのは、耐用年数を大幅に超えて40年も使用するようなケースがあったことです。
これには法的な問題があるのではないかと、四国運輸局に問い合わせました。

ところが、「法的な問題はない」との答え。耐用年数というのはあくまでメーカーが示す目安にすぎず、点検をしたうえであれば、法律では同じ部品を使い続ける期間の上限は定められていないというのです。つまり、部品などをいつまで使用するかは鉄道事業者に委ねられているということになります。

なぜ、法律で定めないのかと問うと、「都市部や地方など地域によって使われる頻度も違うので一律の基準は設けられない」との回答でした。
 

 

鉄道事業者しだいということならば、ことでんではどう対応していたのか。
取材すると、部品の交換年数について基準は設けず、定期的に点検をした上で問題がないと判断すれば使い続けていました。
40年にわたって部品を交換せず使用していたのは、こうしたところに理由があったのです。ことでんは「コスト面もあるので、メーカーの耐用年数にあわせて更新している鉄道事業者はほとんどないのではないか。台数も多く、投資額が相当多くなってしまう」と説明しています。

法的に問題はないものの、一連のトラブルを受けてことでんは対応を改めました。部品のなどの交換年数の基準を新たに定め、遮断機は25年、ヒューズは10年などとしました。基準を超えて使用している部品があれば交換を進めています。
 

組織刷新で安全対策へ

 

8月21日にことでんが開いた会見

相次ぐ踏切トラブルをことでんのトップはどう受け止めたのか。
ことし3回目のトラブルの2日後、ことでんは急きょ記者会見を開きました。
真鍋康正社長(当時)は組織的な課題があったと指摘。9年にわたって務めてきた社長の職を辞任する意向を示しました。

 

真鍋氏
 

四国運輸局により業務改善指示が出され、安全対策を講じて再発防止に取り組んでいる中でこのような事態を繰り返し発生させてしまったことについて、極めて重く受け止めている。繰り返し生じている事象なので組織的な課題があると認識している

その上で、真鍋氏や幹部は相次ぐトラブルの背景に、コストを意識して対応が遅れたことや社員への安全教育にも課題があったと指摘しました。

コストの観点から設備のとりかえができなかった。それは会社としてどのように中長期的に更新していくか欠けていたと思う

安全教育について教育が不十分で、結果としてヒューマンエラーがあった。恥ずかしながら古い設備を使っている会社なので、最後は人が設備を安全に動かす、人がどう使うか。そういう認識のもとに働いていたというのも事実

その約10日後に新たな体制を発足させたことでん。新社長になったのは、鉄道事業本部長として会見に臨んでいた植田俊也氏です。

新体制発足にあたって植田氏は、「踏切インシデントの再発防止に向け、安全対策のスピードアップや見直しと、抜本的な対策として新たな安全システムの導入に向けた準備も進める」とコメントしました。

ことでんは、9月1日付けで鉄道の安全対策に特化した「安全対策推進室」を社内に設置。機器の安全管理や従業員への研修や教育などを横断的に把握することで、安全管理の体制を再構築するとしています。
 

構造的な課題も

新たに発足した体制で今後、踏切トラブルは防げるのか。
鉄道工学が専門の日本大学の綱島均教授は、構造的な課題に踏み込んだ対策も必要だと指摘します。

綱島教授

鉄道システムというのは車両と信号保安システム、軌道あるいはその運行という、組み合わされて1つの鉄道システムができていてかなり複雑なシステムになっている。このため熟練の人が退職して、システム全体を見通せるような人材が不足している可能性はある。

また、こうしたトラブルはことでん以外でも起こりうるとして、原因の徹底的な究明がまずは必要だといいます。

綱島教授

今回ことでんで起こったトラブルは、ことでんだけの問題ではない。ほかの地方鉄道の事業者でも同様なケースが発生する可能性は十分考えられる。このためまずはことでんの個々のトラブルの原因究明が非常に重要だ。原因が分かれば他社でも同じようなことがないかどうか、点検することもできる。

ことでんをはじめとした地方鉄道の中には、設備の老朽化が進む一方で、新型コロナで打撃を受けて経営がよりいっそう厳しくなり、人材確保も困難になっているところが少なくありません。ただ、安全の確保というのは一丁目一番地です。安全に対する投資を最優先に取り組む必要があると思います。
 

  • 富岡美帆

    高松放送局 記者

    富岡美帆

    2019年入局
     警察や司法、香川県政や選挙を担当したのち、いまは経済を担当。電車は乗り鉄旅派。

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