幼児食では、離乳食と違った悩みも増えてきます。せっかく作ったのに投げてしまう、遊んで食事に集中しない、好き嫌いも悩みの種です。いくつになっても悩みの尽きない子どものごはんについて、みんなで考えます。
川口由美子(一般社団法人 母子栄養協会 代表理事/女子栄養大学 生涯学習講師/管理栄養士)
離乳食と幼児食 何が違う?
「離乳食」の次が「幼児食」というイメージですが、幼児食は離乳食と何が違うのでしょうか?
離乳食は主に母乳・ミルクから栄養をとる、幼児食は主に食事から栄養をとる
回答:川口由美子さん
食事の内容に大きな違いはありませんが、栄養のとりかたが異なります。離乳食の時期は、主に母乳やミルクで栄養をとり、離乳食で補います。栄養の多くを食事からとれるようになったころから幼児食になります。
かむ力が弱い、食事に集中しにくい、食べられる量が少ないなどに配慮が必要
回答:川口由美子さん
幼児食は、主食(炭水化物)や肉、魚、卵、豆類などのたんぱく質、野菜などのビタミン、ミネラル類など、栄養をバランスよくとるという意味で、大人の食事と大きな違いはありません。ただ、幼児の特徴として、「歯が生えそろっておらず、かむ力が弱い」「まだ集中力がなく、落ち着いて食べられる時間が短い」「一度に食べられる量が少なく、消化吸収能力が未熟」などがあり、配慮が必要です。
手づかみ食べ、どう進めていけばいい?
息子(1歳2か月)は、離乳食から幼児食に移行している最中で、手づかみ食べをはじめました。ただ、食べものを投げてしまいます。せっかく用意したのに、食べないなら作らないほうがよかったのではないか、最初から細かくしてスプーンであげたほうが食べるのではないかと思い、少しやるせなくなります。幼児食になってからのほうが、子どもに合わせた食事が必要な気がしますが、何を参考にすればよいか悩みます。この先、どう進めていけばよいでしょう?
(お子さん1歳2か月のママ)
―― 川口さん、この手づかみ食べには、どのようなメリットがあるのですか?
目で見て、手でつまんで、口に入れるなど、自分で食べることを学習する
回答:川口由美子さん
この時期の子どもにとって、手づかみ食べは簡単ではありません。目で見て、食べものだと判断して、手でつまんで、それを口の中に入れる、一連の動作を食べものに合わせて調節します。例えば、自分だったらプリンはゆっくり食べよう、硬いせんべいは奥歯で食べようとしますね。幼児食は、そういったことを少しずつ学習する期間なのです。その意味では、手に持って、「全部は口に入らないかな」のように量を見ることも大事な動作になります。この時期を経験して、普通に食べられるようになっていきます。
―― 食べものを投げたり、食べこぼしたりでストレスを感じるとき、我慢するしかありませんか?
親がストレスを感じるなら、スプーン食べと合わせていい
川口由美子さん
子どもは、食べものとわかって握りつぶしたり、投げたりしているわけではありません。手で触って、口に入れて、投げて、いろいろと試しています。でも、それがストレスになるときは、無理をせずに食べることを優先して、スプーンであげても大丈夫です。
また、ぐちゃぐちゃになりにくい、片づけやすいメニューを取り入れるのもいいでしょう。
食事の片づけ マスカーテープを使ったアイデア
ここで、すくすくファミリーが実践しているアイデアを紹介します。
食事のときの床の汚れを防止するために「マスカーテープ」を使います。主に「マスカー」と呼ばれるもので、塗装の際に使われるようです。
マスキングテープに透明なフィルムがついていて、テープを貼ってフィルムを出すだけで、床にシートを広げたようになります。
この上で食事をすれば、食べこぼしたものを簡単にまとめて捨てることができるので、床の掃除をしなくても大丈夫です。ストレスもほとんどなくなりました。
―― 子どもの食べやすい硬さの目安は、どれぐらいですか?
指の腹でつぶせる硬さ、爪でつぶせる硬さが目安になる
回答:川口由美子さん
人さし指と親指をつまむような形にしてみてださい。この指と指の腹でつぶせる硬さが、赤ちゃんが歯ぐきでつぶせる硬さの目安になります。
次に、人さし指と親指の爪でつまむようにしてみてください。この爪でつぶせる硬さが、赤ちゃんの生え始めの歯でかみつぶせる硬さの目安になります。
幼児食では、子どものかむ力や、かむ回数にあわせて、硬さや大きさを調整したものをあげることが大事です。
―― 食べさせないほうがよい、気をつけたい食品は何ですか?
回答:川口由美子さん
幼児食で気をつけたい食品は、「アルコールが入っているもの」「生の肉や魚」「味が濃すぎるもの(特に塩分)」「誤えんや窒息につながる、丸くて硬いもの」などです。
また、お子さんにアレルギーのある食材は、十分に気をつけてください。
―― これらを守っていれば、そこまで神経質にならなくてもよいのでしょうか?
食べる力の発達に合わせて、臨機応変に進める
川口由美子さん
そうですね。難しいとは思いますが、それほど大きな決まりはないので、子どもの食べる力の成長発達にあわせて、臨機応変に進めてください。
ごはんの量は足りている?ごはんを食べない分、お菓子をあげていい?
娘が食事に集中しないことに悩んでいます。ままごと遊びのように食べものを切ったり、椅子の上に立ったり、スプーンで器を叩いて鳴らしたり。好きなものだけ食べて、食事をやめることもあります。食べる気になるように、娘が好きなキャラクターの食器に盛り付けたり、パパがキャラ弁ふうのごはんを作ったり、いろんな作戦を試しましたが、なかなかうまくいきません。
また、ごはんを食べないのにお菓子を食べたがります。ごはんの量が足りてないのか、ごはんを食べずにお菓子を欲しがったらあげていいのか。子ども用のおやつとはいえ、子どもの体を考えると心配です。
(お子さん2歳1か月のママ)
3食では必要なエネルギーがとれないので、補食(おやつ)は必要
回答:川口由美子さん
幼児は胃が小さいので、3度の食事だけでは必要なエネルギーや栄養がとりきれません。そのため、補食(おやつ)は必要です。ただ、「おやつ=お菓子」ではありません。ふだんの生活でお菓子は必要ないので、お菓子は「心の栄養」として特別なときに食べるものだと考えてみてください。
子どもがわかる場所にお菓子を置いてしまうと、おなかがすいたときに、簡単にお菓子を選んでしまいます。できるだけ、食事・おやつから栄養がとれるような環境をつくっていきましょう。
―― 補食としてのおやつは、どんなものがいいですか?
食材に置き換えられるおやつ
回答:川口由美子さん
食材に置き換えられるおやつがいいですね。「このおやつだったら芋かな」「これはパンに近いな」というように、いも類・パン・おにぎり・果物・ヨーグルト・チーズなどの食材を、すぐにイメージできるものがいいと思います。
―― ごはんが足りているかは、どこで見分けたらいいでしょう?
体重の増え方・元気にしているかで見る
回答:川口由美子さん
その日、ごはんが足りているかというおなかのすき具合は、食べる前にどのような活動をしていたか、どれだけ運動していたかによって変わります。子どもによって、毎日、それぞれで違うのです。
今の栄養が足りているかを判断するのは難しいので、長い目で考えて、体重の増え方(成長曲線に沿って増えているか)や元気にしているかを見ていきましょう。
―― 食事のときに遊んで食べないときは、どうしたらいいでしょう?
興味に合わせて食べるように促す方法も
回答:川口由美子さん
お子さんは、ままごとで食べものを切るような遊びをしていましたね。もしかすると、料理や道具に興味があるのかもしれません。例えば、ごはんのときにおままごとのまねをしているなら、「切れたね。次はお口に運んでみようか」のように、興味に合わせて食べるように促すと、食べることもあると思います。
集中して食べるための環境づくりを
回答:川口由美子さん
食事に集中するためにできることはいくつかありますが、食べることに集中しやすい環境づくりが大事です。まずは、子どもの気を引くものを視界から外します。例えば、おもちゃが見えるところにあったり、テレビがついていたりすると、どうしても集中できなくなります。おもちゃを視界に入らない場所に置き、テレビなどを消しておきましょう。
ただ、現実的におもちゃを片づけることが難しいときは、おもちゃがある方向に背を向けて座ってみてください。視界に入るのが、家族や壁やキッチンだと、比較的集中しやすいと思います。
また、座る椅子やテーブルの高さが合ってるか、食べやすいかも確認してください。椅子は、足裏が床などにつくようにしましょう。
―― いろんなことを試しても食べたがらない、遊んでしまう、という場合、どう考えたらいいですか?
食事前の活動に合わせて量を調整する
回答:川口由美子さん
はじめに、今日はおなかがすいているかを考えてください。たくさん遊んでいればおなかがすくので、食事に集中しやすくなります。一方で、雨でずっと家にいると食欲はわきにくいものです。食事前の活動に合わせて、食事の量を調整するのもいいでしょう。子どもはおなかをすかせていれば食べることが多いので、環境を整えつつ見守ってください。
偏食・好き嫌いで発達に影響がある? 苦手なものを食べるには?
4歳になる息子は肉が苦手です。3歳ぐらいから急に食べなくなりました。ひき肉で作ったハンバーグなども嫌がります。肉を食べないので、たんぱく質や鉄分などの栄養素が不足するのではないかと心配です。偏食や好き嫌いで栄養に偏りがあると、成長・発達に影響があるでしょうか。どうすれば食べるようになるでしょうか。
(お子さん4歳2か月・2歳3か月のママ)
「これは嫌い」と決めつけず、食べない理由を考える
回答:川口由美子さん
子どもの「好き嫌い」は「今」のもので、好みは少しずつ変わっていきます。今は苦手でも、将来もずっと同じかはわかりません。「これは嫌い」と決めつけず、食べない理由を子どもと一緒に考えていけるといいですね。
例えば、今はかむ力が足りず、硬くて食べにくいのが理由かもしれません。「肉はかみにくいので苦手」という子も多くいます。舌触りや味が苦手な場合もあります。
―― どうすれば食べられることに近づけますか?
食材ではなく、食べやすい調理法を考える
回答:川口由美子さん
「この食材が嫌い」と決めつけると、それが子どもにインプットされて「私はこれが嫌いなんだ」と考えるようになり、どんな調理法でも食べなくなりがちです。好き嫌いを食材ではなく、調理法で考えてみましょう。例えば、肉のかたまりが食べにくい場合は、ミートソースにすると食べられたり、「これは好き」になったりすることもあります。「この調理法が苦手かも」と捉えて、同じ食材でも食べやすい調理法を考えてみましょう。
―― 肉が苦手だと、たんぱく質や鉄分などの栄養が不足しませんか?
たんぱく質や鉄分は肉以外のものからとれる
回答:川口由美子さん
実は、たんぱく質はいろいろなところからとれます。そのひとつが「大豆」で、納豆や豆腐などがあります。ほかにも魚、卵などがあります。そのような食品からとれば大きな問題はありません。鉄分も、肉以外の食材からもとれるので、バランスよくいろいろな食材を食べるようにしましょう。
―― 食べないとわかっていても、ソーセージやささみフライを出していますが、これでいいのでしょうか?
好まないメニューでも食卓に出すとよい
回答:川口由美子さん
とてもいいと思います。「出しても食べないかな」と、不安になると思いますが、とにかく出して、続けられるといいですね。好まないメニューでも食卓に出すのがよいと思います。
食べないときに調味料を使って食べさせる… 味が濃いのでは?
わが家の姉妹(6歳・1歳7か月)は、2人とも白いごはんが好きではありません。でも、ふりかけなどをかけるともりもり食べます。ごはん以外でも、子どもが食べないものにはケチャップなどの調味料をかけて食べさせています。
心配なのは味の濃さですが、子どもたちが食べないことのストレスよりも、調味料に頼るほうを選んでいます。
(お子さん6歳・1歳7か月のママ)
ふりかけは大量でなければ問題はない。塩分の少ないシンプルなものに
回答:川口由美子さん
ふりかけをかけても、大量でなければ問題ありません。例えば、ごはんに、すりごま、青のり、さくらえび(粉末)などを加えたり、きなこなどをふりかけたりすれば、栄養補給にもなります。彩りも豊かになり、味もつきます。ふりかけを悪く考えるのではなく、塩味を抑えていれば、栄養を添加していると考えてもいいと思います。
子どもが好む「ちょい足し」ディップ
マヨネーズやケチャップのかけ過ぎが気になる場合は、ヨーグルトを混ぜるのがおすすめです。塩分がおさえられ、カルシウムなどを補えます。
ほかに、カレー粉や、つぶしたかぼちゃを足す、すりごまとみそをあわせる、ポン酢をしょう油の代わりに使うなど、いろいろなアレンジを試して、子どものお気に入りの味を見つけてみましょう。
お子さんが苦手だと思うものほど、ちょっとディップして食べてみましょう。肉や蒸し野菜にディップするのがおすすめです。
参考レシピ
【ヨーグルト 1:マヨネーズ 1】
ブロッコリー、にんじんなどのゆで野菜が、おすすめの組み合わせです。
【ヨーグルト 1:マヨネーズ 1:カレー粉少々】
【ヨーグルト 大さじ1:マヨネーズ 大さじ1:ゆでてつぶしたかぼちゃ 大さじ2】
きゅうり、レタスなどが、おすすめの組み合わせです。
【ヨーグルト 1:ケチャップ 1】
焼き魚、鶏ささみなどが、おすすめ組み合わせです。
※ケチャップは、トマトピューレでもOKです
【ウスターソース 小さじ1:ケチャップ 小さじ1:砂糖 ひとつまみ】
少しずつ砂糖を入れて混ぜます。よく混ぜて電子レンジ(500W)で20秒加熱します。最後によく混ぜてください。
お好み焼きのようなキャベツ焼きなどが、おすすめの組み合わせです。
【みそ 小さじ2:すりごま 小さじ2:砂糖 小さじ1/2:水 小さじ2】
水と砂糖を混ぜて電子レンジ(500W)で20秒加熱して、よく混ぜます。次に、ごまとみそと砂糖水を少しずつ加えながらよく混ぜます。最後に、さらに電子レンジ(500W)で20秒加熱します。
ブロッコリー、にんじんなどのゆで野菜、蒸した白身魚などが、おすすめの組み合わせです。
【ポン酢+大根おろし(適量)】
魚やゆでた薄切り肉などが、おすすめの組み合わせです。
2歳の偏食、6歳になってどうなった?!
最後に、以前「すくすく子育て」で食べない悩みを相談していたご家族が、その後どうなったのか話を聞きました。
当時、お子さん(2歳)の極端な偏食に悩んでいました。例えば、みそ汁は具を食べずに汁のみ。そのほか、ごはん・のり・フライドポテト・しらすとほうれんそうを混ぜたおにぎりだけしか食べません。専門家からは、「大事なのは食事を楽しむこと」「用心深くて食べるのが苦手な子には、無理強いをしないように」とアドバイスがありました。
※2019年放送「子どもの「食」の悩み ~幼児食~/食べるものが限定的。かなりの偏食です。どうすればいいのでしょうか?」より
はじめて見た食べものは恐怖で、食わず嫌いになりやすいんですね。ごはん・しらす・ほうれんそうを混ぜたぐらいのものでも、ちゃんとおなかがいっぱいになって、3つの栄養素、炭水化物、たんぱく質、ビタミン・ミネラル分があれば、いちおう栄養がとれていると考えていいと思いますよ。
(太田百合子さん)
あれから4年、お子さんは6歳になりました。今は、ニンジンやブロッコリー、甘辛く煮た肉などが食べられるようになりました。でも、まだ食べられないものも多いといいます。
―― 今のところ、全部が食べられるようになったわけではないんですね。
―― 親の肩の力が抜けたところが、子どもにも影響があったのかもしれませんね。
食べものの感触や音など、試しながら苦手なポイントを一緒に考えてみる
最後に
※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです