グローバル化社会と言われるけど、子どもにいつから英語に触れさせればいいのか迷いますよね。乳幼児期の英語について、専門家と一緒に考えます。

専門家:
麦谷綾子(日本女子大学人間社会学部 准教授/発達心理学)
淺間正通(静岡大学名誉教授/東洋大学客員研究員/異文化コミュニケーション論)

英語は何歳から始めたらいいの?

息子には、英語が話せるようになってほしいと思っています。英語が話せたら、学校の勉強が楽になったり、就職が有利になったりするのではないかと思うのです。ママは、旅行業に就いていたとき、外国のお客からの問い合わせで英語を話せなくて苦い経験をしました。パパはすし職人で、現在進行形で英語を話せるほうがいいと実感しています。
でも、早く始めさせていいのかどうか悩んでいます。「小さいころから始めたら耳にいい」と聞いたり、「日本語がままならないうちに始めると、どちらもおろそかになる」と聞いたり、どれが正しいのかわかりません。漠然と3歳ぐらいから始めると思っています。ただ、パパはインターナショナル幼稚園に通っていましたが、英語は全く話せません。
英語って何歳から始めるのがいいのでしょうか?
(お子さん7か月のママ・パパ)

―― すくすくファミリーのみなさんは、いつ始めるのがいいと思いますか?

あとからでもいい

  • 私自身が、今まで英語を話せなくて困っていませんし、楽しく生きています。子ども本人がやりたいと言ってきたら考えます。

  • 以前、仕事で英語が必要になったときに、1年間英会話スクールに通うなどして習得したことがあり、あとからでもいいと思っています。今は、日本語を話す友だちの中で暮らしていて、習い事として限られた時間とお金を考えると、英語はまだいいかなと思います。

早くから始めたほうがいい

  • 私が小学生くらいのときに親の影響で洋楽を聞いていて、「英語の発音がいいね」とよく言われます。小さいころから聞いていれば、耳が育つように思います。

―― 淺間さん、麦谷さん、いろいろな意見がありますが、いかがでしょうか?

興味・関心を上手に引き出してあげることが大事

回答:淺間正通さん

早い遅いではなく、適切な指導者や教室に巡り合えれば何歳でもいいと思います。巡り合えなかったとしても、子どもの興味関心を上手に引き出してあげることが大事です。「好きこそものの上手なれ」です。興味・関心があれば、始めた年齢による違いは埋まっていくでしょう。

英語と日本語をバランスよく聞かせる

回答:淺間正通さん

英語を始めるタイミングが早すぎる場合、母語、日本語に支障をきたす可能性があるという問題があります。英語のシャワーと、日本語(母語)のシャワーを、バランスよく浴びることが大事です。開始時期と合わせて考えてください。

赤ちゃんは生後半年から1年くらいで耳が母語に合ってくる

回答:麦谷綾子さん

母語が日本語の場合、英語の「R・L」「V・B」など聞き取りづらい音があります。赤ちゃんが、そういった音を聞き分けできることはよく知られています。その後、生後半年から1年ぐらいの間に、自分の母語に合わせて耳の聞こえを変えていくわけです。ただ、英語の聞き取りをキープしようとしても、週1~2回ぐらいの習い事で英語に触れるぐらいでは、母語の入力のほうが質も量も高く、母語に合った知覚になっていくと思います。

英語に触れさせるのは、嫌いにならないという意味ではよい

回答:麦谷綾子さん

赤ちゃんの時期に英語に触れることは、英語嫌いにならないという意味ではとてもよいと思います。ただ、そのことに見返りを求めないようにしましょう。役に立つのかどうかは気にしないぐらいの気楽さが大切ではないでしょうか。

今はAIが発達していて、アプリや翻訳機もあります。今後、英語を勉強しなくてもコミュニケーションできるようになるのでしょうか。

現時点では、AIは感情を込めたコミュニケーションという意味では不向き

回答:淺間正通さん

人間のコミュニケーションは、感情を言葉に託して表現します。言葉だけでなく、怒り、悲しみ、喜びといった感情が、しぐさやボディランゲージにも表れます。また、親しい人とそうでない人との間合いも関係します。
AIの精度が上がってきていますが、現時点では、ここまでをうまく盛り込んで対話をするのは難しいでしょう。その意味では、依存するレベルに達していないと思います。
いずれは翻訳機やアプリに依存できるような時代も到来するかもしれませんね。


なぜ日本人は英語が苦手なの?

古坂大魔王さん(MC)

そもそも、どうして日本人は英語が苦手だといわれるのでしょうか? 私も中学校・高校の6年間、英語を勉強してきたはずなのに、まったくしゃべることができません。

「言語距離」が遠いという指摘もある

回答:麦谷綾子さん

いろいろな要因がありますが、そのひとつに「言語距離」があります。言語距離とは、語彙や音声、文法など、言語間の類似性を示す概念です。例えば、西欧の言語であるオランダ語は、英語と言語距離が近いといわれています。日本語は、英語との距離が遠い言語であるという指摘もあります。

完璧にしゃべらなければと思い過ぎている

回答:麦谷綾子さん

もうひとつ、私たち日本人には「英語を完璧にしゃべらなければいけない」という幻想があるのではないでしょうか。そのため、「英語を話すのが恥ずかしい」「自分の英語は変ではないか」と思ってしまう。でも海外では、伝えたいことがあるときは上手でなくても堂々と伝える心構えがあるように感じます。

苦手以前に英語がまだ必然になっていない

回答:淺間正通さん

日本では「国際」という言葉を使いますが、諸外国にいくと他民族国家が前提で、内なる国際化が十分に浸透しています。そのことを考えると、英語が「苦手」「できない」という以前に、「日本では英語が必然になってない」と思えてなりません。苦手でなくなるには、英語的思考場面に徹底的に慣れさせる、意識的にたくさん取り込むようなことが必要ではないかと思います。


英語をどう始めたらいい?

ここで、小さいころから英語を始めることで、息子をバイリンガルに育てている先輩ママの例を紹介します。

私は中学校から英語の学習を始めて、習得までにかなりの時間とお金を費やしました。そのため子どもには、小さいうちに英語を習得させてあげたいと思い、息子が1歳9か月のころから英語に触れさせ始めました。

とにかく英語を耳から入れないといけないと思って、リビングにいるときは英語のCD(子ども向けの童謡など)を流していました。あまり大きくない音で、会話の邪魔にならず、耳に心地よく入るぐらいのBGMにしていたんです。絵本は、日本語で読んだり、英語で読んだり、半々ぐらい。動画を見るようになってからは、日本語のものはあまり見せず、英語の子ども向け番組を見せていました。

8歳になった今では、英語でやりとりできるようになっています。例えば「今日何があった?」と英語で聞くと、その日の出来事を英語で話してくれます。本人は、英語のほうが話しやすいと感じているようです。

でも、最初のころはなかなかしゃべらず、話せるようになるのか半信半疑で、「やめよう」と思ったこともありました。そんなとき先輩ママから「すぐにしゃべり始めなくても、やめないほうがいい」とアドバイスをもらって、続けたんです。すると、車を見て「car」と言ったり、月を見て「moon」と言ったり、日々、新しい言葉が出てくるようになりました。半年前に日本語で発した言葉を、今度は英語で聞けて、子育てを2倍楽しめるように思えてました。やり始めたら、1~2年も、あきらめずにインプットを続けることが大事だと感じています。

さらに大事なのが、単語を話しだしたら、それを手助けすることだと思います。親自身が簡単な英会話を覚えて英語で返せるようにしたり、オンライン英会話で話したり、能動的に話すようなアウトプットする機会や環境を整えました。親が英語で話せることが必須だとは思いませんが、日常の中に、自然に英語がある環境を作りたいと考えたんです。

一方で、母語である日本語とのバランスが大事なので、極端に英語に偏り過ぎないように気をつけています。子どもを外国人さながらに育てたいわけではなく、日本人としてのアイデンティティがあった上で、英語をできることが大切だと思っています。

―― このケースでは、小さいときから英語を聞かせ続けたそうですが、英語はどう始めたらいいでしょうか?

人との会話を無理なく楽しめる環境が大切

回答:麦谷綾子さん

生身の人間との双方向のコミュニケーションが、学習においても有効であるといわれています。このケースでは、親が無理なく楽しく、自然にそういった環境を子どもに提供できていたと感じました。その上で、根気よく続けたことが大きかったと思います。子どもも、素直にその環境を楽しんでコミュニケーションできたのでしょう。いずれにせよ、無理強いしないのがいちばんの秘けつだと思います。

視覚と聴覚をうまく生かしたトレーニング方法もある

回答:淺間正通さん

小さなころは、聴覚と視覚が非常に鋭敏な時期です。それをうまく生かせば、効果が望めると思います。例えば「チャンツ」です。チャンツとは、英語の単語や文章をリズムにのせて楽しく発音するトレーニング方法です。ピコ太郎さんの「PPAP」はある意味「チャンツ」です。これもひとつの方法だと思います。


小学校までに英語でやっておくべきことは?

娘が1歳になったころから英語教室に通わせています。夫婦ともに英語が得意なほうではありません。積極的に英語が話せるようになってほしいというより、英語で苦労しないように、楽しく英語に接することができればいいと考えています。
でも、小学校の英語の授業が大変だと聞いて心配しています。英語をやっていないとつまずく子が多くて、そこで挫折すると中学校でもついていけなくなると聞いたんです。そんな思いをしないように学んでおけば、学校での勉強も楽しくできるのではないかと思っています。小学校にあがるまでに、英語でやっておくべきことはありますか?
(お子さん2歳3か月のママ)

―― 今の小学校の英語教育は変わってきているのですか?

小学校5・6年で、英語が教科になっている

回答:淺間正通さん

2020年度から実施が始まった学習指導要領によると、それまで小学校5~6年生を対象に行われていた「話す」「聞く」という「外国語活動」が、3~4年生からの開始に早まりました。そして、小学校5~6年生では、教科として「英語(外国語)」を学ぶことになりました。授業数も年間35コマから70コマに増加しています。

学習指導要領(小学校の英語)

さらに「話す」「聞く」に、「読む」「書く」も加わり、成績評価もつけられるようになりました。読む・書くが加わったことで、プレッシャーを感じるようになった方もいると思います。

―― それでは、何をしておけばいいでしょうか?

楽しい形で単語数を増やしてあげる工夫はしてもいい

回答:淺間正通さん

学校で学ぶ英単語は、ある程度インターネットなどでも知ることができます。それを、“チャンツ”に乗せたり、さりげない形で楽しく学んだりしながら、自然に語彙数を増やすような工夫はしてもいいと思います。

何もしないことで新鮮な気持ちで取り組めることも

回答:麦谷綾子さん

私の娘はちょうど小学4年生で、学校での外国語活動を「すごく楽しい」と言っています。娘に英語教育をしてこなかったのですが、かえって新鮮な気持ちで取り組めているようです。ただ、5年生にあがり、教科として評価されるようになったときに、「楽しい」気持ちが「苦手・嫌い」にならないか気になります。英語がいろいろなものを自分にもたらしてくれることを伝えるなどしながら、楽しい気持ちをつなげていけるかどうか、正念場になると感じています。


専門家からのメッセージ

単なる暗記や詰め込みでない、自分で考える「線の教育」で向き合う

淺間正通さん

私は、仕事でフィンランドに行くことが多いのですが、教育現場で「Miksi(ミクシ)」という言葉をよく耳にします。英語でいう「WHY」、「なぜ」と言う意味です。例えば、生徒が正しい答えをしても、「合っている、すごい!」ではなく、「どうやって答えにたどり着きましたか?」「Miksi… Miksi… Miksi…(なぜ、なぜ、なぜ)」の連鎖なのです。つまり、「なぜ」を問うことで、点を線で紡ぐ教育をしているわけです。それは、結果よりも、結果に至るプロセスを大事にする教育です。
親は、つい子どもの学習に即効性を求めてしまいます。でも、もっと長い目でみて、自分に「Miksi」、子どもにも「Miksi」を問いかけながら、自分で考える「線の教育」で子どもと接していけば、きっと伸び伸びとした気持ちで英語と向き合えるのではないかと思います。

本当に育むべきは外国語を学んで何を伝えたいか

麦谷綾子さん

大人になったときに「外国語を使いたい」と思うのは、実現したい何かのためだと思います。伝えたい・知りたい・学びたいがなければ、どれだけ流ちょうに話したり聞けたりしても、そこで終わりです。本当に育むべきは、その言葉を使って何を伝えたいかだと思います。
また、親が主体になるのではなく、子どもが主体になったとき、その子の力が十分に発揮できます。子どもから「これは何」「教えて」と言われたときに、はじめて手助けするような待つ姿勢も重要だと思います。

古坂大魔王さん(MC)

最近、ちょうど娘が「英語で何て言うの?」と聞いてくるようになりました。英語が苦手な親は、一緒に勉強するのがいちばんかもしれませんね。自分が勉強すれば、子どもたちもまねすると思います。

鈴木あきえさん(MC)

まずは、親も子も楽しむことを第一にしたいと改めて思いました。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです