すぐに「疲れた」と言うなど、子どもの体力が心配になることはありませんか? 子どもの体力低下や体力づくりについて、専門家と一緒に考えます。金メダリスト松本薫さんの「親子で体力づくり」も必見です。

専門家・ゲスト:
野井真吾(日本体育大学 教授/教育生理学/子どものからだ研究所長)
松本薫(柔道家 ロンドン五輪金メダリスト/2児のママ)

コロナ禍で子どもの体力は低下している?

コロナ禍以降、長男(6歳)がよく「疲れた」と口にします。公園で遊んだあとや、朝起きてすぐ言うときもあります。ただ、大人が言う「疲れた」と意味が同じなのかはわかりません。
保育園からは、「体や心の面で数年前の子どもたちの姿とは少し違うと感じる。体幹が弱くまっすぐ立てる時間が短い。体を支える腕の力が弱い」と聞きました。また、「散歩に行っても『疲れた』と言う子が多い。できるだけ歩いて移動してください」とも言われています。

そのため、積極的に子どもを外に連れ出して体全体を使って遊ばせ、家の中でも運動できる環境にしています。
コロナ禍で、子どもたちの体力が本当に低下しているのでしょうか。体力低下が起きているのであれば、家でどのようなことをしてあげたらいいのでしょうか。
(お子さん6歳・3歳11か月・1歳5か月のママ)

松本薫さん

たしかに子どもは「疲れた」と言いますよね。柔道教室でも、先生が「最近の子どもは体力がない」と言うのをよく聞きます。

「体力・運動能力調査」では、子どもの体力低下がみられる

回答:野井真吾さん

「体力・運動能力調査」という、スポーツ庁が行っている全国調査があります。みなさんも「スポーツテスト」を経験したことがあると思います。その結果によると、この2~3年は明らかに数値が低下しているので、コロナ禍の影響はあると思われます。

子どもの「疲れた」は、コロナ禍前から

回答:野井真吾さん

ただ、子どもの体に関する保育現場や教育現場の先生方の実感を尋ねる調査によると、すぐ「疲れた」と言う子どもは、コロナ禍以前からみられています。例えば1995年の調査で、「すぐ『疲れた』という子どもが最近増えている」の割合は、保育所で76.6%、幼稚園で73.9%です(※)
※出典:野井真吾ほか 子どもの"からだのおかしさ"に関する保育・教育現場の実感 -「子どものからだの調査2010」の結果を基に-

子どもの「疲れた」は「防衛体力」の低下が原因と考えられる

回答:野井真吾さん

子どもが「疲れた」と言うのは、「体力」という言葉でイメージしやすい、運動の場面で発揮される「運動能力」や、筋力・敏しょう性・持久力などの「行動体力」ではなく、「防衛体力」と呼ばれる体力の低下が関係していると思います。

「防衛体力」は、体を守るために必要とされる体力で、細菌やウイルス、気温の変化など、外からの刺激に対して体の機能を一定に保とうとする体力です。例えば、かぜが治らない・疲れがとれないときに「体力がない、体力が落ちた」と言うことがありますが、この体力は筋力や持久力のことではありません。「防衛体力」における自律神経の不調・免疫力の低下などが原因と考えられるわけです。

―― どのようなことに気をつけたらいいでしょうか?

生活リズムを整えて「防衛体力」を保つ

回答:野井真吾さん

「防衛体力」を元気にする方法はいろいろありますが、中でも生活リズムを整えることが大事です。生活リズムを整えるためには、メラトニン(睡眠導入ホルモン)が鍵になります。

メラトニンは、眠りを誘う働きを担っているホルモンです。メラトニンを分泌させるために必要なのは、日中に「太陽の光をたくさん浴びる」「体を動かす」こと、つまり、外遊びをすることです。外遊びで分泌されるセロトニンという物質がもととなり、夜、暗闇を感じるとメラトニンが作られます。これが寝つきをよくし、早寝早起きにつながります。
生活リズムのために、よく「早寝・早起き・朝ごはん」というスローガンが使われますが、これを実現するためには「光・暗闇・外遊び」が大事になるのです。

―― 生活リズムが重要なのですね。松本さんは、生活リズムに気をつけていますか?

松本薫さん

そうですね。私は朝5時に起きてランニング、夫を6時、子どもを6時半に起こしています。夜は10時に寝ています。そんな生活をほぼ毎日しています。

ルーティンは、生活リズムを整えるポイントになる

回答:野井真吾さん

すぐ寝ることができるのはメラトニンがしっかり分泌されている証だと思います。また、毎日同じルーティン・決まった手順をすることは、生活リズムを整える大事なポイントになります。


体を十分に動かす機会を作ってあげられない… どうすればいい?

ふたごの子どもたち(2歳11か月)の足の筋力やバランス能力が気になっています。よく転んでしまうんです。本当は、頻繁に公園に連れ出して運動させてあげたいのですが、親ひとりのときは、それぞれで遊ぶ子どもたちを見きれないので難しいと感じています。3人目が生まれてからは、ほとんど家にいるような状況で、子どもたちの体力不足が心配になっています。
そのため、家の中でお馬さんごっこをしたり、親の腹筋をまねして遊んだり、遊びながら体を動かすことをしています。ただ、今の運動は十分ではないと感じています。また、子どもたちがやりたいように楽しく遊ぶというより、大人がやっていることに参加させている感じなので、幼児期に必要な運動ができているのか心配です。
(お子さん2歳11か月のふたご・0歳のパパ・ママ)

すくすくファミリー(お子さん6歳・1歳のママ)

子どもたちに年齢差があるので 2人一緒に遊びに行くのが難しいです。弟に手がかかるため、兄に十分な外遊びの機会を与えられていません。

鈴木あきえさん(MC)

子どもが2歳差でも、やりたいことや体力・能力がそれぞれ違うので、親ひとりで公園に連れて行くのは大変だと思います。もっと年齢差があると、それ以上に大変ですよね。外遊びが大事だとわかっていても、産後やつわりのときなどで連れて行けない人もいますよね。

―― 松本さんは、家で特別なレッスンなどをしていますか?

「おうち教室」で体力づくりをする

松本薫さん

家では、私が「ママちゃん先生」という先生になって体操を教える「おうち教室」をしています。子どもはまねをすることが大好きなので、「自分がやってる動きをまねてもらおう」と思ったんです。

まず、「ママちゃん先生の体操教室、やる人?」って呼びかけると、子どもたちは「はーい!」と元気よく答えてくれます。そこからスタートです。

基本的に私の動きを、子どもたちにまねをしてもらいます。例えば、床に貼ったテープを橋に見立てて「一本橋を渡ります! 後ろからまねしてついてきてください」と声をかけるんです。

ほかにも、壁をタッチしながら行ったり来たりしたり、ジャンプしながら回ったり、いろんなことをまねしながら運動するわけです。子どもたちは、笑い声をあげながら、楽しそうにまねしてくれます。ときどき、子どもが「先生やりたい!」と言うので、先生になってもらうこともあります。

―― 野井さん、外出できないときは、明るいうちにカーテンを開けておうちで運動するのはどうですか?

外遊びができないときは、室内でも光を感じる場所で

回答:野井真吾さん

いいと思います。雨の日も外出できませんよね。太陽の光が大事なので、昼間はできるだけ光にあたるようにします。日当たりのいい部屋がいいですね。体で昼間を感じることがポイントです。光を感じることで、セロトニンが分泌され、それがメラトニンの分泌につがり、寝つきをよくし、早寝早起き、生活リズムが整うことにつながります。


“ママちゃん先生”松本薫の「おうち教室」

松本薫さんの「おうち教室」。家の中でもできる体力づくりを教えてもらいました。

初級編 リズムジャンプ


※2歳くらいから

初級編は「リズムジャンプ」です。親子でやってみましょう。
手拍子とともに、「いち、にっ、さ~ん!」と数えながらジャンプします。

「いち、にっ」は、小さなジャンプで。

そして、「さ~ん!」で、大きなジャンプをします。

小さい動きから大きい動きをするのは、意外と難しいものです。「さ~ん」で、全身を使って大きく開くところがポイントです。小さな子は、小さなジャンプだけでいいので、手拍子しながらピョン・ピョン・ピョンとジャンプしてみましょう。

中級編 片足立ち

 
※2歳くらいから

中級編は、バランス感覚を養う「片足立ち」です。子どもたちに動きを見せて、まねてもらいましょう。「♪まねっこドンドン」など、うたを歌いながらするとたのしいですよ。

まずは、片足立ちになって、両手を大きく広げる「フラミンゴ」です。この姿勢をキープします。

そこから、上半身を前に傾け、脚を後ろに上げて「飛行機」になります。バランス感覚が養われます。

上級編 どうぶつのまねっこ


※2歳くらいから

最後は上級編、どうぶつのまねっこです。

動物は、いろいろな動きをしていますが、その中でも大事なのが股関節です。パパ・ママも一緒に、股関節を動かして、体全体を動かしましょう。片足立ちと同じように、「♪まねっこドンドン」など、うたを歌いながらするとたのしいですよ。

まずは「トカゲ」のまねっこです。腹ばいになって、腕と脚を左右交互に大きく動かしながら前進します。
前進できたら、後ろにも進んでみましょう。後ろに進むほうが難しいですよ。

次は、難易度が上がります。おなかを床につけずに進む「ワニ」のまねっこです。4歳ぐらいからできるようになってきます。
体のバランス、腹筋、腕と脚の筋力、股関節の動きが必要になります。前進できたら、後ろにも進んでみましょう。腕と脚の動きがバラバラになりがちですが、たのしむことができればOKです。親子一緒に、無理のない範囲で行ってください。


―― 野井さん、この「おうち教室」は、子どもの体力づくりとしていかがですか?

ワクワク・ドキドキが非日常を作り出す

野井真吾さん

子どもたちが喜んで何かをするためには、ワクワク・ドキドキが大事だと思います。松本さんの「おうち教室」には、その要素があり、たのしい非日常を作り出していると感じました。
ワクワク・ドキドキしているから心も安定します。精神的な満足感があれば、「疲れた」という言葉にはならないと思います。「疲れた」という言葉の裏には、「つまんないよ」といった不満があるのかもしれませんね。

古坂大魔王さん(MC)

少し一緒に「まねっこ」で動いただけでも「やりたい」と思って腰が軽くなりました。楽しくて、体力が上がったように思います。松本さんが一番楽しそうでしたね。

鈴木あきえさん(MC)

たしかに、体だけではなく、心もワクワク・ドキドキが動いていると感じます。「やりたい力」は大事だと思いました。親は、どうしても「子どもにつきあってあげてる」と思ってしまうときもありますが、一緒にワクワク・ドキドキしたほうがいいですよね。


こどものホンネ
最近、疲れてる?

子育てでわからないことは、子どもに直接聞いてみよう!

「こどものホンネ」のコーナーでは、SNSの子育て動画で人気の木下ゆーきさんがホンネハンターになって、「こどものホンネ」に迫ります。今回は「最近、疲れてる?」と、保育園、年長さんの子どもたちに聞いてきました!

―― 最近、「疲れたことあるよ」って人はいますか?

  • (子どもたち)はーい!!

何と、話を聞いた8割の子どもたちが「最近、疲れている」と答えました。

―― みんなは何に疲れているの?

  • ずっと走って、暑くて、汗がダラダラで疲れた。
  • パズルのおもちゃで遊んでいたとき、頭の脳が働いたから疲れた。
  • お昼寝が嫌いで疲れる。眠れないときは、目を開けてお昼寝が終わるまで待つ。

お昼寝するより、もっと遊んでいたいようです。

―― 疲れたときに元気になるにはどうする?

  • お茶とかお水とか飲めばいい。
  • 日陰のベンチで座ったり、休憩すれば疲れがとれる。
  • 肩トントンする。あと腰をモミモミしてもらったり。僕もパパにマッサージしてあげる。

みんなの話を聞いていたら、疲れも吹き飛びそうです。これからも元気いっぱい過ごしてね。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです