指をしゃぶる。力が入ると、なぜか目をとじる。多くの子どもにみられる不思議なクセ。
どうやってやめさせたらいいの?
そもそも、やめさせたほうがいい?
視聴者のみなさまから届いた動画を見ながら「子どものクセ」について考えます。

専門家:
榊󠄀原洋一(お茶の水女子大学名誉教授・小児科医)

このクセやめてほしい、どうしたらいい?

【爪をかむ】

弟を妊娠した頃から「爪をかむ」クセが始まりました。爪がガタガタになってしまうので心配です。気付いたらすぐに注意しているのですが、なかなかやめてくれません。
(2歳6か月の男の子をもつママより)

【歯ぎしり】

2年前から「歯ぎしり」するようになりました。毎晩ギリギリしています。何かストレスがあるのかと心配です。
(3歳10か月の男の子をもつママより)

【指しゃぶり】

生後6か月頃から「指しゃぶり」をしています。眠いときはもちろん、ふだんからしていることがあります。歯科医から5歳までにやめないと歯並びに影響すると言われました。どうにかやめさせたいと思っています。
(3歳8か月の男の子をもつママより)

【唇をなめる】

弟が生まれた頃から「唇をなめる」クセが始まりました。口のまわりが荒れてしまうので、なんとかやめさせたいと思っています。
(3歳の男の子をもつママより)


幼稚園の入園前に「指しゃぶりをやめないと、お友達と手をつなぐときに、汚くていやがられるよ」と声かけをしたら効果があったのですが、実際幼稚園に入ってみるとお友達と手をつなげなくなってしまって。かわいそうなことをしてしまったなと思いました。どういう声かけをしたらよいのでしょうか?

指しゃぶりはひどくなければ、やめさせなくてもいい

回答:榊󠄀原洋一さん

「指しゃぶり」は乳幼児のクセの中で一番多く見られるクセのひとつです。
ですが、どうして指しゃぶりをするのかは、わかっていません。赤ちゃんがお腹の中にいる頃から、指しゃぶりをしている貴重な写真もあります。胎児の頃から見られるので、おそらく指をしゃぶる感覚が、安心するようなことがあるのだと思います。ほぼ唯一心配されるのは、指しゃぶりが続くと歯並びに影響するということです。

ですが、歯科医は歯並びについて強く言いますが、小児科医はやめさせなくてもいいと言うことが多いです。
歯科医が心配しているのは、ほんとに時間が長い頑固な指しゃぶりです。特に寝ている間の指しゃぶりです。
この場合、悪ければ歯並びに影響が出ることがありますが、それは本当に少ないケースです。

声かけも難しく、敏感なお子さんだと「お友達と手をつなぐと汚いよ」と言うと、逆にそれを気にしてしまうこともあるので、無理に言わずに「洗えばいいんだよ」と言って安心させてあげましょう。

やめさせなくてもいいとはいえ、やめさせたい場合はどう声かけしたらいい?

しているときに叱らず、していないときに褒める

回答:榊󠄀原洋一さん

クセをしているときを叱るのではなく、しないでいたら「えらいね。指しゃぶりしてなかったね」というように褒めてあげましょう。本人は褒められることでやめていくと思います。
わざとやっていることではないので、その点に気を付けましょう。

「唇をなめる」クセをやめさせたくて「やめたほうがいいよ」と言ったのですが、余計頻度が上がったような気がします。どういう声かけで、意識させずにクセをやめさせることができるでしょうか?

注意するのではなく、他に気を向けさせる

回答:榊󠄀原洋一さん

「指しゃぶり」や「唇をなめる」などは無意識にやってしまいます。そのような行動のことを、英語では「habit(習慣)」と言います。自分で意識して行う行動と、ひきつけのような無意識の行動との間にあるような、中間の意識の状態にある行動です。
クセをしているとき自分で行動をやめることはできますが、気(意識)が向いていないと同じことをしてしまいます。

声かけは、なめているときに「やめろ」と注意するのではなく、他に気を向けさせるようなことを言いましょう。そちらに意識が向いてやめると思います。「自分は悪いことをして叱られている」と思わせないことが大事です。

また、口のまわりをなめるクセも多く見られます。口のまわりが荒れてしまうのはよくないので、なめてもいいような保湿剤でケアするなどの対応をしてあげましょう。

クセの原因がストレスなのか、下の子が生まれたことで愛情不足を感じているのか、そういうことは関係ありますか?

調査によると因果関係はありません

回答:榊󠄀原洋一さん

すべてのクセではないですが、「指しゃぶり」などのクセを持つ子どもたちに、心理テストや聞きとりテストをした調査があります。調査の結果、「クセ」と「ストレスや愛情不足」には因果関係がないと結論付けされました。

「爪かみ」や「歯ぎしり」も心配ないのでしょうか?

爪かみも、していないときに褒めよう

回答:榊󠄀原洋一さん

「爪かみ」は爪がなくなってしまう場合もあるんですが、元からなくなることはありません。爪かみのクセも、していないときに褒めてあげましょう。

歯ぎしりは不安が原因ではないし、歯がすり減ることもありません

回答:榊󠄀原洋一さん

「歯ぎしり」に関しても、心理テストを行った研究があります。その結果、歯ぎしりしている子どもが、他の子に比べて不安であるということはないと分かっています。全く関係がないのです。

もうひとつ、歯がすり減るのではないかという話がありますが、これも調査があります。その結果、歯ぎしりしていても、そんなに歯はすり減らないと分かっています。どうしても心配な場合は、寝るときにつけるマウスピースなどで対応してはいかがでしょうか。


眠くなると見られる不思議なクセ、このままで大丈夫?

【首ふり】

生後半年頃から、眠くなると首を左右に振るようになりました。1歳半を過ぎた今では、振り方に変化をつけるなどバリエーションも豊富に。何歳まで続くのか気になっています。
(1歳6か月の男の子をもつママより)

【耳たぶを触る】

眠くなると耳たぶを触ります。自分のだけではなく、ママやパパの耳はもちろん、おじいちゃんの耳たぶまで。かわいいと思う反面、ちょっと痛いのが悩みです。
(1歳11か月の男の子をもつママより)

【髪の毛を引っぱる】

眠くなると髪の毛をおもいきり引っ張ります。あまりに強く引っ張るので、自分でびっくりして目を覚ますことも。まだ言葉で言ってもわからないので、どうやってやめさせるか悩んでいます。
(11か月の男の子をもつママより)

【眠いとテンションがあがる】

眠くなるとテンションが上がって笑いながら走り回ります。午後2時のお昼寝時間を過ぎても眠れないときによく見られ、ひとしきり騒いだ後に「眠い」と言って寝ます。ケガをするのが心配で、やめてほしいと思っています。
(3歳1か月の男の子をもつママより)


眠くなると走り回るクセ。何か理由があるのでしょうか?

眠くなると自分を抑える気持ちが薄れ、感情が開放される

回答:榊󠄀原洋一さん

私たちは起きているとき、周囲の様子を見たり、緊張したり、自分自身を自制しています。子どもも同じで、いい子にしたりお行儀よくしたりしています。眠くなってくると、そのような抑えが弱くなります。自分を抑制する気持ちが薄れて、自分の感情が出やすくなるわけです。
大人がお酒を飲むと陽気になることと似ています。あれは活性化しているのではなく、ふだん抑えている部分が出ているわけです。

つまり、眠くなると自分の感情が開放されるわけです。感情が出てきたため、笑うようになるのではないかと思います。
保育園ではあまり見られないというのは緊張感があるからではないかと思います。

家ではどんどん走り回らせていいのではないかと思います。

首を振る、耳たぶを触る、髪の毛をひっぱるのは、どのようなことが考えられますか?

共通点は自己刺激

回答:榊󠄀原洋一さん

アメリカの教科書に、これら3つのクセについての記述があります。国を問わず見られるということです。

これらのクセの共通点は自己刺激です。自分自身をなんらかの形で刺激することです。
眠くなると出やすくなるのは、抑制していた部分が開放されているからではないかと思います。

根本的に何なのかは分からないのですが、「無くて七癖」ということかもしれません。


動きが気になるクセ、このままで大丈夫?

【体をクネクネ】

仰向けで全身をクネクネさせるクセがあります。かわいらしいので特に対応していないのですが、どうしてこんなことをするのか、ときどき心配です。
(9か月の女の子をもつママより)

【大声を出す】

テンションが上がると、ものすごく大きな声を出します。本人は楽しいのか、所かまわず大声を上げるので悩んでいます。
(2歳3か月の男の子をもつママより)

【爪先あるき】

1歳半を過ぎた頃から、爪先立ちで歩くようになりました。家の中だけではなく、靴を履いているときにもします。骨の発達に影響しないか心配です。
(1歳11か月の男の子をもつママより)

【片足トントン】

新生児の頃から、片足をトントンしています。テレビを見るとき、遊ぶとき、食事のとき、どんなときでもトントンしています。大きくなれば自然におさまるのでしょうか。
(9か月の男の子をもつママより)

【かみつき】

パパやママに突然かみつきます。とにかく痛いのでやめさせたいです。何か心に不安があるのでしょうか?
(2歳3か月の女の子をもつママより)


かむクセですが、集団生活に入ったとき友達をかんでしまわないか心配です。また、かまれたとき「痛い!」と振りほどくようなことをすると、拒絶されたと思って心が傷つかないか心配です。

愛着関係があれば叱っても大丈夫

回答:榊󠄀原洋一さん

7~8か月は、歯固めの頃で物をかんだり、おもちゃをなめたりしますね。そういうような形で、なめたりかむといった行動は本質的なものです。

おそらく、強くかむようになったのは、自分の親をかむと反応がすごく返ってくるからではないでしょうか。2歳頃だと、まだ相手の痛みが実感としてわかりません。「痛いよ!」と親がびっくりすることはわかっても、痛みはわからないのです。

そのときに、はねつけられたから愛着関係ができないということはありません。基本的な愛着関係があれば、叱ってもかまいません。

相手の痛みがわかるようになるのは、4歳くらいです。わかるようになってから「いけないんだよ」と、言い続ける必要があると思います。

やめさせたほうがいい、気になったクセはありますか?

特に心配なクセはありません

回答:榊󠄀原洋一さん

医者として心配なものはありません。

「爪先歩き」は、子どもの骨が柔らくて、まだ固まってないから心配と思うかもしれませんが、筋肉でバランスをとっているので心配ないと思います。

自閉症の子どもで、爪先歩きをする子は多く見られます。そのため「爪先歩きばかりしてるけど自閉症なんでしょうか?」と聞かれることもあります。ですが、自閉症に限らずよく見られるクセですので、そのような心配は必要ありません。
爪先歩き自体はやめさせなくても大丈夫です。
日本だけでなく海外でも報告されているクセですよ。


急に始まったきつ音、どう対応したらいい?

今まで普通に言えていた単語や、ちょっとした言葉が、急に「マ、マ、マ、ママがくるから」など、どもるようになりました。ネットで調べると「愛情不足」や「叱りすぎ」などと書いてあり、「私のせいで」と不安で毎日泣いてしまいます。
きつ音は病院にいくべきか? それとも見守っていていいのか? そもそも、なおるものなのか? ぜひ教えてください。
(2歳3か月の男の子をもつママより)

5歳をすぎて心配なら、専門機関で見てもらう

回答:榊󠄀原洋一さん

調査によると、幼児期から小学校へ上がるまでぐらいの期間で、約5%の子どもにきつ音が見られます。きつ音は、結構多く見られるのです。

きつ音は、緊張が高まると出やすい。ただし、その子が心理的なストレスがあるから出るということはありません。愛情不足や叱り過ぎが原因ということもありません。

だんだん言葉も増えて、お話の経験をすることによって、緊張がなくなり出なくなっていきます。大人になってもきつ音が残るのが約1%です。

一部のお子さんは、5~6歳になっても残ることがあります。そのような場合は、きつ音の治療プログラムがあるので専門機関に相談するのがいいでしょう。

きつ音は自分でやめようと思ってもやめることができません。例えば指しゃぶりは、そのとき自分の意志でやめることができます。きつ音はそうではありません。似たもので「チック」というものがあります。目をパチパチとしたり、咳払いをする、体を動かすなどです。これも自分自身で努力してもやめることができないものです。

「きつ音」や「チック」で、親が最初に注意しないといけないのは「決して叱らない」ことです。その度に注意するのもよくないと言われています。
第1原則はなおそうとしないことです。きつ音やチックが出たら知らないフリをしましょう。
もちろん心配であれば、小児科など専門の方に相談するのがよいでしょう。


すくすくポイント
乳幼児の自慰行為について

お子さんが大事なところをさわってモジモジ。それって、もしかして・・・と心配になりませんか?
こんなときどうすればいいのか、助産師の岩佐寛子さんに伺いました。

子どもの自慰行為には意味があるの?

思春期以降の自慰行為とは違って、ただ単に気持ちいいから触るだけで性的な意味合いはありません。クセのひとつで、子どもの成長過程のひとつです。

心理学的には、自我の形成に重要な役割を果たすとも言われています。

見かけたら、やめさせるべき?

気持ちいいことを簡単にやめられないのは大人も同じですよね。
無理にやめさせる必要はありません。

親は子どもの自慰行為から目をそらしたくなりますが、無理にやめさせても、子どもはどうしてダメなのか分かりません。
声かけを工夫して自然と減らしていけるとよいと思います。

どういう声かけをすればいい?

強く叱って、性への罪悪感や偏見、タブー感を植えつけないよう気を付けることが大切です。行為自体を否定するのではなく「きれいな手で触ろうね」「みんなで遊ぶときはやめようね」のような声かけをしましょう。
子どもが行為から他へ興味をうつせるような、運動や手遊びに誘って気をそらせると意識が他に向くと思います。

<ポイント>

幼児の自慰行為は、無理にやめさせる必要はありません。
でも、人前ではやらないように、少しずつわからせていきましょう。
気をそらせてあげるような、声かけの工夫が必要です。

※記事の内容や専門家の肩書などは放送当時のものです